第十六話「好きなライターが引退するのって残念ですよね」
チーム対抗トーナメントの第2回戦の日時が決まった。6月7日の21時30分からで相手が「聖騎士団」だ。フィールドは大草原だそうだ。俺は連勝できるように気合入れてブログの更新をした。
週末、俺は愛華と内藤君とで町に遊びに行くことになっていたので待ち合わせて遊びに行った。愛華はもうロリを絵に書いたような格好をしていた。山奥に住んでいるお金持ちの令嬢のようななんだかひらひらとしたふりふりの白いワンピースを着ていた。こんなのどこで買うのか聞いてみたらネットだと言っていた。予想通りの答えだ。1000万点あげよう。内藤君は色々と補正を掛けてますが長い髪を後ろで束ねて、黒いタンクトップにジーパンでまるで昔の江○洋○を彷彿とさせる格好だった。
俺たちはまず近くのゲームセンターに行った。早速内藤君と愛華はわき目も振らずエアホッケーがある場所に行った。俺も仕方がないなと思いつつも付いていくことにした。内藤君は背中に背負っていたリュックから何か道具を取り出した。
「内藤君。それはなんだね?」
「これはですね。マイスマッシャーですよ」
内藤君はどうやら自分専用のスマッシャー(手に持ってパックを引っぱたく道具のこと)を持っているようだった。悪いが俺はそこから先は突っ込まんからな。
「内藤さんのスマッシャーって自作らしいですよ。すごいですよね〜。私も欲しいです」
「苦労したんですからね。材料をネットで調べたり、近くのホームセンターに行って探したりして……云々」
「早速やりましょうか。兄さん一緒にやりますか?」
「いや……。俺はいいよ。見てるから二人でやってくれ」
俺はとてもじゃないが二人のレベルについて行けそうにないので見学することにした。二人は慣れた手つきでエアホッケーを始めた。
バシュ
バシュ
エアホッケーのパックが壁に当たって跳ね返る度に独特な効果音が流れた。二人はさすがに通り名が付くほどうまいらしいので見るとやはり二人ともうまいので中々点が入ることがなかった。内藤君が攻めて愛華はそれをうまくブロックしているように見えた。というか早くてあまりよく分からないのだが。
「おい……。1点も入ってないんじゃねえか?」
「そうですね。愛華さんとこれやるといつも点が入らないんですよね」
「絶対に点入れさせませんからね。いいんですか? お話なんてしてて」
結局得点が入ることは無く終了してしまった。まったく点が入らなくて面白いのだろうか。
ゲームセンターは終わりにして次は愛華の提案で本屋に行くことにした。何やら新刊が出たから買いたいということだ。行きつけのお店があるというので俺と内藤君は着いていくことにした。着いたのはアニメの専門店のようだった。俺たちの住んでいる町には一軒だけだが大手のアニメ専門店が進出していた。愛華が言うには他の店よりも品揃えがいいらしいとのことだ。俺はこの手の店には初めて入るので少々緊張していた。
「おい。内藤。ここ来たことあるのか?」
「うん。あるよ」
内藤君はそっけなく言った。まるで当たり前じゃないですか。何言ってるんですかというような口ぶりだった。なんだか妙に腹立たしかった。
中に入ると一面アニメのキャラのポスターやら何やらでいっぱいだった。BGMは最近放送しているアニメの主題歌のようだ。俺もアニメは見ることは多いのでこの曲は知っていた。驚いたのは男が多いかと思ったのだが若い女の子が多かったことだ。むしろ女の子しかいないように見えた。気が付くと愛華と内藤君は自分の目的の場所に向かっていた。内藤君は欲しいゲームのサントラがあるらしくてそちらに向かった。俺は適当にぶらぶら回ってどんなものが置いているのかチェックしていた。ぶらぶらしていたら聞き覚えのあるロリボイスが聞こえた。
「に。兄さん……。ちょっと持つの手伝ってもらえませんか?」
振り向くと大量の本を持った愛華らしく人物が立っていた。というか手に持っている本が多すぎて顔が隠れてるじゃねえか。40、50冊はあるんじゃないのか。俺は愛華の持っている本の上から3分の2くらいの所に手を挟めて持ってやった。
「おい……。まさかそれ全部買うんじゃねえだろうな?」
