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朝食と通学とペン子さんの学生時代

「ん……むむ……」


 目が覚めたときには、朝になっていた。


 ペン子さんの布団を見てみると、そこはもぬけの殻、部屋の片隅には、ペンギンスーツが立てかけてある。やはり、昨日のことは夢じゃない。


「っと……時刻は……ああ、六時半か。そろそろ、起きないと」


 俺は目をこすりながら、階段を下りていく。すると、みそ汁のいい香りが漂ってきた。


 台所に行ってみると、そこにはエプロン姿のペン子さんがいた。そして、律儀にも、その下にはスク水を着ている。家事をする時はあくまでもこの格好らしい。


「あ、おはようございますっ、雄太さん。お台所、お借りしています」

「朝飯まで作ってくれるんですか?」

「もちろんですっ。雄太さんにはおいしいものを食べて、栄養をつけてもらわないと!」


 本当に、至れり尽くせりの待遇である。今までは、朝はサラサラとお茶漬けを食べていくだけだったからな。久しぶりに、まともな朝食にありつけそうだ。

 そして、待つこと十分ほど――。


「はい、できあがりました。温かいうちに召し上がってください!」


 並べられたのは、絶妙の焼き加減の目玉焼き、見ているだけで食欲をそそるウィンナー、パリパリした味付け海苔、緑鮮やかでまさに新鮮そのものといった小松菜のおひたし、ビンに入った高そうな牛乳。実に、美味そうな上に、栄養バランスもとれている。


「えっ、これって、あとで料金とられるとか、ないですか?」


 いずれも、冷蔵庫にあったものではない。どれも高級感があるというか、ぶっちゃけ、値が張りそうだ。なんか、料理のひとつひとつが輝いて見える!


「とんでもないです! もちろん、三食ともに、無料です!」

「そ、そうですか」


 ほんと、ここまでされると恐縮してしまう。こうなると、ますます断りにくくなるじゃないか。まぁ、それだけリスクのある仕事とも言えるのだろうが。

 ともかく、せっかくの朝食だ。冷める前にいただこう。


「それでは、いただきます」

「はい、お口に合えばいいのですが……」


 昨夜と同じく、ペン子さんは神妙な面持ちで俺がオカズを口に運ぶのを見ている。

 まずは、ウィンナーだ。


「ぱきっ……もぐもぐ」


 うん。やはり、適度な歯ごたえのあるいいウィンナーだ。このパキパキ感はたまらん。そして、ご飯もいつも食べている安い米と違って、おいしい。

 ふっくらとしているというか。炊き方もいいのかもしれない。


「……すごい、おいしいです。ほんと、ペン子さん、料理上手ですね」

「そ、そうですか? ありがとうございます!」


 ペン子さんは、かなり嬉しそうだ。朝からいい笑顔を見れた。一人でお茶漬けをかっこむだけでは、わびしいからな。今までは、食事というものが、義務みたいなものだったから。


