第二十六話「デットヒート」
次の日、俺はイライラしながら帰りのホームルームが終わるのを待っていた。相変わらず里美は遅刻ぎりぎりに登校して来て全く話かける余裕が無かった。授業中はずっと寝ていて起こすのも可哀想だったし、よく考えるとあいつが素直にインしない理由を教えてくれるとも限らなかったので俺は帰りのホームルームが終わるのをまだかまだかと待っていた。
今日はなぜだか担任の先生の話が長かった。いつもは簡単な連絡事項で終わるはずなのに聞きたくもない昨日見たためになったテレビの話を延々としていた。
「じゃあ今日はこれで」
「起立、礼」
やっと終わったと思って里美を見るとすでに姿は無く、今まさに教室から出て行こうとしている所だった。あいつ何て速さだ。
「逃がすか!」
俺はクラスメイトに衝突しながら教室から何とか這い出た。里美は廊下を曲がり、階段を降りようとしている所だった。
「悠一君。帰りにゲーセン寄って行こうよ」
「悪い。今それどこじゃないんだ。行きたきゃ。一人で行け」
俺は内藤君の誘いを断り里美を追った。廊下を駆け抜けて階段の手すりを使って滑り降りた。この技はちょっとしたコツがあるが俺は一年の時に練習して習得した。学園でこの技ができるのは片手で数えるほどしか居ない。それはどうでもいいのだが里美は靴を外靴に履き替えて今や学園の外に出ていた。あいつあんなに早かったかな。
「あー。先輩だ。何やってるんですか?」
声で愛華だと分かったが今日こそは相手をしている暇が無かった。ちらっと見ると隣には昨日の真板さんもいた。愛華と真板さんは本当に仲がいいんだなとちらっと思った。
「悪い。今すんげー。急いでるんだよ。後にしてくれ」
「そんなこと言って私から逃げる気ですね。ちょっと待ってくださいよ」
愛華を昨日のように俺の制服を掴もうとしたが俺は何とかかわして靴を履き替えて学園の外に出た。後ろの方では愛華が騒いでいたが俺は里美を追うことに集中した。学園前の校庭を駆け抜けて学園の外に出た。見ると里美は遥か彼方を走っていた。いったい何を急いでいるんだろうか。心当たりが無いのでかなり怪しかった。その後俺も走って追いかけたが途中で見失ってしまった。さすがにスポーツもしないで家に篭ってネトゲしかしていない自分にはきつかった。途中で吐きそうになって里美を追うのを諦めた。俺は近くにあったベンチに座って息が整うのを待った。
「はあ。はあ全く。はあ。はあ。あいつ廃人の癖に何て……脚力だ」
俺はベンチに反り返るように座って明日はもっと万全の状態で挑まないとこれは勝負にならないなと思った。こんなことならうぃーでも買って体力をつければよかった。今更後悔しても遅いなと思ってしばらくそこで太陽に照らされていた。
その日の夜、ファンタジークエストにインして露天巡りをしている所でニートは人間国宝から秘密会話でメッセージが来た。ねこねここねこの様子は調べたかという件だった。
ニートは人間国宝様から それでパンク。ねこねこさんはどうなっているのか調べたんだろうな。
ニートは人間国宝様へ 悪い。今調査中だ。中々難航していてな。明日には決着つけるから待ってくれ。
ニートは人間国宝様から まあサボっている訳ではないだろうから俺も強くは言えないがお前も知っている通りあまり時間が無いぞ。
ニートは人間国宝様へ ああ。分かってる。トーナメント開幕も近くなったからな。
実は先日トーナメントの組み合わせが公開されたのだ。初戦の相手は罠チームとして名高い『スケープゴート』だった。さすがにそろそろ里美に戻って来てもらわないと色々とまずかった。
ニートは人間国宝様から では頼んだぞ。明日の夜に確認するからな。
ニートは人間国宝様へ ああ。じゃあまた明日な。
俺はそのままログアウトして明日に備えることにした。明日こそ決着をつけなければいけない。俺は明日に向けて作戦を練りながら眠りに就いた。
ご拝読ありがとうございます。
かなりの縮小投稿ですがアップしてみました。里美の奇行解決まで2、3話ほど費やそうと思っていますのでお付き合いいただければと思います。
よろしくお願いいたします。
ありがとうございました。