第三十三話「負けられない戦い」
スケープゴートに勝った翌朝、俺の目覚めはとても良かった。昨日巨人が勝って気分が良くて朝早起きする親父くらいに目覚めが良かった。俺はこんな日は早めに学校にでも行ってやろうと思って支度を素早く終わらせて学校に向かった。
学校の校門近くまで来ると見たことのある栗毛と黒髪の女の子のコンビを見つけた。あれはたぶん愛華と真板さんだと思う。俺は昨日のことで真板さんにはリアルで少し話があったので話しかけることにした。さてどんな方法で話しかけようか。
A突き倒す
B蹴り倒す
C投げ倒す
なぜか俺の頭の中には倒すという単語が浮かんできた。2秒ほど悩んだが普通に話しかけることにした。
「よお」
少し小走りで俺は愛華達に近づいて横に並んだ所で声を掛けた。愛華は俺だと見て返事をしようとしたがその前に仏頂面の真板さんが返事をした。
「……。誰? この危なそうな人は」
「誰が危なそうな人だって!?」
「えーと。岡崎先輩だよ。忘れたの?」
思わず叫んでしまった。一瞬登校中の他の生徒の注目を集めてしまった。真板さんは怯むかと思ったら顎に指を指して考え込んでいた。俺のことを思い出しているのだろうか。
「……」
「……」
「……」
嫌に長いなおい。まるでコンセントが抜けた冷蔵庫のように同じ姿勢で考え込んでいた。
「思い出しました。あの寿司の名前を全部……漢字で書ける岡崎先輩ですか?」
「それはどこの岡崎先輩だよ」
「ちなみに私は……花の名前を漢字で書けます。車前草、木五倍子
百日紅などなんでもゴザレです」
真板さんはギャグなのか本気なのか判断の付かないことを言い出した。おかしいな真板さんはもっと無口なキャラだと思ったのだが意外と饒舌だった。
それからも再三黒縁眼鏡を光らせて俺を威嚇してきた。真板さんを見ると眼鏡の奥はやはり赤かかった。まあ俺もだがPCをやることによる慢性的な眼精疲労が積み重なることはよくある。これはばかりはどうしようもない。それにしてもこいつ良く見ると真板さんはものすごい無駄に髪に艶があった。普段殆ど日光を受けてないくせによ。
「……何か。失礼なことを考えていませんか」
「いや~。そんなことはないよ」
そう言って俺は俺が今できる極上のスマイルを真板さんに向けた。
「……何ですか? その不気味な笑顔は……お金ならありませんよ」
そう言って身を震わせて幾分俺から距離を取った。そう言う事をされるといくら俺でも微妙に傷つきます。
「ずるいずるいですよー。良子ちゃんばっかり~」
そう言って俺たちの間に割り込んで来た。栗毛の女の子の愛華が無理やり会話に入ってきた。
「いつの間にそんなに仲良くなっちゃたんですか?」
「これのどこが仲がいいんだよ!?」
俺からすれば骨肉の争いなのだが愛華には仲がいいように見えるらしい。愛華も眼鏡をつけた方がいいんじゃないだろうか。俺がとことん真板さんに責められた所で愛華からこっそり耳うちされた。
「先輩どうやら良子ちゃんに気に入られたみたいですね。この色男。このこの」
「あれのどこがだよ……」
そう言って俺の右わき腹にエルボーを食らわせてくる愛華。あれのどこが気に入られたのだろうか。まあでも初めの頃よりは大分慣れてくれたみたいだ。だんだん俺の扱いがひどくなってきているのが気になるのだが慣れてきた証拠だろう。今にパンを買いに行かされるかもしれない。
「そういえば朝ジョギングしている時に里美さんに会いましたよ」
下駄箱から上履きを取り出して教室に向かおうとしている所で愛華が唐突に言い出した。話を聞くと見た感じ新聞配達しているように見えたらしい。そうするとこの間見たのはやっぱりあれは里美だったのかもしれない。
「先輩。聞いてますか?」
「ああ。聞いてるよ。そうかバイトしてるっていうのは聞いてたが新聞配達もしてたのか」
どうやら俺は足を止めて考え込んでいたらしい。考えることを止めて歩き出そうとしたら後ろで歩いていた真板さんがボソッと言った。
「岡崎先輩も……少しはバイトでもして社会に貢献したほうがいい。今のままならニート間違いないです」
「お前言うようになったじゃないか。そこに立って歯を食いしばれ」
俺は振り返って制裁を加えようとしたら真板さんはどこにもいなかった。あいつどこに行きやがった。
「えーと。良子ちゃんは確か図書館寄って行くって言ってましたよ。ははは」
「……。真板さんに言ってくれ。今日20時に集会所で待ってるから必ず来るようにとな。あいつとは一度決着を付ける必要がるみたいだ」
「了解っす……」
愛華は苦笑いしていたが俺は本気だった。いつまでも嘗められる訳にはいけないからな。誰が一番偉いのかここではっきりさせておく必要がある。
愛華と別れて教室に入り自分の席で里美を待っていたのだが里美はいつのもの通りにぎりぎりに登校してきた。なんだか朝の愛華の話を聞いたせいか幾分疲れているようにも見えた。考えるとあいつは夜は工場で働いて朝は新聞配達をしていることになるのだろう。いったいいつ寝てるのだろうか。
昼休みに真相を問いただしてみたかったがなぜか話しかけることが出来なかった。俺が悩んで頭を抱えている所に内藤君が心配して声を掛けてきた。
「悠一君どうしたんですか?」
「いや。なんでもない。皿うどんのどの辺がうどんなのか考えていただけだ」
「そうですか。それならいいんですがそれよりも今日雑誌で見たんですけど新作のゲームが……」
悪いが俺は内藤君の相手などしている暇などなかった。俺はとりあえず相槌として『そういうこともあるかもしれないな』と返すことにした。
「だよね。さすが悠一君だよ」
意外と好評だった。俺は内藤君を適当にあしらいながら考えていた。俺が里美に真相を尋ねられないのはもしかしたらその時嫌な予感を感じていたかもしれない。俺は本能的にそんなことを考えていた。
俺は次の日の朝新聞配達をしているという里美を待ち伏せることにした。現場を押さえて問いただせばさすがの里美でも誤魔化しようが無いと思ったからだ。ちなみにタリアはいつまで経っても集会所に来なかった。
ご拝読ありがとうございます。
当分リアル展開が続きますが我慢していただきたいと思います。次回は一週間後を目処にしたいと思います。
ありがとうございました。