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ネトゲ女  作者: kaji
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第八話チャーム

ブルーウィングに新メンバー登場?です。

8月26日誤字訂正

 アイカは俺とリアルで会ってからはよく姿を見かけるようになった。俺も後輩である愛華を無下には扱えないのでいくらか話をしたりした。異様な殺気を感じると思って見ると里美の姿がよく見えた。たまに内藤君だったりするのだが。


 里美はなんだか最近イライラしているように見えた。一見いつも通りの無表情に見えるのだがいつもよりも1、2本眉毛の間の皺が多いような気がした。アイカはアイカでリアルでの俺と会った時のことなどどうでもいいようなことをチームで集まった時によく話していた。里美は最近、サブでブルーウィングにいることが多かった。発言が殆ど無いので不気味なので話しかけてやると「別に……」とか言って某女優を気取ったりしていた。


 それから数日後、珍しく里美が俺のアパートからインしなかった。ゲームの中にはいるみたいなので自分の家からインしているのだと思うが珍しかったので理由を聞いてみたが答えは「別に……」だった。なんだその言葉流行ってるのかと思ったがいつもの気まぐれだろうと思って別に俺は気にしなかった。


 別の日、ブルーウィングに新メンバーが入った。集会所に集まっていた時に、ロマンチストジャニーがいきなり紹介してきた。この日の集会は俺と惨劇のクマさんとロマンチストジャニーと君は夢を見るとケミカルアイカの五人だけ集まっていた。里美のサブの猫猫子猫はこの日はいなかった。俺はロマンチストジャーニーが拾って来たという怪しげなルートからの加入だったので慎重に慎重を重ねて、面談をした。好きなものや好きな狩場、好きな番組など色々質問した。中の人はなかなかいい人だったのでメンバーに入れてやった。飲むキャラメルが好きで世界の社屋からが好きなものに悪い人がいないはずがない。新メンバーの名前は「ラズベリー」という名前で職業は弓師で中の人は女の子だと言っていた。こういったネットゲームも初めての初心者だということだった。俺はケミカルアイカをこの道に引きずり込んだノウハウがあったので一肌脱ぐことにした。



ケミカルパンク ではラズベリー君。君に入団記念として1億Gやろう

惨劇のクマさん ちょ。マスタ。直球すぎじゃないですか?

ラズベリー   えー。いいんですかー。

ロマンチストジャニー  マスタあああ。自分にもおおお。お金くださいよおおお。

ケミカルアイカ  いいな……。お金。

ケミカルパンク  うるせえぞ。お前ら。俺はこれからは飴、飴、飴で行くんだよ。

ロマンチストジャニー マスタああああ。女の子だからじゃないんですかねえええええ。このエロマスタあああ。

君は夢を見る  エロ+マスタ=エロマスタ

ケミカルアイカ  兄さん……。私というものがありながらひどいっす。

ケミカルパンク  いいんだよ! 俺はもう決めたからな。これから頑張ってくれっていう支度金だよ。ホレホレ。やるぞお。

ラズベリー  ありがとございます。これから頑張りますね。

惨劇のクマさん  本当にあげたんですか。マスタ残念です。

ケミカルパンク  悪いかよ。ああ。俺はあげたよ。いいだろ。別に。

ロマンチストジャニー  マスタああああ。逆切れはどうかと思いますよおおお。

ケミカルアイカ  兄さん。私も頑張りますからお金ください。7億ほどでいいっすから。

ケミカルパンク  やらんし。うるせえよ。もう終わりだ。この話は。とにかくラズベリー。期待してるから頑張ってね。

ラズベリー  はい。頑張ります! お兄ちゃん。

ケミカルパンク お兄ちゃん?

ラズベリー  はい! お兄ちゃんです。ケミカルアイカさんが兄さんって呼んでるみたいなので私、お兄ちゃんって呼んでいいですか? ダメですか?

