20 運命の歯車
どのくらいの時間が過ぎたのだろう。
久しく空を見ていない、自然の風を感じていない。
高校生の夏休み期間でさえ、3日以上部屋に引きこもった事は無いというのに。
頭はクールに気を回す、だが心は高鳴り踊り続けている。今日という今の刺激を楽しんでいた。
「次で99階層だなー」
「やっとここまで来ましたね。」
「さっさと終わらせようぜ!」
エレベーターを出て光の先に歩き出した。
81階層を突破してから俺たちはは休みを挟みつつ、大きな怪我なく進んできた。
ゴールの見えないマラソンをひたすらに走り続け、一応俺の頭の中の区切り100階層まで後少しだ。
95階層から敵が臨界者、レベル70を超えた者が立ち塞がってきた。今のレベルでなければやる気スイッチを千回は修理に出していただろう。
とは言えいくら俺たちが倍近くレベルが上であったとしても、最初からこいつらと戦っていたら間違いなく怪我を負っていただろう。
これまでの階層での経験は戦い方を学ぶ良い勉強になった。
様々なタイプの魔物やモンスター、多勢から精神系など、俺はこのダンジョンが育成目的ではないかとも思う様になっていた。
(まあ育成で臨界者レベルが出てくるのはやり過ぎとは思うけどなー)
「何だこれ!空があるぞ!」
「………闘技場では無いですね。神秘的です。」
「神殿みたいだなー」
今回はいつもの闘技場ではなく、通路の先に繋がっていたのは物語に出てきそうな神殿そのものだった。
闘技場も広かったがここはその倍以上だ。
所々に聳え立つ柱は歴史を感じることが出来、神殿中央には祭壇の様なものがある。
それより驚いたのは天井がなく、夜空の星が目視出来た点だ。
3人はその美しき光景に圧倒されていた。
"グゥルアアアアァァォァ"
突如上空から響き渡る巨大な咆哮。
輝く星の1つが少しずつ大きくなっていた。
「あの星こっちに向かってきてねーか?」
「いや、あれは星じゃないよ二人とも構えろ」
「…………うそ。………金色の龍……。」
近付く星の正体はすぐに分かった。
全身から溢れる程の輝きを放ち、夜空から舞い降りたその姿は空想上の生き物、『ドラゴン』だ。
まあ空想上ってのは元の世界の話だが。
「おいおいおい!エン捕まえるぞ!」ソワソワ
ケイジが物凄く身震いしている。
「流石に無理だろ、こいつ強いぞ」
「強いなんてものではありませんよっ。」
ハルが両拳を強く握り言葉を放つ。
「……古い文献で見た姿そのもの。」
「ハルは知っているのかこのドラゴン?」
「知っているも何もこの龍は………」
「伝説の龍。バハムートです!!」
(スキル 『魔眼探究』)
「……金神龍 バハムート LV99か……」
「おー!めっちゃ強いじゃねーか!」
「バハムート…。災いと救いの混沌を司る神。」
"汝らに問う。何故この聖域を侵略する"
祭壇上のバハムートが話しかけてきた。
「おい話せるのかよ金ぴか!」
「ケイジ少し黙ってろ」
エンがケイジを下がらせる。
「バハムート、俺たちは侵略なんてつもりは一切なかった、ただ迷い込んだだけだ」
"人在らざる力を持つ運命の悪戯者よ。主はその力を何に注ぐ。"
「えっ?………………」
"芯なき力は世界を傾ける諸刃の鍵。開く扉が破滅、興隆、どちらでも世を干渉し裁きを受けるだろう"
「………………」
"真意を晒し哀しき理を脱却してみせよ"
「ケイジ、ハルを頼む」
「おい俺にもやらせろよ!」
「悪いけど何故か俺がやらなきゃいけない気がするんだ、頼む」
「分かった!秒で終わらせろ!」
「ああ」
「エン。気を付けて。」
「ありがとう」
