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ネトゲ女  作者: kaji
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第三十五話「彼女と僕の出会い」

 俺は自分のアパートに帰ったが得体の知れないもやもやに捕らわれていた。俺はなんだかどうしてもアパートにいることができなくなって制服に着替えて学校に行った。

 学校にはあまりにも時間が早かったので殆ど人が居なかった。シーンとしている朝の独特の雰囲気の学校を味わいながら自分の教室にゆっくりと歩を進めた。俺は比較的に遅めに学校に来ていたのでこれくらい早く学校に来たことは無かった。いつもの学校だったがまるで違う雰囲気のような感じがした。

 自分の教室に入ると誰も教室にはいなかった。俺は自分の席で机に突っ伏して時間が経つのを待つことにした。机は朝の冷気ですっかり冷たかったがそれが今の俺にとっては気持ちが良かった。今日は風が強いのか窓ガラスがガタガタと音を鳴らして揺らしているだけで殆ど物音が聞こえなかった。俺は目を瞑って里美と出会った時のことを思い出していた。


 あれは確か俺が小学校3年生の頃だったと思う。あまりはっきりと覚えていないが秋が終わりをつげようとし、冬が気配を見せ始めようとしていたそんな頃里美が転校してきた。


「前田……里美……です」


初めの印象は殆ど無かった。それくらい無個性な女の子だったと思う。髪が長いなくらいの印象だった。


「ねえねえ。どこから来たの?」

「……」

「ねえねえ。どこに住んでるの?」

「……」

「ねえねえ。なんで喋らないの?」

「……」


挨拶も終わり休み時間になるとクラスメイトに囲まれていたが里美は無表情で無口だった。ニコリともしなければ頷くこともなかった。クラスメイトも辛抱強く話しかけていたがそのうち諦めて自分たちのコミュニティに戻っていった。

 それよりも俺はその頃からの一番の友達の内藤君とホームランの飛距離を伸ばすことに夢中だった。来る日も来る日も俺は毎日木のバットで素振りをして行く行くは世界を目指していた。

 日が経つにつれて里美の噂を聞くようになった。どうやらちょっと変わっているらしく1月くらい経っても友達と言える友達はいないようだった。嫌われているという訳では無かったがどうも一人でいることが好きなようだった。自分からクラスメイトに近づこうとはせず一人で本を読んでいたりしていた。

 たまに授業中なんの気も無しに里美の席の方を見ると里美は熱心に消しゴムを刻んで鉛筆で捏ねていた。たぶん練り消しでも作っていたんだと思う。その一心不乱に消しゴムを捏ねる姿はそばを打つ熟練の職人を連想させたが周りのクラスメイトには不評で少々気持ち悪がれていた。俺としては中々面白そうなやつだなと前よりも興味を惹かれてはいたがそれよりも飛距離を伸ばさなくてはならなかったので里美に構ってはいられなかった。

 ある日の昼休みの時間に里美は校庭で一輪車に乗って何かに取り付かれたようにぐるぐると何周も回っていた。


「な。内藤見てみろよ。あの女バックで一輪車をこいでるぞ」

「それよりもこの前のゲームのあの面クリアしましたよ」

「うお! マジかよ。昨日何回やっても無理だったのによ」

「あそこはですね。こうして……」


ある時バックで校庭を回っていた時にはかなり驚いた。内藤君に話を振ってみたが興味が無いようだった。彼の頭には基本的にゲームのことしかなかった。いったいこの男は大きくなったらどんなやつになるんだろうか。友人の一人として彼の将来に不安を感じていた。

 年末も近づきそろそろ雪も降ろうかとする季節になったが里美にはいまだに友達がいないようだった。里美は今もそうだが基本的には無口で不機嫌そうだった。まるで世界を憎んでいるようなそんな印象だった。その時の俺はと言うと飛距離を伸ばすのに限界を感じてバッティングフォームの抜本的改革に乗り出していた。毎日内藤君と腕のたたみ方がどうの体の開きがどうのいいながら更なる飛躍を目指していた。


「ゆ。悠一君。起きて! 悠一君」

「うるせえなあ。今いい所だ」


俺は夢を見るように回想に入っていたが誰かに激しく揺さぶられたので現実世界に無理やり引き戻された。


「いい所悪いけど起きてください」

「なんだ。内藤くんかよ」


起きて誰か確認してみると内藤君だった。相変わらずの貧相な体で揺すられていると骨が当たって気持ち悪かった。最近内藤君は眼鏡を買ったみたいでこの間はこれで僕も眼鏡男子の仲間入りだとか言ってはしゃいでいた。


「この間クリアできなかったあの面クリアしましたよ」

「うお! マジかよ。この間あれだけやっても無理だったのによ」

「ん? なんだこの妙な既視感は?」

「それよりも聞いてください。僕すごい方法を思いついたんですよ……」


結局俺たちは大きくなろうとも変わっていなかった。むしろどんどん退化しているのかもしれない。変わらないことが良いことがこの世にはあるのだ。俺は自分にそのように納得させて心行くまで内藤君とゲームの話に熱中した。


ご拝読ありがとうございます。

 過去話みたいなものを書いてみました。一応後一話か二話くらいは続けようと思っていますのでお付き合いいただければと思います。

 次回更新は11月29日を予定しております。よろしくお願いいたします。

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