ケミカルアイカ  ダメ! ダメに決まってるっす。ですよね。マスタ? 兄さんって呼ぶのは私だけでいいですよね?

ケミカルパンク  いい。最高だ! ラズベリーちゃん。それ採用だ!

惨劇のクマさん  ああ。マスタがあちらの方向に行ってしまいました。

ラズベリー  ありがとうございます。お兄ちゃん。

ケミカルアイカ  兄さんのアホんだらあ。

惨劇のクマさん  ああ。アイカさんログアウトしちゃいましたよ。

ケミカルパンク  あいつは放っておけ。とにかくこれからよろしくな。ラズベリーちゃん。

惨劇のクマさん  ああ。マスタ。デレデレだよ。

ラズベリー   はい! 頑張りますね。お兄ちゃん。



 俺たちはその後ラズベリーを囲んで雑談して、今日はそれでお開きになった。ラズベリーとは明日一緒に狩りをする約束をしてログアウトした。


「ふう……」


 俺は少し前のことを思い返していた。そういえば昔の里美もこんな時もあったんだよな。もちろんこんなに素直ではなかったがパンクパンクとうるさかったな。そんなことを思っていた。


 次の日約束どおりにラズベリーとペア狩りをすることにした。ラズベリーがうまい(経験値が一番入る)狩場で一緒に狩をした。といってもラズベリーはただ見ているだけで俺が狩ってラズベリーにレベルを上げてもらうという狩である。



ラズベリー  すごおーい。お兄ちゃん。すごい勢いで倒しますね。尊敬してしまいます。

ケミカルパンク こんなことどうってことない。それよりもうまいか?

ラズベリー  はい! すっごく経験値入りますよ。ありがとうございます。

ケミカルパンク 待ってろよ。すぐにレベルあげてやるからな。

ラズベリー  ありがとうございます。すごいスピードでレベルがあがりますね。すごいです。

ケミカルパンク このペースならすぐにチーム戦に出れるレベルになるからな。

ラズベリー 本当ですか? 楽しみです!

ケミカルパンク ああ。本当だ。だからこれからも頑張れよ。

ラズベリー  頑張ります。お兄ちゃんって優しいんですね。こんなによくしてくれてありがとうございます。

カミカルパンク  ああ。別に普通だよ。これからも何かあったら声かけてくれればいろいろ手伝うからな。

ラズベリー  はい! お願いします。



 俺はラズベリーがあんまり誉めるものだから調子に乗って狩まくった。その日ラズベリーのレベルは50くらいあがった。


 次の日、俺がインするとラズベリーから声をかけてきた。俺はまるで待ち構えていたようなタイミングだったのでかなり驚いたのだが、すぐに返事を返した。



ラズベリー様から  お兄ちゃん。ちょっとお願いがあるのですが、聞いていただけますか?

ケミカルパンク  ん? なんだい? 

ラズベリー   言いにくいんですけど。今日ですね。露天回りに行ってきたんですよ。

ケミカルパンク  ほうほう。

ラズベリー   那須与一の弓というレアなアイテムを見つけたんですよ。

ケミカルパンク  ああ。あれね。絶対必中っていう弓のレアアイテムでしょ? 弓師だったら欲しいよね。

ラズベリー  そうなんです。すごく欲しいんですよ。でも私あまりお金持ってなくて買えそうにないんですよ。しょんぼり。

カミカルパンク ん? じゃあ買ってあげようか?

