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90話 令嬢は世界樹の名づけを語る

「フィオーラ・リスティスです。ネイザス陛下にお目にかかり、光栄の限りです」


 謁見のためにと用意された一室で、フィオーラは礼をした。

 上座に座るネイザスを見ると、なぜか目を見開いている。


(もしかして何か、私の言動に失礼があったのかしら?)


 次期世界樹の主であるフィオーラはある意味、国王であるネイザスよりも大きな力を持っている。

 しかし、争いは避けたいため、できる限り相手の立場についても、尊重していきたいところだ。

 何か粗相があったのかと不安に思っていると、ネイザスが咳ばらいをした。


「……ようこそ。我が国にいらっしゃった。フィオーラ殿の出身は、ティーディシア王国だと聞いているが、間違いはありませんな?」

「はい。陛下がお聞きしている通りです」

「……そうか」


 ネイザスは何やら、気になることがあるようだった。


(どうしたのかしら?)


 フィオーラは疑問に思い、ネイザスをそっと観察した。

 今年五十四歳になるというネイザスは、息子であるリグルドと同じ黒髪の男性だ。

 二十一年前、当時の国王夫妻が事故死したため、王弟であったネイザスが国王になったらしかった。


(特に気になる事柄はないけれど……)


 フィオーラは内心首を捻りつつ、当たり障りのない会話をネイザスと交わし、謁見は終了したのだった。


  

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 フィオーラが去った謁見の間にて。

 ネイザスは額に手を置き思考に耽っていた。


「まさか、そんなことがありうるのか……?」


 ぶつぶつと呟き、堂々巡りの思考を繰り返していると、


「陛下、お手紙が参っています」

「後にしろ」


 言い捨てたネイザスだったが、前言を撤回することにした。

 もし何か、火急の要件の手紙であれば後回しにできなかった。

 手紙を受け取り、差出人を確認し内容をさらったネイザスだったが、


「なんだと……? だとしたらやはり……」


 手紙に記された思いがけない事実に視線を険しくし、思考を巡らせていったのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 聖女セライナに国王ネイザスという大人物と、たて続きに会話を交わしたフィオーラ。

 しかしそれで何か、大きく立ち位置が変わるということも無く、千年樹教団本部での逗留を続けていた。


(……こうしている間にも、黒の獣の被害は増えているはず)


 そう思うと、焦燥感が止まらなかった。

 弱った衛樹の元へ向かうべきかと考えるが、それではどこまでも、対処療法にすぎなかった。


(大本の原因は、今の世界樹の力が弱まっていること。アルムに代替わりをすれば、大陸全土の黒の獣に対処できるみたいだけど……)


 肝心の代替わりの方法。

 どうすればアルムが、名実ともに世界樹としての力を全開にすることができるのか、見当がついていなかった。

 聖女セライナの協力が得られない今、時間がただ過ぎていくばかりだ。


(アルムも代替わりの手順位ついての、詳しい知識は持っていないみたいだし……)


 手詰まりだった。

 本当にいざとなったら、セライナから強引に聞き出すことも考えられるが、もしそれで失敗した場合、取り返しがつかなくなってします。


(……代替わりの儀、どういったものなんだろう。アルムの知識によると、今の世界樹様が二十二年前、アルムたち次代の世界樹の種を生み出したのよね)


 そしてフィオーラの母親であるファナが、どこからか世界樹の種を手に入れ、フィオーラと共に育てたのだ。

 入手経路が気になるが、ファナは故人であり、他に尋ねるあてもなかった。


「……フィオーラお嬢様、もうそろそろ、リグルド殿下がいらっしゃるお時間です」


 ノーラが予定を告げてきた。

 リグルドは求婚活動の一環なのか、フィオーラに足しげく会いにくるのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 フィオーラはリグルドと共にお茶をしながら、雑談を交わしていった。


「――――ほぅ、それでは、アルム様の名付け親は、フィオーラ様なんですね」

「名付け親というほど、大層なものではございませんが……」


 軽く苦笑し、アルムの名づけの経緯を語った。


「昔、母が語ってくれた物語の、登場人物からつけているんです。本名はアルムトゥリウスと言うのですが、長くて呼びにくいので、普段はアルムと呼ばせてもらっています」

「アルムトゥリウス……?」


 発音しづらいアルムの本名を、リグルドは一発で正しく口にした。


「リグルド殿下、すごいですね。昔は私も言いづらくて、結構練習したんですよ」

「そうか……。良い響きだが、確かにいささか、呼びにくい名前だな」


 アルムトゥリウス、アルムトゥリウス、と。

 何かを確かめるように、リグルドは名前を繰り返したのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 転機となる日は、意外と早く訪れることになった。

 ネイザスと面会してから十六日後。

 フィオーラの元へセライナから、一通の手紙が届けられたのだ。


「世界樹の代替わりの方法を教える……?」


 フィオーラは一瞬、自分の目を疑ってしまった。

 もう一度手紙を見て、それでようやく、見間違いでも勘違いでもないと認識した。


「……あら、やったじゃない。これで色々と、前進するんじゃないかしら?」


 手紙を覗き込み、モモが興味深そうにしている。


(嬉しいけど……。でもどうして? 何がセライナ様を、心変りさせたんだろう……)


 フィオーラはまだ、セライナに認められるようなことはしていないはずだ。


「……きちんと、準備してから行かないと……」


 若干の不安を覚えながらも、フィオーラはセライナの元への訪問準備を始めたのだった。


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