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24 いつくしみ

 俺はケイジの言葉を聞き逃さなかった。

 間違いなく『ラン』と言った。

 確認しても、俺にはこの距離と炎だと分からない。

 生きてきた中で1番、今この瞬間が恐ろしい。


「……ケイジ、本当なのか…」


 ケイジは突っ立ったまま瞬きすら忘れている。


「ケイジ。どうしたのよ。」


 ハルがケイジに近寄り、体を揺さぶる。

 その瞬間ケイジはハルを振り切り全力で魔人の方に走り出した。



「ラン…ラン…ラン…ラン……ラン!」


 俺は直ぐ様ケイジを追った。

 十字架のすぐ手前で止まったケイジは炎の熱など全く気にしていない様だ。


「ラン俺だ!ケイジだ!返事をしろ!」


 俺はこんなにも切なく儚いケイジの声を今まで聞いたことがない。



 "お…にい………ちゃん…"


 微かに聞こえたその声には聞き覚えがあった。


「…………ランちゃん?」


「エン!!ハル!!頼む水を出せ!!」


 ケイジが叫びながら炎に突っ込んでいった。

 すぐに駆けつけたハルと一緒に水魔法で炎の消火にあたった。

 鎮火したその場所には軽い火傷を負っているケイジが幼き少女を抱えていた。


 エンは恐る恐る近づいた。


「…………なん…で………らんちゃん」


 全身の力が抜けその場に崩れ落ちた。


「エン。ケイジ。……誰なのですか?」


 ハルが肩に手を添えてくれ質問する。


「…………………………」


「……おにいちゃん」


 ハルの表情が分かりやすく固まる。


「ラン!俺だ!今治してやるからな!」

「ハル!魔法で治してくれ頼むお前なら治せるだろ!」


「………無理よ。だって……グズ…」


 ハルはその場で泣き崩れた。

 ランと呼ばれる少女を良く確認すると首から下は作り物の人形だったのだ。


「無理じゃねーだろ!頼むよ…!……エン!」

「…ケイジ、最後のランちゃんの話を、声を聞いてあげろ」


 エンは手で顔を隠してうつ向いた。


「………………………」


「本当に……会えたよ…お兄ちゃ…ん」


「ごめんラン!ごめん……」


「泣かないで……お兄ちゃん…は…私をちゃん…と…見つけてくれ…た…よ………」


「すぐに探しに来るべきだった……」


「私ね…神様にお願いし…たの…どんなに…酷いことをされ…ても………もう一度…お兄ちゃんに会いたいって……」


「急にね……前の家と……違うとこに飛ば…されて…いじわるされて…皆に…嫌われて…痛くて…苦しくて…首だけになっちゃった…けど…お兄ちゃんはお兄ちゃんのままで…………よ…かった…」


「当た…り前だ…ろ!ランの…兄ちゃんだぞ!」


「……お兄ち…ゃん……だ……い…す………」


「ラン!おいラン!返事してくれ!ラン!」


 魔人と呼ばれた首だけの少女は動かなくなった。



「なんでだよっ!!何でなんだよっ!!」


 ケイジの魂の叫びが王都中に響く。



 俺たちは思考が完全に停止した置物と成した。


 人は誰かを守りたいと思った時、想像以上の力を発する事が出来る。

 人は誰かを愛した時、その人の為ならどんなことでも成し遂げることが出来る。

 人は自身が特別だと思う存在に値する人と、一緒にいる為なら自身を変えることが出来る。


 素敵な言葉だな。本当にそうだ。


 安っぽい教科書はもういらない。


 俺が俺である必要もないだろ。



『ランに絶望を与えた全てが憎くて堪らない』


『殺してやるよ屑共』



 夜空が次第に色を変えるのと同じ時間で、俺たちの心も明るい色に変えてくれればいいのに。


「エン!ハル!宿屋で休もう!」


 ケイジの突然の言葉に驚いた。


「………ケイジ」

「………ケイジ。」


 ケイジはランちゃんを抱えたまま歩き始めた。

 俺とハルは付いていく事しか出来ない、かける言葉が見つからなかった。


「ケイジ、気の毒にまさか魔人が

「ドケよ!」


 レルビンの言葉を遮りケイジが言い放つ。

 ハルは少しレルビンにお辞儀をして通りすぎた。

 見ていた限り、レルビンが兵を統制して俺たちに近付けさせないようにしてくれていた。

 けど今はそんな事どうでも良い。


 首を抱えて歩くケイジを民衆の人々はとても怯えている。

 どう思われても関係ない、俺たちは全員そう思ってたに違いない。


 宿屋に到着し、ケイジは一人で部屋を取った。

 俺とハルは同部屋にした。

 この時だけは一人で居たくないと強く思った。

 ハルはケイジも一緒にと言ったのだが、冷たく凍った目を見て一人を許した。


 部屋に入ってすぐベッドに横になった。


「なあハルには兄弟いるー?」

「姉が一人にいます。だからケイジの気持ちが分かるとは言いませんが。」


「ケイジとランちゃんは血は繋がっていないんだ、けど血の繋がり以上の絆があった」


「ケイジの親はあいつが小さい頃に蒸発して、養子として老夫婦に育てられたんだ」


「とても良い人達だったと言ってたよ、それで引き取られたあと直ぐ、赤ちゃんだったランちゃんも養子として暮らすようになったんだ」


「けど事故で老夫婦が亡くなってからケイジが自分を犠牲にして育てたんだ」


「ケイジにとってランちゃんは妹であり自分の子供でもあったんだよ」


「ランちゃんはケイジの全てだったんだ、なのに俺は探しに行くの遅らせたんだ」


「危険を承知で直ぐにでも探しに行けば


 ビシッ!


 ハルがエンの頬を叩いた。


「…自分を責めないで。あなたの判断が無かったらランちゃんに会う前に死んでいたかもしれない。あなたの知識が無かったらランちゃんに今の私たちの気持ちを味あわせたかもしれない。あなたがいたからケイジは最後にランちゃんと再会できたの。あなたたちがいたから私は生きているの。エンもケイジも優しいのは知ってるわ。だからこそ可能性の話で自分を責めるのはやめて…。」


「………ハル」


「それに今1番悲しいのはケイジよ。私たちが支えにならないとでしょ。」


「そうだね、そうだといいな」


「そうなんです。」ニコ


 ハルは涙を流しながら笑顔を作った。


「明日立派なお墓を俺たちで作ろう」

「はい。凄く立派なものを作りましょう。」





 人が、生まれるときに泣くのは、この馬鹿共の立ち回る世界に出て来てしまったことを嘆いているのだ。




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