 そのあとも、ペン子さんの作ってくれた朝食はすべておいしくいただいた。みそ汁も、ダシがよく効いていて、インスタントとは比べ物にならない味だった。

 いや、そもそも比べるのが間違っているな。

 なんというか、おいしいみそ汁を飲むと、心が落ち着く。

 これが、忘れかけていた、家庭の味だろうか……。

 こんなふうに朝食を堪能したのは、いつぶりだろう。つい、いつもより時間をかけてしまった。


「そ、それでは、私、制服に着替えますね」


 ペン子さんは食器を洗うと、二階へ上がっていった。そして、待つこと数分。


「お待たせいたしました。ど、どうですか? 変じゃないですか?」


 制服姿のペン子さんが不安そうな顔で、俺に訊ねてくる。

 うん……まぁ、やっぱり、美人はなにを着ても似合うことがよくわかった。

 年齢的にきついかと思ったが、もうこれ、完全に女子高生で通用する。

 完全に着こなせている。


「すごい似合ってますよ。これなら、学校で、すごい人気になると思います」


 これは登校初日から告白の嵐にあうかもしれない。

 それぐらいペン子さんの制服姿は魅力的だった。


「そ、そうですか……? こうして制服着るの、すごい久しぶりで、緊張します……ちゃんと馴染めるかどうか、不安です」

「大丈夫ですって。それだけ美人なら、クラスの連中は優しくしてくれますよ。まぁ、人気出すぎて危険な気もしますが」


「そ、そうでしょうか……」

「まぁ、とにかく行きましょうか……って、そう言えば、クラスにはどう紹介するんですか?」

「あ、それは……その、書類を偽造して、私は雄太さんの従姉妹ということになってるんです。そして、その……一緒に住んでいるという設定です」

「そ、そうですか……」


 なんか、それはそれで、面倒なことになりそうな気もするが……。

 まぁ、なんとかなるだろう、たぶん。クラスには乙女もいることだし。いや、それも、ちょっと不安要因のひとつか。あいつは、敵対勢力に所属しているわけだし。


 ともかくも、俺も手早く着替えて鞄を肩にかける。あとは、通学するのみ。


「それでは、行きましょうか」

「は、はいっ」


 新品の制服に身を包み、これまたピカピカの鞄を手にしたペン子さんと一緒に玄関を出る。

 学校までは、徒歩十分といったところだ。いつもは自転車だが、ペン子さんもいることだし、歩いていこうと思う。……時間は、ギリギリだけど。


「ペン子さんは、どんな学生時代だったんですか?」

「わ、私ですかっ? ええと、特に平凡というか学校と家の往復でした。帰ってからは、小説を投稿したりしてました」

「小説?」

「はい、その……男の娘が主人公の小説を書いてサイトに投稿してました」


 それは、なかなかコアな青春時代だ。


「そんなに美人なら、周りがほっとかなかったんじゃないですか?」

「いえ、その……私、男性に免疫がないというか……幼稚園から大学まで、ずっと女子しかいない環境でしたから……。そして、今の職場も女性がほとんどですし」

「そ、そうだったんですか……」


 それでペン子さんは、男の娘趣味に走るようになったのだろうか……。


「……何度か、女の子とは付き合ったりしましたが……あ、いえ! この話はなしです!すみません、聞かなかったことにしてください!」


 ……しかも、百合属性……だと……? 顔を真っ赤にするペン子さんを見て色々と訊ねまくりたい気持ちになる。だが、本人が嫌がっているのに訊くのは紳士ではない。めちゃくちゃ気になるけど!


「あと、あの幻獣、ですか? あれはまた、すぐに現れる可能性はあるんですか?」

「あ、はい……。以前は、滅多に姿を現わさなかったのですが、昨日ああして目立つところで破壊活動を行ったことから、いよいよ宇宙人の侵略が本格的なものになっていくと思いますっ」


 考えてみれば、現代日本の街のど真ん中で唐突に幻獣が現れて暴れまわったんだからな。今朝はテレビをつけなかったが、おそらくトップニュースになっていたことだろう。

 そして、あの幻獣に立ち向かっていって撃退した乙女も、当然、話題になっただろう。


 そににしても、宇宙人が侵略してくるとか、本当になんという話になってしまったんだと思う。

 また現れたら、やっぱり、戦わなくちゃいけないんだろうなぁ……。

 でも、乙女一人で十分だったから、俺の出番なんてそうそうないだろうけど。


 そんなふうに話しているうちに、学校へやってきてしまった。

 こうやって話しながらだと、近く感じるな。


「あ、私は職員室に行って、担任の先生とお話することになっていました。それでは、またのちほど、お願いします」

「了解です。それじゃ」


 正門をくぐったところで、俺とペン子さんは別れた。昨日からずっと一緒だったので、ちょっぴり寂しい気分になる。


 俺は、下駄箱で上履きに履き替えて、自分の教室へ向かった。



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