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69 雨の日の木漏れ日

「そうだったのか、話してくれてありがとなアリシャ」


 私は自身に起きた出来事をサイに全て話した。

 サイは一切疑いもせず信じてくれた。



「ねえダンジョン攻略しなくていいの?」


「こっちにいればゴーレムに襲われる心配がない事が分かったからな」


「外に出たくないの?」


「またそれか、別に俺は急いで外に出たいって気分じゃない、なんなら攻略しなくても良いって位だ」


「……そう。……でもなんで?」


「お前を置いていけないだろ!何十日も言葉を交わして身上まで知っているんだ、もう他人で済ます関係じゃないだろ?」ニコ


「バカね、あなた」


「おいおい!名前で呼んでくれよ、この間みたいにさ!」ニヤ


「………ッ!聞こえていたの?」


「それと、もう自分の気持ちを俺への質問で誤魔化すのはやめろ!俺よりも『外に出たい』のはアリシャ、お前自身なんだろ?」


 サイは気付いていたのね。

 私自身が気付いていなかった、封じていた心の底にしまった本当の気持ちを。



「なんでそんな事を言うの?…叶わないと分かっていたから、抱いた希望が無くなるのが怖かったから閉まっていたのに……あなたのせいで心がぐちゃぐちゃになってしまったじゃない!!」



 サイは涙を流す私に手を伸ばしこう言った。


「アリシャは強い!俺が逆の立場だったら間違いなく正気でいられる自身がない」


「………………………………………………………」


「きっと俺がこのダンジョンを見つけたのは、……いや俺がこの世に産まれてきた理由は、アリシャに会う為だったんだ」


「………………………………………………………」


「俺を頼ってくれよ、本当の気持ちを隠さずに言葉にしてくれ、アリシャ!!」



 その言葉はどんな刃物より鋭く、その表情はどんな生地のタオルより柔らかく、その眼は今まで見てきた中で1番誠実で力強く感じた。



「……ねがい……お願い……『サイ、私を救って』」


 全身の内外で重く巻かれた太い鎖が音を立てて千切れた気がした。


「まかせろ!これで自由だな」ヒョイ


 サイは私のいる場所に飛び、私を抱えた。


「凄い……私動けるよサイ!!」ポロ


「見てるよ、アリシャは自身の恐怖に打ち勝ったんだ!」


 止まった時が再び流れ始めた。

 サイは舗装された地面に私を下ろした。


「てか人魚って立てるのか?」

「バカにしないで、見てて!」


「うおー!凄いな!陸バージョンは二股になるのか!……けど」


「そうよ!この姿は人間と変わらないでしょ?それと、けどって何?」


 サイはそっぽを向いて答えた。


「何か服を来てくれ!」


 私は慌ててサイから貰った布を腰に巻いた。



 ゴオォーンッ!ゴオォーンッ!



 急にダンジョン内に響き渡る石鐘の音。


「…なんだこの音は?空気が変わった」


 嫌な予感がする。大抵は嫌な予感だけでは終わらない。


「…嘘。…ゴーレムが道を越えて来てる。」


 草原から越えて来なかった筈の時が止まったゴーレムが雪崩のように進軍してきていた。

 その数3000体は越えているだろう、ダムを囲む様に全方位からだ。


「アリシャ!俺より前に出るなよ!……なに、最高の舞台じゃねーか!姫を助けるシチュエーションとしてな!」


 サイは剣を取りだしゴーレムに突っ込んでいった。


「…サイっ!」


 サイは本当に強かった。その剣の一振りはゴーレムを複数体凪ぎ払う。

 本当に強かった。


「ヒール!ヒール!ヒール!……ヒール!!」


 私は後方でひたすら回復魔法をサイに掛けた。

 けど回復が全然間に合わない……。

 圧倒的にゴーレムの数が多すぎた。



「サイ!お願い!一度水の中に逃げましょう!」


「……グゥ……やだね……アリシャを……苦しめた……場所に…もう一度なんて!……グゥハ……俺は大丈夫……あと少しだ……ガッ…外に出たら……一緒に海に行こうな!」



 大量のゴーレムの残骸、意図してか分からないがシェルターのようにアリシャを囲む様に積まれていた。

 その上で命を削り戦うサイ。


「…やめて!……もういいよ!…ごめんなさい……私の願いが愚かだった!…このままじゃ死んじゃうよ、サイ!!」


 左腕は千切れ、右足は関節と逆に曲がっている。全身が血で真っ赤に染まっても尚サイは剣を振るっている。


「……あと…少しだ……ガァホォ…ゼェ……」


「…ザイ…もお…や"め"で………グス……」


 私の為に戦っている彼を、泣いて見守ることしか出来ない。

 私は弱い、何も出来ない。



「……悪魔に…捧げる右…足で……反撃の……狼煙……を挙げろ!秘奥義『爆禅犠贄』」


 一瞬悪魔のシルエットが見えた気がした。その悪魔がサイの右足を食べた。

 次の瞬間、広範囲で大爆発が起き、ゴーレムを300体は粉々にしただろう。



「悪魔に…捧げる左…足と右腕……反撃の……狼煙……を挙げろ!『爆禅犠贄』」


 サイは残りの手足も悪魔に捧げた。

 先の倍の威力の広範囲大爆発が起きた。


「やめてサイ!」


 私はゴーレムの残骸をよじ登り、サイの元に駆け寄った。



「……ぁと……どのくらい……だ?」


「グス……もう全て倒したよ……グス……あなたに私は救われた……ありがとう…サイ!」


 サイの目は焦点が合っていなかった。


「……そうか……良かっ…た……これで……海に……」


「サイ、サイ!サイ!!……ありがと…う」


 サイは静かに息を引き取った。

 その瞬間ゴーレムの大軍は全て姿を消した。



 そして私は気付いたら水の檻で自由を失っていた。

 彼が切り裂いてくれた筈の重い鎖がまた巻かれた音がした。



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