「はい。そうですよ。目的の本が全部手に入ったのでうれしいです」
愛華は満面の笑みで答えてくれた。これが普通なんだろうか。レジまで着いていったんだが他の客とか普通に引いているように見えた。
「カバーはお掛けしますか?」
「はい。お願いします」
「おい……。マジかよ」
愛華は普通にお店の人にカバーをかけさせるようだった。お店の人は3、4人で必死になりながらカバーをかける作業をしていた。思わずお手伝いましょうかと言いたくなるほど痛々しい光景だった。
本を受け取って俺と愛華は買い物が終わったらしい内藤君と合流して店から出た。俺はあまり興味がなかったが内藤君に何を買ったか聞いてみることにした。
「内藤君は何を買ったんだ?」
「はい? ああ。ええとですね。ゲームのサントラですね。つい良作のゲームだとサントラも欲しくなるんですよね」
同意を求められても困ったがとりあえず安心した。抱き枕とかだったらどうしようかと思った。
次は内藤君の提案でゲームショップに行くことにした。この町にも何軒かゲームショップがあるが内藤君によると他の店よりも一番品揃えがいいし、ポイントがつくからよく利用しているらしいなどと先ほどの愛華と同じようなことを言っていた。俺は基本的にはオンラインゲームが基本でオフラインゲームはあんまりやらないので内藤君についていくことにした。
内藤君はいわゆるギャルゲーコーナーの前に行くと俺に聞いてきた。
「岡崎君。これとこれどれがいいと思いますか?」
内藤君の指さした先を見ると似たような絵でタイトルの後ろの方に「+」や「+α」や「EX」などとついていた。俺には違いが分からなかったので内藤君に違いを聞いてみることにした。
「というかこれって何が違うんだよ?」
「何言ってるんですか? これは攻略できるヒロインが増えていてですね。これは中身は同じだけど特典内容が違うんですよ。それでこれはですね……」
「いや。もういい。うーん。そうだなあ。これがいいじゃないのか」
俺は適当に一番箱がでかいのを勧めた。
「やっぱりそうですよね。僕もそう思っていましたよ」
適当だったがどうやら正解らしかった。
「攻略し終わったら私にも貸してくださいね」
いつの間にか愛華が隣に来ていた。というかお前もかよ!
ああ。こいつらだめだ……。と思ったがこいつらが今の日本を支えているんだよなと思ったら情けないやら日本もう駄目だろとか思ってしまった。
内藤君についていってレジに向かおうとした所である人物にばったり出会った。
「あ……」
「あ……」
「あら? 前田さんじゃないですか。珍しい所で会いましたね」
その人物は「ねこねここねこ」の中の人こと前田里美だった。里美はTシャツにジーンズにキャップというやけにボーイッシュな格好をしていた。里美はたまに一人でこうしてゲームショップをうろついているという話は聞いていたが俺は会ったのは初めてだった。
「知ってる人ですか?」
「知ってるというかねえ。内藤君」
「ええとですねえ。何と言いますか」
一応里美には俺たち以外に「ねこねここねこ」だと言うことをばらすなということを言われていたのでなんと返せばいいのか答えに窮していた。
「悠一と内藤君とはクラスメイトで前田里美です。悠一とは幼なじみでもあります」
「ええ! そうなんですかあ。私は桐原愛華って言います。里美さんの後輩になりますね。兄さ……。岡崎先輩達とはちょっとした集まりで知り合いまして仲良くさせていただいてます」
二人ともなんだか妙に堅苦しい挨拶をしていた。
「ちょっとした集まりですか。へー。そうなんだあ」
「えへへ。そうなんですよお」
里美は口元に若干ニヤニヤを出しながら俺に視線を向けてきた。全部知ってて知らないような態度を取るなんてなんて嫌な女だ。俺は適当に話を切り上げて里美から離れたかった。
「里美先輩もゲームのチェックに来たんですか?」
「え! えとねえ……。ちょっとトイレを借りに来たのよ」
「んー。そうなんですかあ。せっかくお友達になれるかなって思ったんですけど。残念です」
「そうねえ……。残念ね」