俺はなぜか分からないが、この龍の言葉が心に深く刺さった。言葉の重みをこれ程感じたことは初めてだ。この龍は未来が見えている様に感じてならなかった。全力で戦わなければいけない相手だと思った。
「行くぞ、バハムート」
エンはバハムートのいる祭壇の方に走り出した。
(スキル『制限解除』『能力向上』『魔力解放』 )
走りながらまだ祭壇にいるバハムートに向け両手を伸ばす。
「極大魔法 光玉の慈悲」
「極大魔法 常闇の抗い」
祭壇周辺に巨大な立体魔方陣が現れ、無数の光と闇の塊が全方位からバハムートに襲いかかる。
大きな音と同時に大爆発が発生し、視界が煙で塞がれた。
次の瞬間、俺は凄い勢いで吹き飛ばされ何本もの柱に激突した。
「……攻撃が見えなかった、それどころか重複極大魔法で無傷かよ」
祭壇があった場所は魔法で更地になっていたが、その場所にいるバハムートが傷1つ負っていないことはすぐに分かった。
「ならば……」
(スキル『瞬速移動』『剣技の加護』『斬攻追撃』)
一瞬でバハムートの後に距離を詰め、ストレージから出した剣を振りかざした。
パキッ!
剣がバハムートの鱗に負け、悲惨にも砕け散った。
"青い。全てが緩い。己の魂を解放せよ"
バハムートはそういい放つと尻尾でエンを吹き飛ばした。
「ガァハッ、はぁはぁ…」
エンは口から大量の血を吐き出し肩で息をしている。
(やばいなーこれがまともにダメージを負う感覚か、めっちゃ痛いどころじゃないぞ)
「何してんだエン!やられっぱなしじゃねーか!」
「うるせー、魔法も剣も何も効かないんだよ」
「両方同時にやれよ!それか殴れ!」
(神龍って程だ、魔法や剣が効かない特殊スキルがあってもおかしくないな)
(レベルは俺が上だがあくまで人という種族のレベルってことなのか……)
(それに魂の解放って言ったな、スキル一覧を確認して何故か説明がなかったのがあったな)
(試してみるか)
「スキル 魂解放臨界突破」
「…エンの雰囲気が変わった。凄く怖い。」
「何したんだあいつ!」
ハルが震えている。
エンがスキルを仕様した途端、体に黒いオーラを纏った。そのオーラは、絶望が目視出来るかの如く禍々しいものだった。
目は赤く染まり、息を飲むのも出来ないほどに空気が凍った様だった。
"それが主の誠の姿か。冥界の使者であったか"
「………………」
エンはゆっくりバハムートに近付く。
ゆっくり近付いているだけ。それなのにエンが一歩足を前に運ぶ度、バハムートの体から血が流れた。
"面白い存在だ。長き時で世界を調整し待ち望んだが主であったか"
"先が見えぬ…か。汝ら皆に伝える。心と魂を悲劇に変える時、その『つけ』を回収するのもまた汝らである"
"残酷な選択だ……"
エンがバハムートの体に手を優しく触れた。
その瞬間、バハムートの体は粉々に崩れ落ちて輝きを放って消えた。
「おいエン!なんなんだよそれは!」
「………エン?」
ケイジとハルがエンに走って近寄り問いかけるが、エンはその場に突っ立っているだけで何も答えない。
「おいエン!いい加減にしろ!」
ケイジが殴ろうと拳を突き出した途端、ケイジは遥か後方に吹き飛ばされた。
「……エン。お願い…正気に戻って。」
震える体でハルがエンを抱き締めた。
「……………ハ…ル?」
エンがそう呟い瞬間たエンの体の隅々から大量の血が噴き出した。
「エン?しっかりしてエン。ケイジ来て!エンが…」
神殿が音を奏でて崩れ始めた。
外観という者は
いちばんひどい偽りであるかも知れない
世間というものはいつも虚飾に欺かれる




