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25 絶望の誠

 エン……


 エン………エン…


 エン………エン……エン…



「エン。」


 ハルの声で目が覚めた。


「………何かあったのかー?」

「そうではないのですが。酷くうなされていたので。」

「そうだったのかー、ごめんな」

「仕方がないですよ。色々有りましたから。」


 また同じ夢を見た。

 黒い海を見つめている自分を眺める夢。

 身体中から汗が噴き出していた。


「なんなんだろー、不思議な夢だ」

「どんな夢だったのですか?」

「いいや、なんでもないよ」

「それよりもう昼頃かー、ケイジはまだ寝てるよな」

「いつもだったらそうですね。」


 昨日の出来事がそれこそ夢であったら良かったのに。

 けど逃げちゃ駄目なんだ。正面から向かい合わないと。


「ハル、少し体を流してくるよ」

「はい。ご飯を作っておきますね。」

「ありがとう、そのままケイジを起こしてくるよー」


 俺は部屋を出て、宿屋にある風呂場に向かった。

 風呂場では数人の話し声が耳に入ってくる。


「昨日魔人が遂に死んだんだってよ」

「嘘だろ、俺が聞いたのは誰かが助けたって聞いたぞ」

「誰かって誰だよ」

「知らん知らん、どっかの目立ちたがりの馬鹿がやったんだろ」

「本当だったら死ぬほど馬鹿だよなー」

「あっははは」


 耳を塞ぎたくなる……。やめてくれ……。

 俺は直ぐに風呂場を出てケイジの部屋にむかった。


 コンコンっ!


 返事がなく物音すら聞こえない。


「やっぱりまだ寝てるよなー」


 ガチャっ!


 ダメもとで掴んだドアノブが回り扉が開いた。


「流石に鍵閉めろよケイジー」


 寝ているケイジを起こそうとしたが、辺りを見回してもどこにもいない。

 とても嫌な感じがして堪らなかった。

 走ってハルのいる場所に戻った。


「ハル、ケイジがいない」

「え…。お風呂とかではないでしょうか。」

「凄く嫌な予感がするんだ」

「私も正直同じです。」

「お互い別れて探そう」

「はい。」


 早急に宿屋を出てケイジを探し始めた。

 とてつもなく広い王都を闇雲に己の足で掻き回る。

 昨日の酒場、商店街にあの広場。めぼしい場所から順に潰していく。


 しかしどこにもケイジの姿は見当たらない。


「……どこ行ったんだよ、ケイジ!」


 血が沸騰してるかの如く体が熱くなる。



「エン、何してるんだ?」


 そう話しかけてきたのは走斗だった。


「ケイジがいなくなった………」

「ケイジってあのケイジ君の事か?」

「ああ、頼む探すのを手伝ってくれ走斗」

「事情は知らないが分かった、南にも伝えてみるよ」

「ありがとう」


 俺は直ぐにまた走り出した。

 くそ。こんな時スマホが使えれば……

 そうだ、前にハルが高レベルなら連絡が取れるって言ってたよな。

 その場に立ち止まり左手のプレートを出し、パーティー一覧のケイジの名前を押した。


 だが何も反応しない。


「どうするんだよ………繋がれよ……」


 落ち着け落ち着け、こんな時こそ冷静にだ。

 漫画やアニメならやはりイメージ力か……

 電話のイメージ、テレパシーのイメージ、


『メッセージ』


 …………ザザ


 頭の中に直接ノイズの様な音が流れた。



『ケイジ!ケイジ聞こえるか?』



 ………うそ………な…………ランは何も悪くな…………



『ケイジ何処にいるんだ、良く聞こえない』



 ……俺は………分から……………信じ…………皆殺しだ…



『皆殺しって何だよ、おいケイジ!』



 声が聴こえなくなった。


 確かに聞き取れたのは『ラン』と『皆殺し』と言う単語だ。

 誰かと話している感じがした。


「何を考えているんだよ」


 何時間走っているのだろう。

 息が上がり体が休めと命令を出すが、俺は一切従わなかった。


「エン。ハアハア……どうですか?」


 息を切らしたハルと遭遇した。


「見当たらない、それどころかまずいことになっている」

「まずいこととは。」

「パーティー間の連絡手段、それで不吉な単語を微かに聞き取った」

「………すぐに見つけないと。」



 "ドォガォオオオオン"



 会話の最中に、爆発のような重音が響いた。

 音の方角にまるでミサイルが墜ちたかのような煙が上がっている。


「間違いない、ケイジだ行こう」

「はい。」

「ハル、抱えるぞ」



(スキル 『能力向上』 『身体超加速』)


 エンの走りは、スキルエフェクトさえ置き去りにするほど速かった。

 1分経たない内に煙の元にたどり着いた。

 抱えたハルを降ろすのを忘れる程の光景が広がった。


「………ケイジ」


 煙の元の場所は、俺たちを泊めてくれた親切な方の家だった。

 知ってるからこそ家だと分かったが、普通の人が見たらそれは『血の付いた瓦礫の山』だろう。


「……ケイジ帰ろう、なにかの爆発に巻き込まれたんだろ?」


「………………………えん」


「…そうですよね。…怪我はありませんか?」


「………………………はる」


 ケイジはゆっくりとこちらに振り返った。


 怪我をしている様子は無さそうだが……

 拳には血が垂れており、何より


『黒い涙』を流していた。


 背筋に寒気が走った。


「ケイジ取り敢えず風呂に行くぞ、ハルがご飯を作ってくれたんだ汚れを落とせ」

「そうですよ。汚れすぎです。」


「…えん、はる、頼みがある」


 ケイジがゆっくりと言葉を捻り出す。

 俺とハルは近くに寄り聞き返す。


「おかずはやらねーぞー」

「私のなら少しならいいですよ。」


 冗談を言う状況ではないのは分かっている。

 けれど無意識に会話を延ばそうとしている。

 聞くのが怖い。


「…人類を皆殺しするのを手伝ってくれ」


 言葉が出てこなかった。





 今望んでいるものを手にして何の得があろうか。

 それは夢、瞬間の出来事、泡のように消えてしまう束の間の喜びでしかない。



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