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白銀の少女は賢者の愛弟子です 〜孫とお祖父さんくらい歳が離れているけど、手加減はしません〜

初投稿です。




町はずれの、とある街道。人通りがあまりないこの道のそばに、一軒の建物があった。


そこは、かつて賢者と呼ばれていた魔導師の家であり研究所である。


清潔な、埃ひとつないその部屋の一室に少女はいた。

ボブカットの銀色の髪にスラリとした痩せ型の体躯、身長は年にしてはやや低めで、胸部の膨らみはその道の達人でも見逃しかねない程に慎ましい。


「これでよしと……」


少女は、すり鉢で潰した粉末を木の板の上に出すと、その粉末をおもむろに金槌を振り下ろした。


金槌と粉末が接触した刹那、視界一面が真っ白になったかと思えば、けたたましい破裂音と共に爆風が部屋中に吹き荒れた。


「うぎゃあああああ!」






「何事じゃ!?」


老人が部屋に入ると、清潔だった部屋は見る影もなかった。

書類や薬品の棚は倒れ、床には紙類が散乱している。


「ああ、ワシの研究室が……。リセム! 我が弟子よ。どこじゃ、返事をせい!」


「アチチ……」

「これ、動くでない。辺りにガラスが散乱しておる」


老人は、少女──リセムにのったガラス片をはたいて落としてやる。


「まったく、何をしたらこうなるのじゃ」


「ねえ師匠!」


呼びかけるリセムの表情に罪の色はなく、爛々と輝いたものだった。


「わたし凄い発見しちゃった! マグマサイの爪と爆散石を粉末にしてから叩いたら爆発するの!」

「ばっかもーん!」


パコン!





「いったーーー!?」



「何するんですか師匠ぉー」


「アホか貴様は! 爆散石を叩いたら爆発するに決まっておろうが!」


「でもでも、ピカーって光るのは爆散石だけじゃ起きないでしょ? これって、マグマサイの爪を混ぜたからでしょ?」


「そんなことで騒いでおったのか? 爆散石は爆発するときに、不純物が多いと光を撒き散らすのじゃよ。その辺の小石を混ぜたってそうなるじゃろうて」


「へー。師匠って見かけによらず物知りですね」


パコーン!





「痛いです、師匠ぉ……」


「少しは反省せい!」




リセムは幼い頃に親に捨てられていた。そんなリセムを拾ったのが賢者だった。


リセムにとって賢者とは師匠であると同時に育ての親でもあるのだ。




「リセム、お前にはギルドの仕事をやってもらうことにした」


「ギルドの仕事!?」


「なんじゃ、不満か?」


「だって、わたし冒険者じゃないし、あんま重労働とか出来ませんよ。だいたい何で、わたしがそんなことをしなきゃいけないんですか」


「自分の胸に手を当てて考えるのじゃ」

「胸?」


シャツの生地を撫でる。

どこまでも、なだらかだった。


「無い………………」

「身体的な話ではないわい。……そんな悲しい顔をするな。そうではなくて、お主がこの部屋で何をしでかしたかってことじゃ!」


賢者は、一度萎んだ怒りを再燃させる。


「室内で実験をするなと、何度も言うておったじゃろ! 今月だけでもう何回じゃ! 爆発するたびに吹っ飛ぶ窓ガラス代だってバカにならんのじゃー!!」


「だって、早くしないとアイデアを忘れちゃうじゃないですか!」


「だから、メモを取れと言ってるじゃろ! いったい何のために文字を教えたと思っとる!」


「いやいや、師匠。ちょっと考えてみてくださいよ」


余裕ある姿はまるで壮年の宣教師かのようだった。リセムはやわらかく、説き示すように続けた。


「メモを取らない方が、なんか一流っぽくないでしょうか?」

「リセ────ム!!」


師匠は激怒した。彼は怠惰な者と卑怯な者が嫌いだったが、アーティスト気取りのバカが何よりも嫌いだった。



「リセム、これはケジメじゃ。ぜーったいにやってもらうからの!」


「えー!?」



「とっとと出発せんか!」



賢者に荷物バッグを押し付けられるようにして、リセムは追い出されてしまった。


「あーあ。仕方ない、行くとしますか」


ギルドへは半日以上離れた隣町へ行かなければならない。早くしないと、野宿する羽目になる。


「なにやらされるんだろう。薬草摘みかな? キツイ仕事だったら嫌だなー……」



◎ ◎ ◎




「いゃあああああ!!!?」

足をもつれさせながら必死になってリセムは逃げた。

背後には、三十体以上ものアンデットが迫り来る。


「あー……あー……」

「あ゛ー……あぅあー……」


「そんなのんびり喋るのに、何でしっかり走ってくるの!? あーもう、師匠のバカ、総入れ歯ーー!!」


大勢のアンデットたちを振り切るために、リセムはまだまだ走ることをやめられそうになかった。


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