ラズベリー  え! いいんですか? あれ結構高いですよ。

カミカルパンク  楽勝。楽勝。あれくらい俺にとっては消費税だね。今度見たら買っておいてあげるから楽しみにしてて。

ラズベリー  ありがとうございます。私頑張りますね。

ケミカルパンク  うんうん。頑張ってね。ラズベリーちゃんには期待してるからね。



 俺はラズベリーに弓を買ってあげることにした。消費税とはいえ、少し痛手だったが、これも新戦力を得るための出費だということで自分を納得させることにした。今の時代チームのメンバーを繋ぎ止めるためには多少の努力とマネーが必要なのは仕方が無いことだった。それからも何度かラズベリーにねだられて俺の財布の中身は給料日前のサラリーマン並みになった。


 ある日のチーム戦の後、ラズベリーが相談したいことがあるというので場所を変えて話を聞くことにした。ラズベリーと集会所から移動して近くの廃坑で話を聞くことにした。ラズベリーがなかなか話出そうとしないので俺はMob(敵モンスター)を倒しながら辛抱強く待った。廃坑には誰もいなかったのでMobの断末魔とラズベリーのレベルの上がる音が響いていた。俺が300体目に行こうかとしている頃ラズベリーが話し出した。



ラズベリー  私の両親共働きなんですよ。

ケミカルパンク うん。

ラズベリー  仕事が終わるのがお母さんもお父さんも遅くて、私が学校から帰っても誰もいないんです。夕食も一人で食べないと行けないし、朝食も朝早く仕事に出かけるみたいだから一人で食べるんです。

ケミカルパンク うん。

ラズベリー  私学校でも友達がいなくていつも一人なんです。それで家では本を読んだりテレビを見たりしてたんですけどたまたまこのゲームのことを知ってやり始めたんです。

ケミカルパンク そうか……。

ラズベリー  それでお兄ちゃんに運よく会えて優しくしてもらって本当にうれしいです。

ケミカルパンク 別に俺は特別なことはしてないぞ。

ラズベリー  いえ。私にとっては特別なことでした。こんなに優しくしてくれる人はお兄ちゃんだけです。

ケミカルパンク  そういう風に言われると照れるな。

ラズベリー  そこでお願いがあるんですけど……。

ケミカルパンク 何だ。ラズベリーちゃんの言うことなら聞くぞ。

ラズベリー  私お兄ちゃんとなら本当の友達になれると思うんです。

ケミカルパンク ああ。俺もそう思うよ。ラズベリーちゃんとなら友達になれると思うぞ。

ラズベリー お願いです! 私と一回会っていただけますか? もちろん現実の世界でです。

ケミカルパンク う。それは。ちょっと……。

ラズベリー  お願いします! 聞いた話だとケミカルアイカさんとは直接会ったそうではないですか。私とは会えないんですか?

ケミカルパンク いや。そういう訳ではないんだがな。

ラズベリー  私にはお兄ちゃんしかいないんです。お願いします! 1回だけでいいです。お会いしてください。

ケミカルパンク ……

ケミカルパンク ああ。わかったよ……



 俺は画面の文字だけであったが押し切られる形でつい了承してしまった。ラズベリーが必死な感じが伝わってきたのはあるが、俺がよく知るある人とだぶってしまったというのが大きな要因だった。とにかく会うだけ会うことにしよう。そう思った。その後、ラズベリーと会う日などを決めてその日はログアウトした。

 ラズベリーとの約束の日、その日は休日だった俺は前の日遅くまで起きていた。午後に起きた俺は起きたら着替えをしてすぐ出かけた。時間には間に合いそうだった。場所はこの前にケミカルアイカと会った公園だった。ラズベリーの要望で「ジャングルジムの横のベンチで目を瞑って待っていて欲しい」と言われていたので俺は素直に目を瞑って待っていることにした。なんでも恥ずかしいからだそうだ。かわいいやつめ。

 しばらく目を瞑って待っていると人が近づいてくる足音が聞こえてきた。


ザザザ

……


足跡が俺の前で止まった。ラズベリーが来たのかもしれない。目を開けようかと思ったが手のひらで目をふさがれしまって前が見えなかった。冷たい手ではあったがとても柔らかかった。