やたらとアグレッシブな愛華だったが撃沈したようだった。というか里見よ。お前めちゃくちゃ嘘くせえじゃないか。トイレ借りに来たってなんだよ。そんなに必死に隠さなければならないことなのかよ。
里美を見るとものすごい顔で俺を睨んで、目でサインを送っているように見えた。なんかすげえ怖い。
ピロリロリ
メールが来たようなので見てみると「ばらしたら殺す」という文面が里美から送られてきた。内藤君にも同様のメールが送られてきたらしく、先ほど選んだゲームを持ってぶるぶると震えていた。いつメール打ったんだ。こいつはよ。
「せっかくだからご一緒しませんか? なんだか初めて会った気がしませんし。ファミレスにでも行きましょうよお」
「え! 私は別に。いいわよ。三人で楽しんできたら?」
「里美せんぱーい。いいじゃないですかあ。お話しましょうよお。お願いします! 助けると思って」
「う。うーん……。そうねえ」
どうやら愛華は里美のことが気に入ったらしく愛華得意のつぶらな瞳攻撃で里美を篭絡しようとしていた。結局里美は愛華の熱意に負けて俺と内藤君と愛華と里美の四人で近くのファミレスに行くことにした。
ファミレスに入ると店員さんに案内され俺たちは席に着いた。俺の横に内藤君が座り、ちょうど俺の前に里美が座り、内藤君の前に愛華が座るような形になった。俺はなんだか里美の視線からの視線が痛いのでできるだけ目を合わせないことにした。俺たちは適当に注文して雑談をした。
「里美さんはゲームとかやりますか?」
「私ですか? 私はゲームなんて見たこともないですよ」
「お前廃……。ぐふぇえ」
愛華は里美に何か感じるものがあるのかしきりに里見にゲームの話題を振っていた。俺は里美に思いっきり足を踏まれた。里美を見ると笑いながら怒っていた。器用なやつだ。俺たちは終始なごやかな話題で盛り上がった。俺の足は里美に踏まれすぎて痛くて仕方がなかった。
ファミレスでその日は解散となった。俺と里美は帰りが同じ方向だったので一緒に帰ることになった。里美はなんだか異常なほど無口だった。いつもそんなに話す方ではないのだが俺が内藤君のエアホッケーのうまさや愛華の引きほど本を買ったことなど話をしたが里美は返事だけしかしなかった。俺も話すことが無くなって無言で歩いていたのだが里美が急にこんなことを話し出した。
「悠一って愛華のことが好きなの?」
「はあ? 何言ってんだよ。あれに手を出したら犯罪だろ?」
「そう……」
何を言い出したかと思えば俺が愛華のことを好きかということを聞いてきた。こいつはいったいどうしたんだろうか。ついにゲームのやりすぎでおかしくなったんだろうか。そういえば最近こいつは様子がおかしかった。俺は歩きながら原因を考えていたのだが一つ思い当たったので里美に言ってみることにした。
「まあお前の好きなシナリオライターが引退するのは残念だけど仕方がないよ。結局あの業界は原画家の一人勝ちの構造になってるんだからさ。俺たちはその人のこの先の未来を応援するしかなんだよ」
「……」
「ななな。何言ってるのよ。どんな勘違いしてんのよ!」
俺はなぜか左頬を殴られていた。一瞬左頬の皮膚がなくなったんじゃないかと思った。
「痛ってえなあ! お前言ってたじゃないか。私、彼が戻ってくるのを過去作品やりながら待ってるって」
「確かに言ったけどそんな心配今してないわよ。死ね! 悠一」
里美はやたらと怒って俺を置いてずかずかと歩いて行ってしまった。
「うぉぉーい。待ってくでー」
「着いて来ないで!」
着いて来ないでって言われても同じ方向なんだよなと思いつつ微妙に距離を開けながら一緒に帰った。その後里美の機嫌が直ることはなかった。別れるとき声をかけたが何も返事をしてくれなかった。本当に最近のコイツは訳がわからん。まったくリアルでも選択肢が出てくれれば楽なんだがなどとくだらないことを考えながらその日は帰った。
ご拝読ありがとうございます。
今回はチャット風会話を使わずにリアル話を中心に書いてみました。
次回は一週空けまして6月7日の更新を予定しています。チーム戦の模様を予定しておりますのでよろしくお願いいたします。
余裕がありましたら5月31日に番外編でも投稿するかもしれません。
どうぞよろしくお願いいたします。ありがとうございました。