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ネトゲ女  作者: kaji
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第五十四話「ケミカルパンクの九十%はゲームでできています」


 朝から俺は内藤君と最近のマイブームブタミ○トンで熱い戦いを繰り広げていた。前に近所のおもちゃや「たむら」で埃をかぶっていたので格安で譲ってもらったのだ。あそこの店主はなかなか話が分かる人で機嫌がいいときは古いおもちゃならかなり安く譲ってくれるので俺はよくプラモを買いに行き、ついでに掘り出し物探しをしている。この間は箱庭シリーズ「野村君の家」を百円で売ってもらった。

 それはさておき、俺くらいの実力になると豚を自由自在に操ることができる。豚の鼻息の絶妙な力加減を使って俺は色々な技を編み出した。その中で俺のブタドロップは究極の決め技だ。


「よし! 決まった。どうだ。内藤君」

「岡崎君。ちょっといい」

「なんだよ。今ブタドロップが決まったぞ」

「あれなんとか。ならないですか?」

「気にするな。たぬきの置物だと思え」

「とても思えないのですけど……」


 内藤君が気にしているのは今日の朝からずっと休み時間の度に良子ちゃんが教室の外のドアの陰からこちらを覗っていることだ。俺が昨日、タリアと組んで戦うことにまだ考え中だと言ったので良子ちゃんは一時間ごとに「決めましたか?」と聞いてくるのだ。俺が「まだ考え中」だと言うと「じゃあここで待ってます」と言って教室の外からじっとこちらを窺っているのだ。最初はクラスメイトも驚いていたが三時間目くらいになるとみんな慣れたものでまた岡崎のやつがまた変な遊びを始めたなとそっとして置いてくれる。もつべきものは信頼関係だなと肌で感じた。


「それに……岡崎君」

「今度はなんだよ。ああ。ミスったじゃねえか。岡崎ゾーンやろうかと思ったのに」

「増えてるんですよー」

「何言って……。確かに増えてるな。まあほっとけ」

「はあ。そうですか」


見ると良子ちゃんの後ろに栗毛の女がいた。愛華だ。奴は良子ちゃんの肩を両手で掴んでこちらをじっとりとした目で見つめている。まったく何やっているんだか。俺は絶対に突っ込まないからな。


「決めましたか?」

「いや。まだだ」

「じゃあ待ってますから」

「……」


お昼休み、もうお決まりになったやり取りをしてまた定位置の教室の外のドアの陰に戻っていった。愛華が無言なのが妙に不気味だ。


「岡崎君。何か怖いですよ。何とかしてくださいよ」

「うるせえなあ。何とかできるならとっくにしてるよ」

「ああ。何か食べてますよ……。岡崎くん」

「なんだよ。うるせえなあ。お昼なんだから何か食うだろ」

「ぶ!」


見ると良子ちゃんと愛華はこちらを覗いながらするめをかじっていた。長期戦なのかどうなのか知らないがなんなんだよ。これ。新しい嫌がらせかよ。まあ気にしない。気にしない。


「よし。食べ終えたらブタミ○トンの続きやるぞ!」

「ねえ。岡崎君……」

「なんだよ。どうした。また増えたのかよ」

「うん。うん。また増えたんだよ。見てよ」

「今度は誰だよ。げ!」


見ると良子ちゃんの後ろに愛華。その後ろに……。ニット帽を被った変な男。生徒会長にして学級委員。最近知ったがかなりのお金持ちのお坊ちゃんの西園寺秀夫がいた。あいつ何やっているんだ。新しいブレーメン音楽隊でも組んだのか知らないが悪ふざけがすぎるな。特に西園寺。あいつはなぜか許せない。生理的に許せない。


