8 美しくも儚い廃墟
「大丈夫か南?」
「ええ、なんとかね」
「二人とも、身を隠して体制を整えるぞ」
「「はい!」」
崩れた建物がずらりと並ぶ平野に視界を遮る程の濃い霧が立ち込める。月の光と霧の掛け合いが見事な幻想感を漂わせる。
かつては威厳のある美しい街だったであろうそれは、もはや廃墟の集合体同然である。
廃墟の至るところに、体長2mはあるだろう『皮も肉もない骨のみ』の体で動いている者がいる。錆びた剣と盾を持っているのも少なくない。
そんな中、建物の一角に身を寄せ合う3人が息を殺して縮こまっていた。
「やっぱり私達ではあの数のスケルトンナイトは厳しいわね」
「おそらく30体以上いるだろうな」
「この廃街は夜に近付いてはいけないってわかっていたのに……」
「あの状況では仕方がないさ」
なんとか雨風をしのげる事が出来る程度のボロ小屋にいる3人は、しゃがみこみ警戒を怠らない。小屋の中には、中央部に萎れた花の入った花瓶が置いてあるテーブル。部屋端には小さなカバンや人形、衣服が落ちている。
「レルビン隊長、これを見てください」
茶髪で高校生位の年であろう男は、1枚の破れかけの紙を差し出す。
その紙を受け取った鎧を纏った体格の良い男は小声で書かれてある文字を読む。
『おとうさんもおかあさんもしんじゃった
おじさんがもうおしまいだって言ってた
だれもたすけてくれないね
おはなやさんをやりたかったな
べんくんがいってた。
まちのはなれたとこにあるあのドアのせいで
こうなったんだって
わたしもしんじゃうのかな』
南と呼ばれた同じく高校生位の女性が体を震わせ涙を流している。
「隊長、ここに書かれている『ドア』って…」
「ああ、間違いないだろうな翼!」
「………ダンジョンの出現」
「とにかく朝まで耐え、仲間に報告しよう」
「アンデット系は日が昇ると消えますからね」
「そうだ、翼は南のそばにいてやれ」
小屋の外では大量のスケルトン、武器を持ったスケルトンナイトが無造作に徘徊している。
多種様々な色のレンガ造りの壊れた建物と、スケルトンという異色の組み合わせが一枚絵にするととても味がある。
あくまで命の危険が無かったらだが。
(手紙の女の子はどんなに心細かったのかな)
(逆の立場だったら耐えられないよ私…)
南は立ち上がり、テーブルにゆっくり向かった。
「おい、南!窓から見られたら気付かれる、立つな!」
(この花瓶の花も摘んだものかな……)
(助けてあげられなくてごめんね…)グス
テーブルの花瓶を持ち上げたその時、
ガシャンっ!!
手から離れた花瓶は床に落ち、花火のようにバラバラに形を変えた。
「あ………ごめんなさい……わざとじゃない…」
すぐにレルビンが小窓から様子を伺う。
「まずいな、スケルトンが向かってきている」
「なにやってんだよ南!」
「やめろ翼、南を責めるな今の状況を考えろ」
「すみません」
音に敏感なスケルトンは次第に少しずつ集まってくる。
ガタガタガタ!
ドンドンドーン!
ドアに体当たりするスケルトン。侵入を防ごうとレルビンがドアを体で押さえている。
「翼、南よく聞け!俺が今から時間を稼ぐ!」
「その間にお前たちは後ろの窓から逃げろ、俺もすぐに追い付いてやるから」
「いやです、俺も隊長と一緒に戦います」
「馬鹿やろう!隊長命令だ!分かれ翼!」
「お前は南を守ってやれ」
「それと南、これはお前のせいではない!むしろ隊長の俺がこんな危険に追い込んでしまった。すまなかったな」
「グス……隊長…グス…ごめんなさい…………グス」
「さあ早く行け!なーにお前達なら絶対に乗り越えられるさ」
爪がめり込み血が流れるほど思い切り拳を握る翼。
「隊長、後で一杯奢ります」
「それは楽しみだな」
会話の直後、翼は南を抱え込み後ろの窓に向かう。
「離して……グス……お願い……やだ…グス」
南の言葉を無視して窓から飛び出した。そのまま右も左も分からず、訳も分からずひたすらに全速力で走り続ける。
「すまんな、翼、南、許してくれ」
そう呟いたと同時にドアを勢いよく開け、外に叫びながら飛び出した。
「ヴォオオオオオ!スケルトンどもおお!」
「只では死なん、1体でも多く道連れだ!」
レルビンを囲むスケルトンの数は15体程。
そのうちの4体は武器を所持しているナイトだ。
「スキル!肉体強化!外円斬!」
腰の大剣を円を描くように振り回す。
一気にレルビン回りの8体程のスケルトンが崩れ去った。
一呼吸置いて辺りを見渡すと、次から次に集まってきているのを確認した。もう先の倍はいるだろう。
「あいつらなら上手く逃げてるだろう……」
「さあ、最後の大見せ場だ。レルビン中隊隊長レルビン・カザフエルクラド参る」
