12 落涙のマリオネット
「おー!やっと来たなお前ら!」
ケイジが口角を上げて近付いてくる。
「バカ。もっと考えて行動しなさい。」
「いやハル、ケイジは私の行動など手に取るように分かっていたのであろう。話し合っている時間などもったいないと」
(レルビン買いかぶりだ、ケイジは初めて見たものは躊躇なく触る性格なんだー、毛虫でさえねー)
(そんな性格の奴が浮いている扉なんて見たらすることなんて決まっている)
「とにかく気を引き締め直そう、帰り道が無さそうだしねー」
エンの言葉で一同はキョロキョロ首を振る。
「まさか完全攻略型だとはな……」
「それって…。ダンジョンの中でも高難易度と認定されている特殊型ですよね。」
「ハルはエルフだからよく知っているな、その通りだ。あの伝説の勇者パーティーが攻略して以来、目撃情報すら無かったものだ」
(入ったら完全攻略って訳だから目撃情報どころの話ではないなー、クリアしなきゃ出れないわけだし)
(まあ勇者が攻略出来たのなら何とかなるだろ)
「大体のダンジョンは最初の場所には何もいないはずだ。下の階層に繋がる道を探そう!」
レルビンが皆に伝えるとケイジが
「それなら見つけてあるぞ!この先に階段がある!」
ケイジの言うとおりの場所に下へ繋がる階段があり、最後の段差の先にはまた扉があった。
(ダンジョン内では感知系スキルが発動しないなー)
-第一階層-
扉の奥には同じ様な洞窟が。しかし、広さが先の場所の倍はあるだろう。その所々にゴブリンやコボルト、巨大コウモリの死体が転がっている。
「これは翼と南の仕業だろう……」
「そうか、しかしまずいなー」
各死体の側に、人の血の痕が残っている。
「みんな、別れて下の階層への階段を探そう」
「おう!了解です。分かった」
(このコウモリの魔物は初めて見るな、レベルはゴブリンと変わらないのか?)
(それにしても死体の数がおよそ200体は超えているぞ)
(無事でいてくれれば良いのだが……)
「皆さんありましたー。」
ハルが大きな声を出し、手を招いている。
-第二階層-
扉を開くと先程とは打って変わり、大きめの四角い部屋のようだ。壁一面に唐草模様に似た柄があり、全体的に紫色で薄気味悪い。部屋の奥にカーテン付きのベットの様なものがある。それと、あちこちに大小様々な大きさの不気味な人の姿をした操り人形が転がっている。全ての人形に目がない。
カラカラカラ……。
"ぉマちしテォリましタ"
そう言ってエンたちの前まで来て頭を下げたのは膝まで位の大きさの人形だった。
ハルが震えた手でエンの袖を掴む。
「やばいな、さっきの階層と桁違いだよ」
「部屋に入った時から寒気がとれない」
レルビンを見ると足が震えているのが分かる。
片方をハルの震えた手に重ね、もう片方で人形に向かおうとするケイジを抑えた。
カタカタ……。
ズルズル……。
コトコト……。
転がっていた人形達が徐々に起き上がり、挨拶をした人形の元にゆっくりと近付く。
足のない人形は這いつくばり、首だけの人形は転がり、次第に50体程集まった。
"かンげィのアカしニだんスをゴラんクダサぃ"
そう中央の小さな人形が発すると、突然人形同士で『殺し合い』が始まった。
腕を千切り、足を切り裂き、首を落とし合う。
とても見るに絶えない光景だった。
すぐにハルの目を塞ぎ後ろに隠した。
良く見てみると人形の体から血の様なものが滴り落ちていた。
「何なんだよこれは!!」
ケイジが叫ぶと奥にあるベッドのカーテンが外れた。中には女性が涙を流して呆然としている。
「南ー!!!」
レルビンが叫ぶが聞こえていないようだ。
先程の小さな人形が手を叩く。
"ギャアアァアァアァァァー"
コミカルに殺しあっていた人形達が、突然苦しみ出し奇声をあげた。
"いダぃよ"
"ぐルじィ"
"だずげで"
"ゴロジでグれ"
次の瞬間、全ての人形が形相を変え襲い掛かってきた。
「スキル、肉体強化!喰らえーおりゃ!」ドカ
ケイジは拳で次々と殴り倒し、レルビンは剣で斬り裂いてゆく。
ハルとエンは後方で下級魔法で援護する。
次第に数は減り、最後の一体をケイジが粉々に砕いた。
"おミごとデす、ツぎはこノこだヨ"
小さい人形がそう言うと、ベッドの脇からエンと変わらない大きさの人形が姿を表した。
"能力コう上、にク体強化、迅速ノ斬ゲき"
(人形がスキルを使った……?)
