第二十五話「タリア」
俺が学校に行くとまだ里美は来ていないようだった。しかたないので内藤君と接着剤の良い所を言い合っていた。しかしホームルームが始まろうとしているのに里美は来なかった。先生が来る少し前に里美は息を切らせて教室に入ってきた。こちらをチラッと見たが何も言わずに自分の席についていつもの昼寝の体勢に入った。長い黒髪が顔を隠してガードしているようにも見えた。これでは話しかけることもできないので起きるのを待つことにした。
朝のホームルーム 寝てる
1時間目 寝てる
2時間目 寝てる
3時間目 寝てる
4時間目 寝てる
昼休み 食べながら寝てる
5時間目 寝てる
6時間目 寝てる
帰りのホームルーム 寝てる
こいつはいつまで寝てるんだというくらい寝ていた。里美はホームルームが終わるとパッと起きだしてダッシュで教室から出て行った。
「逃すか!」
俺も里美を調査するために追いかけようとして教室を出たところで愛華に会った。
「先輩先輩先輩せんぱーい。聞いてください聞いてください。喜んでください。今日は戦力を連れてきましたよ」
相変わらずの愛らしさは健在で思わず変な気を起こしそうだったが俺はそれどころでは無かった。
「悪い。ちょっと今忙しいんだ後にしてくれ」
俺が通り抜けようとしたところで服を思いっきりつかまれた。
「先っ輩っ! ちょっと待ってください。ひどい私の話をくれないなんて〜。うー。ぐじぐじ。」
愛華は明らかな泣きまねを始めた。隣に居た友達らしい女の子がよしよしと頭を撫でていた。最近の愛華は俺に大分慣れきってしまって調子に乗りすぎて少々俺は困っていた。
「分かった。分かった。聞けばいいんだろ。なんだ早く言え」
愛華はさっき頭を撫でていた女の子を前に押し出してきた。
「真板良子ちゃんです。いえーい。ぱちぱち」
その女の子はショートカットのおとなしそうな黒縁眼鏡の女の子だった
「はじめまして……よろしくお願いします」
「あ。どうも〜。はじめまして。……それで? この子がなんだって?」
「先輩。話聞いてなかったんですか? 良子ちゃんがうちのチームに入ってくれるんですよ?」
俺は理解するのに結構な時間がかかったどうやらブルーウィングに入団してくれるらしいのだ。まさかリアルで紹介されるなんてことは今まで体験したことも聞いたこともなかったので初めは何がなんだか分からなかった。
「先輩。聞いてください。良子ちゃんすごいんですよ。ファンタジークエストが出来た時からゲームをしてて私の師匠でもあるんですけど……って先輩聞いてます?」
「ああ。悪い聞いてるよ。へえ。古参なんだね。名前はなんて言うの?」
俺は正直里見を追いかけたい所だったがこうなると愛華は俺のことを放してはくれそうに無かったので諦めることにした。
「えと……タリアです」
「タリア、タリア……ってあのタリア……さん?」
「たぶん。そうじゃないでしょうか?」
「……」
「先輩? どうしたんですか?」
「愛華。ちょっとこっち来い」
俺は愛華を引っ張って廊下の隅に連れてきた。タリアと言えばファンジークエスト内では超有名人で俺も一応古参の一人なのでBSRに在籍していた時にいくらか交流があった。まさかリアルがこんな女の子だとは思わなかった。それよりも気になることがあった。
「おい。愛華お前何でこんな有名人と知り合いなんだ?」
「何でって友達だもん。私が紹介してもらったんだよ。このゲーム。だから師匠なの」
なのって言われてもなあと思いつつ真板良子さん(タリアさん)を見ると目が合ったみたいでビクッと体を震わせていた。俺は近づいていったがなかなか距離が縮まなかった(4mくらい)。あら。距離を置かれてるのかな。
「えー。歓迎するよ。真板さん。今度ゲームで会おう」
俺はかなり離れた位置から歓迎の意を唱えた。
「ほら。良子ちゃん。握手握手。怖くないから。ほらほら」
真板さんはかなり嫌がっていたが愛華に後ろから押されて握手をしに来た。
「ねえ。言った通りでしょ」
「うん」
何が言った通りなのだか分からないが悪い印象は与えてないようだったので安心した。それから愛華達と少し話してから里美を追いかけたがもちろん里美はどこに行ったのか分からなかった。明日こそはと思って俺はその日は諦めて帰った。
ご拝読ありがとうございます。
縮小投稿ですがまた投稿してみました。
短くても細かく投稿するのもいいんじゃないかと
思いまして切も良かったので投稿しました。
切が良さそうでしたら投稿しますのでよろしく
お願いいたします。