第五十九話「地下迷宮探索(後編)」
その後、俺とタリアはなぞなぞ、千人斬りステージを経てB90階までやってきた。今確認したのだが他のパーティーはどんどん脱落して残っているのは俺たちのパーティーだけのようだ。しかも俺たちもパーティーも俺とタリアだけだ。アイテムも残り少ないしもう後が無い。
ケミカルパンク 何とか俺たちだけでも更に奥に進もう。
タリア ……。
ケミカルパンク おい。タリアどうした?
タリア なあ。聞いてくれないか。
ケミカルパンク なんだ。どうした?
タリア ……。クールフラワーのことだ。
ケミカルパンク ……。何で今その話をする。
タリア 忘れてないはずだ。お前は一番近くにいたはずだ。
ケミカルパンク あいつは黙って俺の前からいなくなったんだ……。一番信頼していたんだ。俺は……。
タリア あれには……訳が……。
ケミカルパンク もういいその話は! 黙っててくれ。
タリア そんな……。
なんで今更タリアはそんなことを聞くのだろうか。俺にとっては終わったことだ。そうだ。そうだったはずだ。なんでタリアはわざわざほじくり出そうとするのだろうか。
そこに巨大なMobがゆっくり近づいてきた。あれはファイアードラゴン。数々のファンタジーに登場するがドラゴンは最強の敵だ。それはファンタジークエストでも例外ではない。硬い鱗に守られた巨大なドラゴン。高レベル帯の狩場にはいるらしいが俺は見るのが初めてだ。それが今目の前にいる。地下迷宮に入って初めてやっとそれらしくなってきた。
ドラゴンはいきなり火を吹いてきた。俺は避けきれず食らってしまった。いきなりHPゲージが半分以上無くなったのには驚いた。タリアに回復してもらって難を逃れたがこれを食らい続けるとかなりまずい。
ケミカルパンク く……。どうする。
タリア 私が援護するから攻撃してくれ。
ケミカルパンク 無理だ。あの炎を二回食らったたら終わってしまう。
タリア では盾を使え。あれを使いながら何とか近づけ。私は後ろから攻撃する。
ケミカルパンク 盾か。よし。
俺は剣士のスキル矛盾の盾を使ってじわじわとドラゴンへと近づいていった。ファイアードラゴンは容赦なく俺の盾めがけて火を吹きかけてくる。今は何とか盾で防御しているがあまり長くはもたないだろう。それほどこのスキルは万能ではないのだ。
ケミカルパンク ぐ。まずいな。
タリア パンクもう少し頑張れ。情けないぞ。小惑星落とし!
ケミカルパンク だ。だめだ。盾が壊れる。
ファイアードラゴン グオオオオオオ。
ケミカルパンク なんだ?
タリア 槍がどこからか飛んできた?
もう盾の耐久力がもたないという所でどこからか銀色の槍が飛んできてドラゴンを引き裂いた。画面外からの攻撃だったので誰の仕業かは分からなかった。ただドラゴンはその一撃によって倒れた。
ドラゴンが画面上から消え去るとその場所に宝箱が出現した。俺たちはそれを入手した。その瞬間地下迷宮から追い出され地下迷宮入り口までワープした。どうやらB90階までしか作っていなかったようだ。最下層が999階などというのはガセネタだったようだ。おそらくこれからも作られないだろう。俺は二度とこのダンジョンには潜りたくはなかった。理由は面倒だからだ。
いつもの集合場所に集まって地下迷宮探索の報告会をした。惨劇のクマさんチームはB52階で全滅。ニートは人間国宝チームとホップステップごま塩のチームはB60階で全滅。宮藤使いチームはB70階で全滅。ささくればくはつチームはB80階で全滅という成績だった。どうやら俺たちのチームだけが最下層までいけたようだ。これで何とか俺の面目も保てるという訳だ。
ケミカルアイカ それで最後に取ったアイテムって何っすかね?
ケミカルパンク ああ。『身代わりの人形』だよ。
ケミカルアイカ それって何すか?
じじいエキスポ HPがゼロになっても一度だけ人形が身代わりになって生き返られるというアイテムじゃよ。しかもHPも全回復するというレアなアイテムじゃな。
ケミカルパンク 説明ありがと。だってよ。じゃあこれは俺がもらうことにしよう。
ねこねここねこ 意味分かんない。何それ。私が欲しいわ。売ればいくらになるんだろう。話には聞いていたけど実物見るのは初めてだわ。
ケミカルパンク 意味分かんないって……。最後まで残っていたものがもらうのが当然だろうが。
タリア その理屈だったら私にも権利がありそうなものだがな。
ケミカルアイカ そうっすよ。それに兄さんが持つよりも死んだらまずい支援役の人が持っていた方いいんじゃないっすか。
ニートは人間国宝 確かに。その通りだな。パンクが持つのは気に食わないからそうしてくれ。
ケミカルパンク 最下位のやつは黙っていろ!
ニートは人間国宝 ぐ。あれはだな。まさか全員落とし穴にかかって死ぬとは思わなかったからだ。
ケミカルパンク あー。あー。言い訳は見苦しいぞ。まあいい。分かったよ。タリアにやるよ。
タリア ありがとう。大事に使うよ。
ねこねここねこ 私が欲しかったのにな……。
ケミカルアイカ 仕方がないっすよ。私たちにはその権利はありませんっすから。でも次こそは。兄さんからもらいまっすよ。
ケミカルパンク 何かそれは違わないか……。
妙に気合が入っているアイカをスルーして俺は『身代わりの人形』をタリアに渡してやった。まあ元々それほど欲しくはなかったから別によかった。そういえばドラゴンを倒したあの槍は誰の槍だったのだろうか。最下層まで来るやつだから結構な高レベルのやつだとは思うが……。槍か。まさかな。俺は馬鹿なことを考えている思考を打ち切ってニートを馬鹿にしながら地下迷宮の最下層まで行った余韻に浸っていた。
ご拝読ありがとうございます。
やっと地下迷宮編が完結しました。そろそろ本編に入りたい所ですがゆっくりとやっていこうと思います。目標は100話ですので。
よろしくお願い致します。