「おい。ラズベリーか?」


俺は不安になったので聞いた。


「うん。そうだよ」


若い女の声が聞こえた。分からないがおそらくラズベリーなんだろう。


「これじゃあ。よく分からん。頼むから手をどけてくれないか?」

「いいですけど。私を見て驚かないでくださいね?」


なんだかおかしなことを言い出してきた。しかし、この声は見覚えがある気がする。気のせいかな。


「ああ。わかった。だから手をどけてくれ」

「うん。今から手をどけるから3秒経ったら目を開けてね」


俺の顔から手がどけられた。俺は声に出してカウントした。


「3」

「2」

「1」

「開けるぞ!」


俺は思い切って目を開けた。目が光に慣れていなくてよく見えなかったが、目の前には俺と同い年くらいの女の子が立っていた。


「ん。眩しくてよく見えない。……。うん? まさか。お前!」


目が慣れてきて、目の前の女の子が見えた。その女の子は俺がよく知っている女の子。里美だった。


「おい……。なんでお前がいる? ラズベリーはどこだ?」


里美はため息を吐くと喋りだした。


「私がラズベリー。ブルーウィングに最近加入して、ケミカルパンクに弓を買ってもらって、この前ペア狩りをしたラズベリーだよ」


俺はうまく状況が飲み込めていなかった。ラズベリーが里美だって。俺は騙されていたのか。


「おい! 里美。俺のことを騙しやがったな」

「何言ってるの? あなたが勝手に勘違いしたんじゃない? 私は別に騙してなんかない。2ID


なんてよくあることだし、見抜けなかった。悠一が悪いんだからね」

確かに里美は騙した訳ではなかった。しかし、俺はショックを受けていた。ラズベリーが言っていたことは全て嘘だったのか。あの現実世界で孤独なラズベリーは作られたものだったのか。両親が遅くまで帰ってこないで、友達がいないラズベリー。あれは嘘だったのか。奏考えていると俺は一つ思い出したことがあった。俺はこれと同じ話を知っていた。今考えるとあの話は里美の昔の話のような気がした


「里美。あの話って昔のお前ことじゃないか?」


俺は里美に言うと里美は俺に背中を向けた。


「どうなんでしょうね」


顔が見えなかったので里美の表情は分からなかったが、声は震えているように聞こえた。


「ただ私が言えるのはあのときの悠一は私のことを孤独から救ってくれた。一人だった私に一緒に遊ぼうと誘ってくれた。私はあの時うれしかった。それだけ。」

「里美……」

「でも今のあなたは最低ね! 一回地獄に落ちたほうがいいんじゃない?」

「ぐう」

「……でもあなたはいつでも私を孤独から救ってくれる……」

「なんだって。聞こえなかった」

「死ねって言ったのよ」

「うう……」

「じゃあね。これに懲りたらもう変に人を信用したらだめだからね。みんなアイカみたいにいい子とは限らないだからね」


振り向いた里美を見ると一瞬笑顔だったような気がした。俺は何年ぶりかの里見の笑顔を見て、目の錯覚かと思った。次の瞬間にはいつもの仏頂面に戻って歩いていってしまった。


「あいつ。今だにあの時のこと覚えてるんだな」


俺は小さい頃のことを思い返していた。いつも一人だった。里美。俺はアイツに結果的に手を差し伸べてやっていたことになっていた。それよりもだ。


「しかし……。くっそー。すっかりやられちまったじゃねえかよ。金まで持って行かれたしよ」


俺はお兄ちゃんなどと呼ばれて舞い上がっていた自分が急に恥ずかしくなった。しかものこのこと会いに行ってしまって、確かに一回地獄に落ちたほうがいいのかも知れないと思った。


「俺疲れてるのかもしれないな」


俺はひどく憂鬱になって重い足取りで自分のアパートに帰った。アパートに帰って里美の攻略をしたのは言うまでも無い。失敗したけども。



ご拝読ありがとうございます。次回更新4月5日「招待状」(予定)です。かねてより考えていた。大風呂敷を広げてみたいと思います。また読んでいただけるとうれしいです。

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