2 異世界が乱入
……………あれ、今何時だ?
体が動かないな、重いものが乗っている気がする。
昨日はお酒も飲んでないのに少し頭がぼーとするな。それでも重いものの正体は分かった。
「おい!ケイジ!起きろバカ」
「何でお前が俺の上で寝てるんだよ」
「おーエン、ご苦労」
眠そうな目を擦りながら漠然と返事をする。
「いい加減にどけよっ」バーン
「いってーな、あれ、エンどーした?」
「どーした?じゃねーよバカこんな大変な」
……大変?
そうだ、思い出した昨日空から、そして光が
「空の色は?空からの大陸はどうなった?」
ケイジを蹴飛ばしたエンはすぐに外を見渡した。澄んだ空気と穏やかな気温、家族でピクニックがしたくなる程の雲1つ無い快晴。
昨日までと同じ理解出来る範囲内の天気だ。
昨日と同じで変わらない日常を迎えるはずだった。
「……………ありえない」
目の前に広がる光景は昨日と上は同じでも、そこから下は別のものに変わっていた。
何時も見ていた二階の角部屋から見えるものは、正面にスーパーと少し大きい駐車場、左側に田んぼが広がりポツポツと家がある。右側には多少の飲食店と一本道の国道が真っ直ぐに伸びている、はずだった。
「寝てる内に森に連れてくるなんて面白いじゃねーか、エン!」
「バカ、ここは俺んちだろ……」
「森にじゃない、森が来たんだよ……」
昨日まで見ていたスーパーや建物の面影はある。
しかしその全てが草や苔、つるや木で覆われていて見渡す限り森になっている。
どうなっているんだ?俺はまだ夢の中にいて起きていないのか?考えろ。非現実的過ぎるだろ。考えろ。大掛かりなドッキリか。考え……
「エン、スマホの充電器壊れてるぞ!」
「TVも電源入らねーし、電気代滞納か?」クス
慌てて部屋に戻り確認するが全ての電気製品が使用不可能だっだ。それどころか水道にガスもだ。
「ケイジの部屋も同じか確認してきてくれ」
「おう、分かった」
全速力で自分の部屋に戻るケイジ。
やはり昨日の出来事を現実として受け入れるしかないのか。ファンタジーは好きだがあくまで物語だから好きなんだ。けど、なぜ心がこんなにもソワソワしているのだろう。
「エーン!ちょっとこっちこい」
ケイジ大声が薄壁の隣から聞こえてくる。
「やっぱり使えないかー?」
そう言ってドアを開けると、そこには目を疑う現実がまるで挨拶しているようだった。
「俺んちに変なのいたから捕まえたんだか、なんだこれ?新種のトカゲか?」
ケイジと違って漫画やアニメを良く見ているから俺にはあれが何かが分かる。
ケイジが片手で掴んでいる、人間の顔ほどの大きさで緑色をしたそれは間違いなく『ゴブリン』だ。
もっと大きいと思っていたが子供なのだろうか。
「ケイジ気を付けろ、そいつ危ないぞ」
「大丈夫だろこんなや……痛ー!」
掴んだ小ゴブリンの顔を見ようと手首を回した瞬間小ゴブリンがケイジの耳の一部を噛み千切った。
血が流れながらもキレたケイジは壁に向かって思いっきり小ゴブリンを投げた。
「ピキャギャ」グチャ
緑色の体から青い血のようなものを全身から吹き出して、小ゴブリンは動かなくなった。
それと同時にケイジが口を開く
「なんだこの音、ステータス?」
「おい、耳から血が大丈夫かー?」
「こんくらい平気だ、それよりこのプレートみたいなのなんだ?触れねーぞ!」
「さっきから何言ってるんだよ本当に大丈夫か?」
「あ?エンにはこれ見えないのか?」
ケイジが手の甲を顔の前に突き出してくる。
「右手がなんなんだよ?」
「レベル1 HP600 MP3」
「…………本当にそう書いてあるのか?」
「ああ、ATK480何だアイドルか?」
俺は確信した。間違いない。昨日のあの出来事で世界が変わった。歴史が、常識が、全てが崩れ去る。
体が、脳が、心が震えた。
(けど普通こっちから異世界に行くんじゃないのかよ)
(大体異世界転生ものは選ばれた人間が、しかも多くても数人だろ)
(間違いなく異世界自体が転生してきてるだろ)
(そもそも転生って言うのかも分からないが)
(違う答えははっきりと分かった)
「俺が求めていたのは日常を覆す『刺激』だ」
-木元 慶二 ♂ 26歳 LV1-
HP :600
MP :3
ATK:480
DEF:480
LUK:300