「西園寺。お前はなんだよ」


何だか無性にいらついたので西園寺のみどついてやる。


「いや……僕は……ゲームを……岡崎と……しようと」

「お前。俺を馬鹿にするのもいい加減にしろよな」

「僕は……別に。ああぁぁぁ。止めてくださいぃぃぃ」


少し強めにどついてやるとよろよろとして大げさに教室の壁にぶつかり座り込んだ。


「もう。止めろよな。お前はニット帽でも手入れでもしてろ!」

「岡崎! それは聞き捨てなりませんね」


その俺の言葉を聞いて、西園寺の目に怪しい光が灯った。西園寺は立ち上がると埃を払い、落ちかけたニット棒をかぶり直し、俺を指さした。


「あなたがそんな態度を取るなら僕にも考えがあります。覚悟しておいてください。あなたを全力で潰します。まともにゲームができるのは今夜だけだと思ってください」

「はあ? 何だよ。それ。おい。どこ行く」

「はははは。覚悟してくださいね」


何だかよく分からないことを言って西園寺は去っていった。春の陽気に誘われて馬鹿になってしまったのだろうか。あいつこれから授業なのにどこに行くんだろうか。


「おい。お前らも食事なら自分の教室で食え。後、良子ちゃん。結論は明日までに出すから頼むから今日は勘弁してくれ」

「どうなさいます? 良子さん」

「そこまで言うのなら……。今日は帰る。そろそろ飽きたし」

「ああ。帰ってくれ」

「明日までに……。お願いします」

「ああ。分かった。ほら行け」


良子ちゃん達はやっと帰ってくれた。俺はもう来ないように教室に備え付けの塩をまいてやった。まったくこの教室は邪気が多くていかんな。


 夜、今日までのことをねこねここねこにネットで相談することにした。ねこねここねこは転校してからは前ほどイン数は少なくなって来てはいたがたまにソロで狩っていたり、ふらふらと露天巡りをしていた。俺もリアルで会えなくなったので前よりはネット上で会話することが多くなっていた。

 


ケミカルパンク ていう訳なんだよ。勘弁して欲しいよ。


ねこねここねこ 相変わらず馬鹿やってるわね。楽しそうでいいじゃない。


ケミカルパンク 何とかして欲しいんだよ。どうすればいい?


ねこねここねこ 私には関係ない勝手にすれば。


ケミカルパンク そんなこと言わないでくれー。お前しか相談できる相手がいないんだよ。


ねこねここねこ クマさんとかに相談すればいいでしょ。


ケミカルパンク あいつはアホだから相談相手にはならないんだよ~。


ねこねここねこ 全く……。好きにすればいいでしょうが。


ケミカルパンク 頼むよ。一生のお願い。


ねこねここねこ ……。パンクはどうしたいのよ?


ケミカルパンク 俺? 俺かあ。うーん。前回の対戦はかなり不本意だったし、タリアの助けになりたい気もするんだけど。


ねこねここねこ だけど?


ケミカルパンク 何か。気持ちが入らないというか。何と言うか。


ねこねここねこ はっきりしないわね! やりたくないならやりたくないって言えばいいじゃない。


ケミカルパンク やりたくないわけじゃないんだけど……。


ねこねここねこ 分かった。もういい!


ケミカルパンク ええ! ちょっと待てよ。


ねこねここねこ 決めたわ。出ましょう。そのトーナメントだか何だか知らないけど。


ケミカルパンク おい。いいのかよ。


ねこねここねこ うん。その代わり私のチームで出ることになるけどね。


ケミカルパンク レッドウィング再結集か……それも面白いかも知れないな。


ねこねここねこ 他の知り合いにも声をかけてできるだけメンバーを集めましょう。そうでないと勝てないと思うし。


ケミカルパンク だな。うーん。何だかやる気が出てきたぞ。


ねこねここねこ じゃあ。タリアには言っておいてよ。一緒にBSRを倒しましょうって。


ケミカルパンク ああ。分かった。これから忙しくなりそうだな。



俺はねこねここねこに背中を押されて結局タリアの力になるためにリーグ戦に参加することを決意した。これが長い長い戦いが始まりだった。



場所は変わって生徒会室。怪しげなニット帽を被った男がPC前でほくそ笑んでいた。


「ふははは。岡崎。覚悟しておけよ。僕を怒らせるとどうなるか思い知らせてやる」


この時、馬鹿が一人とんでもないことを考えているのを俺は知らなかった。まあ知っていたからと言ってもどうとでもないことなのだが。まあそれは後の話です。


ご拝読ありがとうございます。

 たぶん次話よりようやく動きだします。リアル展開が多くなっておりますが我慢していただければと思います。

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