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転校生ペン子さんと野獣と化したクラスメイトたち!

 そして、数分後。ガラガラとドアが開いて、担任が入ってくる。

 年は四十二で、すでに頭が禿げ上がっていて、左目の上下に刀傷みたいなのがついている。

 なんというか歴戦の剣豪といった雰囲気をまとっている。剣道部の顧問だ。


「……突然だが、今日から転校生が来るからことになった。百合宮さん、中へ……」


 担任に呼ばれて、廊下からペン子さんが入ってくる。

 その瞬間、教室が異様などよめきに包まれた。


「お、おおおおおおおーーーー!」

「女神だ、我がクラスに女神が来てくださったーーーーーー!」


 ペン子さんの姿を見た男子たちから一斉に歓声が上がる。

 まぁ、ペン子さんの容姿はクラスで一番……どころか、校内でもトップクラスだろうからな。やっぱり、人気が出るよな。

 ペン子さんはというと、驚いたようにビクッと身体を震わせて、恥ずかしそうに俯いてしまった。


「おおおお、かわゆい、かわゆいのぉおおお! 眼福じゃ、眼福じゃあああ!」

「私女だけど、マジつき合いたいんですけど!」

「……お前ら落ち着けぃ! 転校生が怖がってるだろうが。鎮まれぃ!」


 教師が一喝したことによって、ようやくのことでクラスの騒ぎは収まった。この担任じゃないと、たぶん学級崩壊しているよな、俺らのクラス……。


「そういうわけで、本日から我がクラスで一緒に学ぶことになった百合宮さんだ。百合宮さん、自己紹介を」

「は、はいっ! そ、その……百合宮筆子(ゆりみやふでこ)です! そ、その、牝野さんの従姉妹で、一緒に住んでいます!」


 そして、いきなりペン子さんはすべてをぶっちゃけた。


「なにぃいいいいいいいいいいいいっ!?」

「牝野の従姉妹だとぉおおおおおおおお!」

「あぁあああんんん!?」

「マジ激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームなんですけど!?」


 殺気立った男子(一部女子も含む)から、思いっきり睨まれる。

 ……こ、こえぇっ! もとからアレなクラスメイトたちだったと思ったが、ここまでだったとは……。


「ええい、静かにせんか、貴様ら! 今は転校生の自己紹介中だろうが!」


 そこで、今度は乙女が一喝する。

 相変わらずクラスメイトをクラスメイトと思わない風紀委員っぷりだ。朝から殺伐としすぎだが。


「え、ええと……そ、その……まだこちらに来たばかりで、わからないことだらけですが、よ、よろしく……お願いいたします」


 若干、涙目になりながら、ペン子さんはぺこりとお辞儀をした。


「ふむ、では……百合宮さんの席は、男川の隣だな。頼んだぞ、男川」


 窓際の一番後ろの席に乙女は座っている。


 男子が一人少ない関係で乙女の隣は誰も座っていなかったのだが、そこへペン子さんが座ることになるらしい。乙女のすぐ側なら、肉食獣と化したクラスメイトどもも迂闊にちょっかいを出せないだろう。


 一方で、乙女のすぐ隣ということは、ペン子さんの秘密がバレてしまう危険性もあるかもしれない。乙女のやつも、まさか昨日のペンギンの着ぐるみに入っていたのがペン子さんだとは、すぐには気づかないと思うが。

