流れるように同居
という訳でメニューからハウス入室のボタンをタップ。シンラさんも問題なくハウスに入ることが出来た。
「……ハウジング機能か。なるほど、ウチってのはハウスの事だったのな」
「そうだよ。3つ目のクエスト報酬……に、なるのかな? シンラさんのクエスト報酬はなんだったの?」
「鍛治に使えるキットとか、そこら辺だな。流石にまだハウスそのものが貰える、なんてことはなかった」
「サモナーだけ例外なのかな……。あんまりハウジング機能解放されたーって声も聞かないよね」
サイトなんかでチェックはしているが、ハウジング機能についての書き込みは少ない。今日発売されたばかりのゲーム、ということも影響しているかもしれないが。
「まぁ気にしても仕方ないか。シンラさんには合鍵を渡しちゃうから、この冷蔵庫に納品してくれたら、後払いにはなっちゃうんだけど納品してくれた分だけお金を振り込むね。お金はフレンドの機能で受け渡すことができたはずだから」
「あんま見ず知らずの人に合鍵とか渡すの良くないと思うが、まぁこればっかりは助かる」
「アイテム保管庫には鍵かけてあるし、シンラさんなら大丈夫かなって。あ、今はここにいないけど、契約モンスターもここに待機するはずだから、間違って攻撃しないようにね」
「その点は大丈夫だ、と思う」
まだ出会ったばかりで不安ではあるが、対策はしっかりと取ってあるし、家をずっと空けておくよりかは泥棒対策にいいだろう。このゲーム、ハウスを長期間空けていると泥棒に入られることがあるので、油断ならないのだ。アイテム保管庫にロックが掛かっていても、スキルで解除される心配がある。
「なんならシンラさんのハウスとして使ってもいいよ? 部屋あまってるし」
「本当か!? 鍛冶場になっちまうが、いいのか? ……いや、さすがにそれは、申し訳ないというか」
「いいのいいの。家を空けてる間に泥棒に入られた時が困るから。その点、シンラさんならフレンド登録してあるし、盗まれたら被害届け出すだけで済むからね」
「それもそうか。じゃあ、ありがたく受け取らせてもらうな。この借りは必ず返す」
「えへへ、いい武器をまってます」
シンラさんが鍛治職の人なので、それを目当てにこの話を持ちかけた節もある。
「俺はここで武器が作れて、ユキはその武器を対価として受け取れる訳だ。こういうのを利害の一致って言うんだったか?」
「害が今のところないけど、そうだね。でも、それを抜きにしてもシンラさんとは仲良くやっていきたいと思うから、これからもよろしくね」
「あぁ、よろしくな」
という訳でシンラさんのお肉を冷蔵庫へと納品。納品した数はメモしておいて冷蔵庫に貼り付けておく。時間のある時にステーキに変えて、シンラさんにお金を払わなければならない。
「まぁ料理は時間かかるだろうし、時間の空いてる時で構わないぞ。ってか、よく料理スキルとれたな。まだ取得条件も判明してないだろ?」
「あ、判明してないんだ? まぁ、一から検証して自力で生やしたよ。スキルポイントを消費したら取れると思ってたから、素材もたっぷりあるし節約しようと思って」
料理スキルを取得した経緯についてまだ話していなかったので、手短に説明する。
「ってことは俺も料理すれば取得できるってわけか」
「まぁそうなるけど、料理スキルのサポートがないから自力で作らなきゃいけなくて。リアルでの経験が必要にはなるかな」
「なるほどな。今度時間がある時にやってみるからキッチン借りてもいいか?」
料理できる人が増えることは良いことなので、もちろんと快諾しておく。
シンラさんが料理できるようになれば食材を納品制度にする必要もなくなるし、一石二鳥だ。
「じゃあこれ、シンラさん用のアイテム保管庫ね」
「えっ、いいのか? あれ高かったはずじゃ」
「いいのいいの。ステーキで思いのほか稼げてるからさ」
「……分かった。ありがたく受け取っておく」
複雑そうな顔をしながらも、自分のインベントリからアイテムを預けていくシンラさん。
「素材の交換はまた必要になったときでいいかな?」
「あぁ。次の行き先は決めてるのか?」
「んー、クエストとか見て決めようかな、って思ってる」
「それもそうか。じゃあ、行くか」
冒険者ギルド近くでハウスにアクセスしたので、退出をしてそのまま冒険者ギルドに向かう。
雑談を交わしつつ、クエストの内容を見比べながら決めていく。
受けるクエストはなるべく同じエリアにすることと、あまり移動に時間がかからないエリアであること、出現するモンスターの種類や強さなどを考慮しながら選んでいく。
「エリアは精霊の谷がいいかな? それともコツミール湿原がいいかな」
「コツミール湿原より精霊の谷のほうがクエストは多いが、報酬やら難易度やらを考慮したらコツミール湿原の方がよさそうだぞ」
「じゃあコツミール湿原にしよっか。精霊の谷も気になるから、また今度行こう」
……やはり装備のせいか、冒険者ギルドに入ると人目を感じてしまう。これならボロ服の方がまだ目立たない。
「あっ、そういえばシンラさんの装備は……どうする? ボロ服だとコツミール湿原はきつい気がするけど……」
「んー、まぁ今んところ鍛冶道具に取られちまって金がねぇからな……。素材やらを集めて自分で作ろうかとは思ってる」
「……女物の装備なら、あるけど」
「……ちょっと迷う提案やめてくれよ」
分かるよ。結局ゲームだし、女装でも性能いいなら……ってなっちゃうよね。僕としては味方が欲しいだけなんだけどさ。
「今思えばシンラさんは体格がごつい訳でもないし、女装しても違和感ないと思うけどなぁ」
「やめろって。ほんとに迷っちまう……」
いいぞいいぞ〜、もっと迷え〜。って、流石に本人が嫌なら無理には勧めないけどね。
そんな話をしながらも、コツミール湿原へと向かう。




