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26 絶歌

 王都内はとてもザワザワしている。

 人々は混乱し、不安を隠しきれていない。


「隊長、今の爆発音は……」

「現場に向かったのはサジュリの隊だな」

「南、先程エン達がケイジを探していると言ったな」

「はい、友人から聞いたのですが」


「ただの偶然であれば良いのだが……」


 レルビンは空を見上げ呟いた。



 場面は王都から外れの瓦礫前に移る。


「……何を言っているのか分かっているのか?」


「人類の皆殺しを手伝ってほしい」


 ケイジの目は真っ直ぐに俺の目を見ている。


「急に……何があったのですかケイジ?」

「話してくれ、ランちゃんが関係あるのか?」


「……関係があるか、だと……………」


「俺はランの為に今まで生きてきた……それはこれからも変わらない」


 ケイジの体から黒いオーラが沸き始めた。


「エンの時と同じ………。」

「あれはやばいな、尋常じゃない力を感じる」


「俺は真実を教えられた……

 ランがどうして魔人に堕ちたのか……

 ランがどんな屈辱を受けたのか……

 ランがどんな痛みに耐えてきたのか…

 そしてランがどれ程俺を待っていたか…」


「許せねーんだよ、ランの痛み以上の絶望を与えるしかねーだろ」


「誰に何を聞いたか分からない、けど納得するまで話し合おうケイジ」

「そうです。私もエンもケイジの仲間です。」


「…………エン、ハル」


 ケイジの黒いオーラが少し弱くなった。



「あやつが犯人に違いない!捕らえろ!」


 王都の方から100はいるであろう騎士団がこちらに向かってくる。

 立派な鎧や旗持ちまでいるのを見ると、位の高い騎士団である事は分かった。


「…………あの紋章…」


 ケイジはそう呟くと騎士団に凄い速さで突っ込んでいった。


「おいケイジ!」


 一瞬遅れて追いかける。


「全員、抜剣かかれー!!」



 "おおおおおぉぉぉー"



 騎士団はケイジに剣を振るも当たるはずもなく次々に殴り飛ばされていく。


「ガルシア・バンドータフ!!!」


 ケイジが叫び、騎士団の団長らしき男に拳を突き出そうとした。


 ガシッ!


「それは流石にやりすぎだろ、殺すつもりかケイジ」


 間一髪ケイジの腕を掴み食い止めた。


「…………なんで邪魔すんだよ!エン!」


 騎士団の男は迫力に圧され、馬から落ち震えている。


「本当に落ち着けよ、頭を冷やせ」


「……こいつらが……ランを……うっ……」


「お前はあのイカれた魔人の知り合いだったのか、あんな害虫死んで当然だろ!我が主君は間違っていない!」


 怯え震えている騎士団の男が暴言を吐く。


「……死んで当然……グァ……ランが害虫……ギャ…」


「おいあんた、直ぐにこの場から消えろ」


 エンの言葉に男は這いずりながら離れていく。

 ケイジの様子が明らかにおかしい。

 オーラも増して強くなり、なにより黒い涙の量が滝の様に流れ出した。



 "グガアアアアアァアァ"



 ケイジの体が爆発を起こし、数十メートル程吹き飛ばされた。

 ハルが走って側に来てボソッと漏らす。



「……うそ。………………魔人堕ち。」



 ハルの目線を辿るとそこには俺の知らない、ケイジだけどケイジではない者が立っていた。

 そして呟く…


「…………『引力絶歌』…………」


「…!」


(やばい、これはやばすぎる)



「ハル!ごめんしっかり受け身を取ってくれ」


 俺はハルを抱えた全力で後方に投げ飛ばした。


「えっ。きゃっーーーーー。」


 一瞬で先程までいた場所が、まるで隕石が落ちてきたかの有り様になった。


「痛ええぇーじゃすまねーぞケイジ!」


 エンの顔付きが変わった。


「今のハルがいたら間違いなく死んでたぞ!」


「……………………」


「何とか言えよオラッ!!」


「………………………」


 ケイジは無言で右手を俺の方向に伸ばした。

 掌からどす黒い巨大な塊が現れた。


「本当に人間辞めちまったのかよっ」


 エンは拳を強く握り肩を震わせた。

 黒い塊はどんどん大きくなる。


「目を覚ませよバカ!!」


 次の瞬間、黒い塊が消えた。

 それと同時にエンはその場に倒れた。



 "殺してやる"

 "惨殺だ"

 "希望の先は生き地獄"

 "忌み嫌われた子"

 "呪い"

 "狂喜に満ちた虐殺"

 "死にたくない"

 "大量殺人"

 "凶悪恐悪狂悪"

 "血で血を洗う"

 "助けて"

 "ぐちゃぐちゃ"


 体の中に憎悪や怨み、負の感情が流れ込んできた。正気じゃいられなくなる………

 心が壊れそうだ……死にたくなる………

 壊したい………殺したい………気持ち悪い………

 臓器を潰したい………目玉をくり貫きたい……

 命を消し去りたい………………………けど……



「俺はお前を救いたいんだよぉー!!!」


 瞼を無理矢理開き、ケイジに突っ込む。


 グハッ!


 しかし近付く前に吹き飛ばされてしまう。


 それでも何度も何度も何度も何度も何度も


「ケイジ!!!」


 体はぐちゃぐちゃだ。

 多分全身の骨が折れているのだろう。

 痛みなどとうに感じなくなっていた。



 折れた脚で前に進む。



「………………………」



 潰れた腕で前に進む。



「………………………」



 血で前が見えていない眼で前に進む。




「……………………」



 飛び散りそうな魂で前に進む。



 ケイジの足を触れた。



「………………………え……ん…」


 ケイジの口元が微かに動いた。


「……そろそ…ろ帰…ろう、…ケイ…ジ」


「……………………えん……たのむ……」


「………スポーツ……カー…は貸さな…いよ」


「………………おれ…を…ころしてく…れ」


 ケイジの黒い涙の色が透明に変わった。


「………やだね、…………絶対に…」


「………ころせ…たのむ…よ…あ…い…ぼう」


「…………ふざけんな」


「……………………恨むぞ…………グッ」



 "ゴオオオオオオオオォォォォォ"




 大きな音と同時に漆黒の闇の中にケイジは姿を消した。



「………………ケイ……ジ…」


 俺は意識を失った。





 暗闇はなく、無知があるのみ。




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