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52 想いの重み

 雲で霞がかる月光が目と心に癒しを与える。

 穏やかな気持ちを流れ星が掻き乱す。

 祈りを捧げるその姿は見るものを呆然とさせる程、無垢で穢れを感じさせない美しさだ。


「まだ寝ないのですかエル?」


 窓を開けて夜空を眺めていたハルが聞く。

 俺はベッドに腰掛けながら軽口を叩く。


「一緒に寝るかー?」

「バカ。」

「そう言うハルも早く休んでおけよ、明日はやいんだからなー」

「そうですね。でも、もう少しだけ星を眺めたいので。」

「ハルは空を見るのが好きだよな」


「ええ。眺めている間は何も考えなくて済むから。けど最近は違くて楽しい事が頭に浮かぶの。」


 空を眺めているから顔が見えないが、俺にはハルが微笑んでいるのが分かる。


「私は嬉しいんです。帝国に来てエンが出会った頃のエンに戻ってくれて。」


「出会った頃の俺?」


「この三年近くエンは取り憑かれた様にケイジを探してた。ずっと不安だったの、いつエンの心が壊れてしまわないか。」


 俺は堪らずにハルを後ろから抱き締めた。


「本当に巻き込んですまないと思ってる、ハルの人生を俺がねじ曲げた」


「何回も言いますけどエンは私の人生をねじ曲げたのではなく、あの時終わりを迎える人生を取り戻してくれたんですよ。」


「……そう思ってくれているなら救われるよ」


「だから絶対にケイジも救える筈です。あなたなら。いえ、私の英雄のエンとならね。」ニコ


「絶対に俺たちであいつの目を覚まさせよう」



 あれからもう三年以上か……。

 時が経つのは早いと言うが俺の秒針は止まったままだった。

 死にもの狂いでケイジの影を追って追っての日々だった。

 今改めて思い返すとハルとこんな『普通』の会話を帝国に来るまでした記憶がないな。

 て言うか記憶自体残ってない、俺は何をしていたんだっけ?

 ここ最近の記憶は鮮明に覚えているのに………。


 本当にハルの言う通り俺は取り憑かれてたんだろうな、ケイジへの想いに。



「ティナちゃんたちを一緒に同行させる事には驚きましたよ。」


「正直、俺も自分自身に驚いているんだー。なんで連れて行くと思ったのか」


「今までのエンだったら有り得ない判断ですね。何なら人とこんなにも関わる事自体。」


 頭を掻きながら口を開く。


「エルとティナを見ていると昔を思い出すんだ。全然環境等違うんだけど何故かね」


「エンとエルくんは似てるんですよ。だから惹かれ合うんです。私は凄くあの二人に感謝してるんです。」


 ハルが俺の手を握り真っ直ぐ見つめる。


「感謝?」


「はい。先の大戦でケイジに再開出来た時ですら動かなかったエンの時間を、あの二人が少しだけ進めてくれた気がするんです。」


 本当にハルには敵わない。俺の心の内を正確に見抜いているよ。

 どれだけ心配かけてるんだよ俺、情けないな。

 そのことに微塵も気付いてなかったなんて。

 今は全てを引っ括めてこの言葉しか出てこないな


「ハル、ありがとう」


 互いに見つめ合い顔の距離が少しずつ縮まっていく。

 窓の縁に腰掛けた二人は、外から射し込む月明かりでシルエットが部屋に一枚絵を写し出す。

 心臓の音が奏でる想いの演奏曲に不協和音が響いた。


「あー!エンとハルちゅーしてる!!」


 ミルアの声に慌てて立ち上がるハル。

 顔はリンゴとトマト以上に赤らめていた。


「な…なっ何言ってるのミルア。してないわよ。寝ぼけてるのね。」

「寝ぼけてないよー!ちゃんと見たもん!ハルとエンはチュッチュッ!」(^3^)/


 右手と左手をくっ付けては離す動作を繰り返す。


「ミルア怒るよ。それにいつから起きてたの?」

「ハルが『私の英雄のエンとなら』とか言ってた所位から!」ニコニコ


 笑みが溢れて仕方ないミルアと、恥ずかしさのあまり体育座りで顔を埋めたハル。


「やるじゃんエン!ケイジケイジだったから男が好きなのかと思ってたよー!」


「ハルの言うとおり本当にしてないよー。後少しだけ声かけるの我慢してくれたら良かったのに」


「それはそれは失礼しました」ニコ


「もー二人ともバカ。バカバカ。」


 その後大きな笑い声が部屋中に響き渡った。





 -約1ヶ月程前-


「それじゃ三年ぶりに話そうぜーケイジ!!」


 お互いが顔を合わせたのはケイジが魔人となったあの日以来だ。

 目は真っ赤に染まり、肌は黒に近い灰色に変わっていた。両耳の上に巻き角の様なものもあった。


「なあ完全に人をやめたのか?」


 俺はケイジの攻撃魔法を交わし続けながら言った。しかし、返事はない。


「ハル、ミルアと先に合流しててくれ!」


 ハルは先の召喚獣で魔力をほぼ使いきっている。流石にケイジ相手で戦いながら守りきれるとは思わない。苦渋の選択だ、すまない。


「ええ分かってるわ。けど一言言わせて。『ケイジ、私まだお菓子の開け方嘘つかれた事根に持ってるんだからちゃんと謝りなさい』よ…。」


「………ちゃんと元にもどってね。」ボソッ


 ハルは俺に目配せしこの場を立ち去った。


「なあ届いてんだろ俺たちの声が!」


 ケイジの中距離連続魔法を交わしながら拳が届く距離まで近付いた。


「いい加減目を覚ませやバカ!」


 俺はおもくそ力を込めて頭突きした。

 仕掛けた俺が一瞬だけ意識が飛んだ、こいつ頭鋼かよってほど硬かった。

 その隙を付かれお腹に重い一撃を貰い吹き飛ばされた。


「……痛ってーな」


 体勢を立て直しながら思ったが、久しぶりに痛みを感じた。まあレベル200を超える俺にダメージを与えられる奴は中々いないから当たり前だが。

 するとケイジの口が僅かに動いた。


「……………………………………エン」


「やっと少し思い出したのか、なら全て思い出すまで何度でも繰り返してやるよ」


 再度動き出そうとした時、ケイジの側に奇妙なエフェクトが発生した。おそらく転移系の魔法だろう。

 そこから顔を不気味な仮面で隠した者が現れた。

 俺には分かる、あれは人ではない。


「魔の真髄を極めるにはまだ時間が掛かるか」


 仮面の者が言葉を発した。


「お前は誰だ?ケイジとどういう関係だ?」


「おや、貴方もケイジと同じでイレギュラーな力を御持ちの様だ」


 誰かは分からないがその声に俺は聞き覚えがあった。


「質問に答えろ!」


「再び逢うことになるだろう理を外れた者よ」


「おい!待てよ、ケイジ!」


 仮面の者がケイジを連れて空間を切り裂きその中の消えて行った。

 また俺は何も出来なかった、手の届く距離まで来たのに文字通り何もだ。


 この日の為に費やした三年間が儚く散ったのだ……。



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