ヒィュンッ
一瞬で距離を詰めた人形はケイジの首を目掛けて剣を降り下ろす。
ケイジは初撃をかわし、人形の背後に回り込みガッチリと体を掴んだ。
それをみたレルビンが間髪入れずに斬りかかろうと剣を構えたその時、ベッドから
「やめて隊長!」
南が声を荒げた。
「南、正気に戻ったか!しかしなぜだ?なぜ止めるのだ?」
レルビンが剣を止め南に聞き返した。
「………それは…その人形は…………翼なの…」
南は涙で顔がぐちゃぐちゃになりながらそう答えた。
「おいうそ…だろ!」
「確かに面影が少しある……」
"つまらないですね。本当に余計なことをしてくれましたねお嬢さん"
口調を変え小さい人形がそう言った。
"もういいでしょう。後々気付いた時に浮かべる人間の絶望と後悔の表情を見るのが至高の一時でしたのに、台無しですよ"
「お前は何者なんだ……?」
"私は傀儡の化身、そうですねドロシーとでも名乗っておきましょうか"
"その子はとても勇敢でしたよ、自分が勝てないのが分かったら、何でも言うことを聞くから女は逃がしてほしいってね"
"感動しちゃいましたよ私、なので意識はそのままで人形にしてしまいましたよ"
"だから人形の体なのに鮮明に感じているはずです、自分を助けにきた者に襲い掛かっていた現実をね"
"こうなったら貴方達を殺して、女を殺して、絶望する少年の表情を想像して楽しみましょう、直に見れないのが残念ですがね"
「………正気じゃない。…おかしいよ。」ブル
「チクショウ!チクショウ!チクショウ!」
「なあドロシー、取引をしたい」
エンは小さい人形に向かって言った。
"取引ですか。面白いことを言いますね、聞いてあげましょう"
「少年を元に戻せ、それと他の人形たちもだ」
"ほお!他も元は人間だと気付いていましたか。しかしそれは出来ないんですよ、一度人形になったものは絶対に元には戻れない。私を殺してもね。まあ無理だと思いますが"
"ちなみに聞きますけど私へのリターンはなんだったのですか?"
「……苦しみを与えず殺してやることだ」
その瞬間、部屋に残っている少年以外の全ての人形が粉々に砕け散った。
「終わったのか?」
「いや、まだだよ」
"まさかこれ程とは驚きましたよ。あなた、そして剣を持っていない方の体格の良い君は臨界者ですね。"
翼である人形がそう話した。
「まさか翼に乗り移ったのか!?」
ケイジが体を離し、態勢を整える。
"まさかこの少年に救われるとは私も運がいいですね。まさか攻撃なんてしないでしょう?"
(どうすればいいんだ、打つ手がないのか、考えろ…)
"流石に臨界者を二人も相手には出来ないので私は消えるとしましょう、この場所はとても気に入っていたのですがね"
翼に乗り移ったドロシーはベッドの方に歩いていく。
「エン!なんかねーのか!」
「考えてる!ケイジは黙ってろ!」
「二人ともやめなさい。」
サッ
ベッドから降りた南は翼の前に立ち塞がった。
"退きなさいクソ女、あなた位なら何時でも一瞬で殺せますよ"
「つばさ!聞こえてるんでしょ?私があなたに最初で最後のお願いをするわ!」
「返事をしなさい!」
涙で前がみえていないだろう。俺も同じだ。
いやこの場にいる皆が感情を抑えきれていない。
"馬鹿なこと、本当に目障りだ……ぐっ……"
"ワアアアアアアアアアアァァァァァァ"
雄叫びをあげた人形に目が宿った。
"確かにお前にお願いをされた記憶はないな"
「………翼!翼なのね!」
"ああ、お前の言葉で戻って来れた、ありがとう"
南は翼を抱きしめた。
「言いたいこと……いっぱいあるのに……言葉が上手く出てこないや」グズ
"なら俺から言わせてくれ、南、多分お前の事が好きだった"
「……多分ってなによバカ。」
"ハハハ!最後だし恥ずかしがってる場合じゃないな、南愛してる"
「知ってた……。翼もでしょ?私の気持ち…」
"ああ、知ってるさ" ギュッ
翼は南から離れ、こちらに歩いてきた。
南はその場に座り込んだ。
"レルビン隊長、剣を向けたご無礼誠に申し訳ありませんでした"
「気にするな、それにケイジには悪いがとても良い剣筋だったぞ」
"それとお三方、隊長を、南を、そして俺自身を助けていただき本当にありがとうございます。感謝してもしきれません"
「…………すまない」
"何を仰りますか、人として行けるのです。人形での永遠の苦しみから解放して下さった英雄です。顔をお上げ下さい"
"では隊長、最後のお願いです。もう意識が持ちそうにありません。辛い役目をすみません"
「……引き受けた。お前は最高の愛弟子だ」
"ありがとうございます。あなたの弟子で良かったです。南を頼みます"
「あなたはいつでもカッコいいバカね……」