その頃、霧と涙でよく前が見えていない翼。
どんなに呼吸が乱れようが、足が縺れそうになろうが決して動きを止めることはなかった。
気を失っている南を背負い翼は走り続ける。
「隊長…どうか無事でいてくれ」
動きは遅いスケルトンだが、すぐ側をすり抜けようとする者に攻撃を与えるのは容易だった。
致命傷こそ無いものの、翼の体は徐々に傷付きボロボロだ。限界が近付いていた。
「なんだあの扉…………」
ふと前を見ると、禍々しい光で包まれた地面から少しだけ浮いている扉がそこにはある。
正常な判断などもはや出来るほど頭が回っていなかったが、翼は藁にもすがる思いで扉に体ごと突っ込んだ。扉の中に転がり込んだと同時に翼は意識を失った。
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「やっぱ遠足っていくつになってもワクワクするよな!」
そう言って、ニコニコしながら歩を進めるケイジ。
「ワクワクは良いが、気を抜くなよー」
「そうですよ。それにエンとケイジのせいでもうお昼近くなんですから。」
俺達は旅を決意した日の翌朝に出発するはずだった。なぜ昼頃になったかというと、
「旅っていったらトランプにウノ、ジェンガに人生ゲームだろ!」
「流石だよ、まるで修学旅行だなー」
「お土産沢山買いたいから途中ATMで卸そう!」
「財布はいらないだろ、お金の効力がなくなったんだしー」
「あ、そうか!良かったなエン!もうスポーツカーのローン払わなくて良いんだぜ!」
「世界が元に戻ったら払うよー」
荷物の中身の見せ合いをしてた時ドアが開いた。
「なんであなた達そんなに大きい荷物背負っているの。」
散歩から帰って来たハルが呆れた顔で呟く。
「流石に念には念をだよー」
「そうだ小娘!全部必要な物だ!」
「違うわよ。やたらと時間が掛かってると思ったら。ケイジはともかくエンまで……」
「ストレージがあるでしょ。」
「「ああー!!!」」
そんなこんなで予定時刻を大幅に遅らして旅が始まった。
「そろそろ駐車場だぞ!」
昨日の夜にハルの提案で、まずスーパーでゴブリンロードの素材を回収すると決まっていた。
ハルの話だと魔物の魔石は色々使い道があるらしい。小さい魔物だと倒した時に、魔力が結晶化して表面に出てくるらしい。しかし、大きい魔物だと取り出す必要があるみたいだ。
「魔物の気配はないなー」
「ああ!行こう!」
3人は茂みから倒れたゴブリンロードに向かって歩く。
「ケイジは角と牙をお願いー」
「まかせろ!」
「ハル魔石はどの辺にあるか分かるー?」
「はい。大体は心臓の部分なのですが………」
「やっぱりな、盗られてるねこれー」
ゴブリンロードの心臓部分にごっそり穴が開いていた。
(この辺に魔石の事を知っている奴がいたとはなー)
「まあ仕方がないさ、それより俺はこの辺のゴブリン達を埋葬するからケイジとハルはスーパーを見てきてよ」
「エンは慈悲深いのですね。」
「そう言うわけではないんだけどねー」
「スーパーとはあの不思議な建物の事ですか?」
「そうだ!上手いもんが山程あるぞ!」
ケイジとハルはスーパーに向かった。
「よしっそれでは、試してみるか」
エンは左手の白プレート、スキル一覧を見ながら唱える。
(スキル名からイメージを連想させ集中する)
「肉体強化」 「能力向上」 「身体硬化」
「身体加速」 「身体加速」 「身体加速」
エンの体から各色のエフェクトが発生する。
エンはゴブリンロードを摘まむ程度の力で持ち上げる事ができた。
一瞬でゴブリンの亡骸を集め、1度で持ち上げた。近くの森に運び、丁寧に埋葬した。
(こいつらはハルを襲った奴らだ、だけど命を奪った責任は果たす)
「しかし、ここまでとはなー」
エンが自分の体を舐めるように見とれる。
「トウ!」シュ
掛け声と共に地面を両足で蹴る。
その直後10メートルは上に飛んでいる。
着地と同時にスーパーのドアにダッシュで向かい、すぐに同じ場所に戻ってきた。
「これほぼ瞬間移動だなー」ハハ
「次はパワーだ」
ドォガガァァアァァン
エンが拳を降り下ろしたコンクリートは悲惨に砕かれ、駐車場全体に大きい亀裂が入った。
足下はすでに地面がずれている。
「おいエン!敵か?何があった?」
「まさかゴブリンロードが生きていたのですか?」
ケイジとハルがスーパー入り口から走り寄ってくる。
「ごめん、地面を殴ったらこうなった」テヘ
「「はぁぁぁーーー?」」
-スケルトンナイト LV18 -
HP :2700
MP :30
ATK:1350
DEF:1350
LUK:10
δ死んだ生物の骨に悪霊が入り込み動き出す。
太陽が出ているうちはただの骨だ。




