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ネトゲ女  作者: kaji
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第三十四話「彼女が新聞配達する理由」

次の朝の午前5時俺はもしかしたら生まれて初めての早起きをした。一応怪しまれないようにマラソンをしているように装うためにジャージを着て、首にはタオルを巻いてアパートを出た。アパートから出ると冷えた空気が体を冷やしてとても気持ちが良かった。これなら10年に1度くらいは早起きしてもいいかもしれない。そんなくだらないことを考えながら朝早いのであまり物音を立てないようにアパートを後にした。

事前に愛華から里美を目撃した場所を聞いていたので俺はそこで里見のことを待つことにした。前に愛華と初めて会った時の自然公園前だ。俺にとってはあまりいい思い出は無いが近くにベンチもあるので待つにはいい場所だった。俺は里美が通りかかるまでベンチに座って待っていたのだが意外に犬を散歩している人などがいて結構朝なのに人が多いことに驚いた。

20分程ベンチで待っていたのだが来る気配は無かった。俺は待っている間に里美が通らなければいいなと思っていた。なぜだろうか。せっかく朝早くに起きて待っているのに俺はなぜか里美に会いたくなかった。誰かの来る気配がする度に俺の心臓は高鳴った。里美では無いと気づくと俺はとても安堵していた。

30分程待った所で里美らしき人が自転車に乗ってやってきた。帽子を被って髪を後ろに束ねていたが背格好からしてたぶん里美に違いない。たぶんというか絶対にそうだ。昔から里美を見ている俺にとっては1km離れていようとも里美は分かる。俺はジョギングしているのを装うためにベンチから立ち上がり屈伸を始めた。いかにもこれから走りますよということを装うためだ。


 里美は帽子を深々と被っていたので表情は分からなかったが俺だということに気づいたようでひどく驚いたようで自転車から転げ落ちそうになっていた。


「よう! 奇遇だなあ」

「……あんた。何してんの?」

「いやー。最近運動不足だからマラソンでもして鍛えようかと思ってだな」


里美は自転車を俺の前に止めてあからさまに嫌な顔をした。里美は帽子にジーンズに赤いジャンバーという運動性を重視している格好をしていた。じっと無言で俺を睨んでいる里美。まあ確かにこんな時間にこんな場所でいるとおかしく思うだろう。


「雄一だ……よね。何どうしたの? 気持ち悪い。どっか悪いの?」

「お前失礼な奴だな。そんなに俺が朝、外にいるのがおかしいか!!」

「おかしいっていうか意味わかんない。それとあんたかわいそうなくらいジャージ似合わないね」


まあ俺ほどジャージに縁遠い人間はいないとは思うがそれは言いすぎだろうと思って軽くへこんでいたが今日の本題はそのことではなかったので俺は仕切り直した。


「そんなことよりもだな。ていうかお前こそ何やってんだ?」


質問に質問で返してやった。たまには俺も攻めの姿勢で行かないといけないからな。


「何って新聞配達。見て分かんないの?」

「パンドラ買うにしてはやけに根つめてバイトしてるな」

「別にいいでしょ」


俺にそれ以上話すことは無いというような感じで去ろうとする里見。俺は慌てて後ろの荷物を置く所を手で引っ張って里美を引き止めようとした。しかし俺の予想に反して里見の自転車のスピードが速かったらしく俺はバランスを崩して転んでしまった。ただ手は自転車を放さなかったので俺は里美に市中引き回しの刑に処せられることになった。


「いで。いででででで。止めて。止めて。死んじゃう。死んじゃう」

「……」


里美は虫けらを見るような目でこちらを見つめたかと思うと自転車を仕方なさそうに止めた。


「私。あんたと違って忙しいんだけど何の用なの?」


俺は土まみれになった服を払って立ち上がった。体の色々な場所が痛かった。何箇所か擦り傷になっているのだと思う。里美は自転車から降りずにこちらを相変わらず睨んでいた。俺は里美の気迫に負けないように彼女の目をはっきりと見据えて言った。


「お前確か工場でもバイトやっているんだろ? それに加えて新聞配達なんて何かおかしいだろ? 理由があるんだろ? 言って見ろよ」


俺の中では言ってやったぜという気持ちでいっぱいだったが里美は微動だにせず黙ってこちらを見据えていた。時間にしては1分でもなかったが非常に長く感じた。俺が返事を促そうと口を開こうとしたら里美が先に口を開いた。


「ごめん。今はまだ言いたくない」

「それはどういう意味だ」


俺がそう言うと里美は俯いて黙っていた。なぜか里美は悲しげに見えた。こんな里美は初めて見た。いったいこいつは何を隠しているんだろうか。


「ごめん。早く新聞届けないと行けないから……」


そう言って去ろうとする里美に声をかけた。


「後で理由教えてくれるよな」

「……。うん」


俺が叫ぶように言うと里美は小さな声でうんと言ったように聞こえた。俺は里見の自転車が角を曲がって見えなくなるまで見つめていた。これ以上の追求は難しいなと思いしばらく里美が理由を言ってくるまで待つことにした。

風が強く吹き公園の木々を激しく揺らしていた。俺はこのもやもやを吹き飛ばすためにアパートまでダッシュで帰ることにした。しかし、少し走った所で激しい息切れでダウンしてしまった。俺はたまには運動しないとなと思いつつ、アパートに帰った。


ご拝読ありがとうございます。

 危なく更新が間に合わなくなりそうでしたがなんとか形にできて安堵しております。一応これからはこんな感じで里美を中心にして行こうと思いますのでよろしくお願いします。

 次回更新は11月22日を予定しております。なんとか更新がんばりたいと思いますのでよろしくお願いします。

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