 ……うーむ、やはり一筋縄ではいかない学園生活になりそうだ。


 ともあれ、その後のホームルームと、一時間目の現代文の授業は滞りなく進んだ。そして、問題は、休み時間である。


「ふっでっこちゅわ~ん♪ 俺が手取り足取り腰取り校内案内してやるよーん!」

「あの、サインください! 握手も! あと記念撮影もいいっすか!? もちろん、お金払います!」

「目の保養の時間だあああああああああああああああああああああああああああ!」

「マジかわいすぎでしょ! 私女だけど、マジ押し倒したいんですけど!?」


 期待していた乙女の抑止力だが、まったく効果がないようだった。

 肉食獣と化したクラスメイドどもが、一斉にペン子さんに殺到してくる。ご覧の通り、我がクラスの民度はかなり低い。


「あ、あのっ、そ、その、わわっ……」


 涙目になって、うろたえるペン子さん。俺らよりも年上なのに、まったく余裕が感じられない。

 そりゃ、ずっと女子校だったっていうんじゃ、偏差値高めのお嬢様学校だったってことだろうからな……。我が高校のアホさはカルチャーショックだろう。


「貴様ら、恥というものを知らんのか! 転校生が困っておろうが!」


 そんな中、学年トップの成績でもあらせられる乙女が肉食獣どもを制する。

 こいつも、なんでこんなアホ高校に来たのだろうか。余裕で進学校に行けたろうに。ちなみに、学年二位は俺だ。


 そして、俺がなぜこのアホ高校に来てしまったかというと、家から近いってだけの理由だ。中学三年間帰宅部だった俺には、帰宅部のエース(自称)としてのプライドがあった。

 高校に入ってからも充実した帰宅部ライフを満喫するために、あえてこのアホ高校を選んだのだ。当時の担任が何度も止めたにもかかわらず。中三の頃の俺を、ぶんなぐりたい。


「ちぇっ、いーじゃねーかよ、転校生と親睦を深めたってさ~」

「握手一回五百円払いますから! あ、写真は一枚千円払います!」

「見るだけなら、タダ。見るだけなら、無料、見るだけなら、フリーダム! ふぉおぉおおおおお!」

「っつーか、あんたさぁ、なに仕切ってんの? ちょーむかつくんですけど!」


 朝に続いて、乙女とクラスメイトの雰囲気が険悪なものになる。

 乙女も、よくやるよなぁ……。俺なんか、この連中とまともにやりあう気なんて起こらない。

 多勢に無勢すぎるっ。


「ともかく、風紀を乱すことは私が許さん! 転校早々、登校拒否にでもなられたら困るからな!」


 それでも、乙女は風紀委員長としての威厳をもって、クラスメイトどもに命じる。それを受けて、しぶしぶと肉食獣どもは席に戻っていった。


 そのあとも授業が続き(寝てる奴や、弁当食ってる奴、漫画を読んでいる奴、ゲームをやっている奴がほとんどだが)、昼休みになる。

 俺はいつも購買でパンを買って、弥生と一緒に中庭で食べている。


 今日は、ペン子さんもいるし、一緒がいいだろう。まだ、校内のことわかってないだろうし。

 というか、こんな教室でほっとけない。

 俺は、並々ならぬプレッシャーを感じながら、ペン子さんの席へ移動する。


「あ、あの……昼食どうしますか?」

「あ、は、はいっ……よ、よろしければ、ご一緒させてくださいっ」


 クラスメイトからの視線が痛い。例えるなら、ライオンに囲まれている中で兎同士が会話しているみたいな気分だ。


「待て。私も貴様らと同行する。ちょっと、問いただしたいことがあるのでな」


 そこで、乙女からそんなことを言われる。

 ま……まさか、なにか感づかれたか?

 だが……まぁ、ここは素直に従っておいたほうがいいだろう。ここで断ると、余計に怪しまれそうだからな。


「わ、わかった。じゃ、四人で食べるか」

「……ねー、早くいこーよぉ。ボク、お腹すいたよぉ~」


 そして、音もなく俺の背後に忍び寄っていた弥生から、ズリズリと頬ずりされる。

 こいつ、なんでこんなにスキンシップが大好きなんだ! 色々と揺らぐからやめてほしい。

 ちなみに、学校内美人ランキングでいえば、一位ペン子さん、二位弥生、三位乙女だと思う。

 なんてことだ、俺の周りの人物だらけじゃないか!


「けっ、いーなー、牝野の奴」

「双木も、あれで男じゃなかったらなー」

「俺……もうBLに走ろうかな……」


 聞きたくないクラスメイトのつぶやきを聞きながら、俺たちは教室の外へ出ることにした。


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