70 羨望の後ろ姿
「そんなの……アリシャちゃん悲しすぎるよ」
震えた手で俺の袖を掴んでいるティナ。
無理もない、こんな話を聞かされた後だ。
「私をあの人の元へ送って頂けますか?」
「…………………………………………………………………………」
言葉が見つからない、答えも同様だ。
「アリシャさん。あなたの話が本当だとして、あなたの死がダンジョン攻略に繋がる根拠はあるのですか?」
「正直分かりません、けど攻略への切っ掛けには繋がると思います」
「駄目だよ!そんなの……サイさんだって絶対に望んでないよ!」
ティナが必死に想いを伝える。
「……確かにあの人に怒られるかもしれませんね、けどお願いです!私の…心が完全に壊れる前に逝きたいのです」
「だったら私がゴーレム全部やっつけるよ!そうすればアリシャちゃんが自由になれるかもしれない!」
振り向いて草原に向かおうとしたティナの手を掴む。
「ティナ!…早まるな!話を聞いただろ!」
「エルはそれでいいの?」
「良い訳ねーだろ!……けど……さっきお前何体倒した!?3000体以上のゴーレム倒せるのか?」
「……………………………………………」
ティナは優しすぎる、気持ちは痛い程分かるが感情で流されてはいけない。
俺がストッパーにならないと………。
けど本当にそれで良いのか……。
「ありがとうございます、気持ちは伝わりましたが男性の方の言う通りです。それにそこまで想ってくれた貴方達を死なせたくありません」
「……ずるいよ……そんなの………ハルちゃん」
訴えかける様にティナがハルさんを見つめる。
「今回はエルくんが正しいよ。実際にティナちゃんの選択は命を無駄にするだけ。」
「……………………………………………………」
「けど穢れの無いその綺麗な心は素敵よ。勝ち目の無い戦いでも、戦う理由があるなら迷わない。そうエンに教わったわ。」
「……ハルさん?」
「エルくん。あなたの選択は間違ってない。現実をしっかり解っている。だからこそあなたに、強くなることで選択の幅を広げられる事を今から教えるわね。」
「ティナちゃん。エルくんの血が滲む程強く握った拳を手当てしてあげてね。」
ハルさんはそう言って、空気の塊を蹴るようにアリシャさんの元に向かった。
そしてアリシャを抱いて戻ってきた。
「えっ?なんで?………どうして私の話を信じてくれなかったの!本当にゴーレムの大軍が!………また私は同じ事を繰り返してしまうの……」
アリシャさんは色々な感情が混ざり合っているように見えた。
「三重魔法防壁。ここから出ないでね。エルくん、ティナちゃん、あなた達の師匠がどれ程強いかちゃんと見ててね。」ニコ
ゴオォーンッ!ゴオォーンッ!
本当に鐘の音が聞こえた。
大量のゴーレムが道を越えて来ているのが目視で分かる。
ハルさんはゴーレムに向かって走り出した。
「5000はいるわね。半分お願い出来るかしらリーちゃん?」
「ハルちゃんの為なら何だってするよーってゴーレムじゃん!食べられないなー」
「後で美味しいお魚たくさん用意しとくね。」
「やりー!じゃあーあっち側行ってくるね」
「お願いねリーちゃん。」
あれはハルさんの召喚獣だな。
聞いてはいたけど、見た目は女の子そのものだな。
「あっリーちゃんだ!」
ティナが手を振ると気付いたみたいで、手を振り替えしている。
リーちゃんことリヴァイアサンは水の中に入り姿を変えた。
幼い少女の姿から、蛇のような水のドラゴンといった感じかな。その大きさはとてつもない。
「うそ、あれはリヴァイアサンなの?」
アリシャさんが目を真ん丸に驚いている。
「そうだよー、ハルちゃんがテイムしてるんだよ!」
「あの海の王をテイム!?……ハルさんは何者なの?」
「アリシャさんを助け出す英雄だよ!私とエルの師匠が動いてくれたんだもん!絶対に助かるよアリシャちゃん!」
ティナは先程から全身を震えさせていたアリシャさんを抱き締めた。
「私また希望を持ってもいいのかな?…サイ」
俺は今この時のハルさんの姿を一生忘れないだろう。
まるで草原を駆け回る妖精の様だった。
その洗練された技は舞踊を舞うかの如く、気高く美しい。
放たれる魔法は、彼女を一際映えさせる花火に見えた。
息1つ切らさない綺麗な顔に、俺は瞬きを忘れて見入ってしまった。
いや、俺だけではなくティナとアリシャさんもだろうな。
積み上がるゴーレム残骸の山の頂に佇むハルさんの後ろ姿を見て、俺は憧れと同時に悔しさで襲われた。
「ティナ、あの人を超えるぞ!追い付くだけじゃ駄目だ!必ず追い抜いてやるぞ!」
「うん!絶対ハルちゃんみたいにカッコ良くなる!」
ハルの行動は見事若い二人の心の炎を大きく燃え上がらせた。
「あんなにいたゴーレムが、こんなにも短時間で……」
アリシャさんは力が抜けた見たいでその場に崩れた。
「行きましょうアリシャさん!本当の自由を手に入れたんですよ!」
「行こっ!アリシャちゃん!」
二人の差し伸べた手を取った。
「はい!」
「ハルちゃーん!」
「ティナちゃん。カッコ良かった私?」ニコ
「カッコ良過ぎだよー!さすが私の師匠!」ギュ
「リーちゃんは役目果たしてくれて戻ったのね。」
ハルさんに見惚れてて反対側をすっかり忘れていた。だが何も問題はなかった、ゴーレムの影は1つもなかった。
「ハルさん、本当にありがとうございます」
「良いのよ。助けたいから助けた。それだけの事よ。」ニコ
「このご恩は一生忘れません、ハルさんは英雄です」
「それは違うわよ。あなたの本当の英雄は、その命を賭けて掴んだ情報を私達に繋げた彼でしょ。」
「……そうですね、ありがとうサイ!」
涙を脱ぐって浮かべたアリシャさんの笑顔はとても綺麗だった。




