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70話 令嬢は夜現れる

「—―――急な招集にも関わらず、集まってくれてご苦労だったな」


 屋敷の前に並んだ兵たちを前に、ディルツは声を張り上げた。


「つい先ほど、エミリオ殿下の所在が判明した!」

「本当ですか⁉」


 兵たちに驚きが広がっていく。

 いまだ王家も教団も、エミリオの行方を掴んでいないのだ。


「あぁ、確かな筋からの情報だ。ここに集めたのは、わが公爵家お抱えの兵たちの中でも選り抜きの精鋭だ! 現時刻を持って、エミリオ殿下の救出にあたってもらうことになる‼」


 ディルツの激励に、兵たちの士気が上がっていく。

 エミリオの救出に成功すればディルツは一躍注目を集め、兵たちにも報奨金が出そうだ。


「誘拐犯どもに勘づかれないよう、素早く静かに行動してもらおう。私も同行し、おまえたちの働きを目に焼き付けさせてもらうつもりだ‼」

「はっ! 了解いたしました! 我ら持てる限りの力を尽くし、エミリオ殿下の救出にあたらせていただきます!」


 気合の入った兵士長の声に、ディルツは目を細めたのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 兵を引き連れ王都の外れを進みながら、ディルツは今後の予定を確認していた。

 もうしき、エミリオの監禁場所に到着するはずだ。

 兵たちに激を飛ばしながら、前へ前へと進んでいたディルツだったが、


「ディルツ様!」

「なっ⁉ フィオーラ様⁉」


 この場にいるはずのない人物の登場に、大きく瞳を見開いた。

 薄茶の髪を月明りに晒したフィオーラが、アルムと共に佇んでいる。

 ディルツはすぐさま笑顔を取り戻し動揺を隠すと、フィオーラの様子を観察した。


「フィオーラ様、なぜこのような場所にいらっしゃるのですか?」

「ディルツ様こそどうして、兵をつれここにいらっしゃるのですか?」

「……」


 ディルツはしばし迷った。

 エミリオを助け出す指揮は自分が取り、賞賛を独り占めにしたいところだ。

 フィオーラがいては功績が分散されてしまうが、誤魔化すのも難しそうだった。


「……エミリオ殿下を、お助けに向かうところです。フィオーラ様ももしや、そのおつもりではないでしょうか?」

「はい。私はそのつもりですが……」


 言葉を切ったフィオーラの瞳が、まっすぐにディルツを見た。


「っ……!」


 思わず、ディルツは気圧されてしまった。

 優し気で、時に気弱にさえ見せるフィオーラが、今は射貫くような強い瞳をしていた。


「ディルツ様は、違いますよね? エミリオ殿下を誘拐した黒幕は、ディルツ様なんでしょう?」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「なっ……」


 フィオーラの目の前で、ディルツが固まっていた。


「何を……突然何を仰られるんですか?」


 硬直が解けたディルツが、おもねるような笑みを浮かべた。


「私はエミリオ殿下を助けに向かうところです。黒幕などではありませんよ」

「嘘をつかないでください。自作自演です。エミリオ殿下を誘拐し、ルシード殿下のせいに見せかけ貶める。その後ディルツ様自らエミリオ殿下を助け出すことで、エミリオ殿下に恩を売ろうとする。……そんな計画なのでしょう?」


 怒りを抑えながら、フィオーラは言葉を続けた。


「あの式典のあった日、アルムは図らずも、ルシード殿下に疑いを向けるような発言をしてしまいました。あの時きっと、ディルツ様は腹の中で笑っていたと思います。ルシード殿下を犯人に仕立て上げる役割を、私たちが演じてしまったのですから」


 フィオーラとしては、それが一番腹立たしいところだ。

 まんまとディルツの計画に、手を貸していた形だからだ。


(……私達だけじゃないわ。エミリオ殿下の周りの人間にも、ディルツ様の息のかかった、誘拐の協力犯がいるはず。エミリオ殿下の行動をよく把握していたからこそ、ルシード殿下と別れた直後というこれ以上ないタイミングで、教団の守護兵に気づかれずに誘拐を実行できたのよ)


 エミリオの周りの人間にとっては、一歩間違えれば責任を取らされ破滅する賭けだが、見返りも大きいはずだ。

 ルシードを引きずりおろせば、王太子はエミリオでほぼ決まりだ。

 王太子を擁する勝ち馬の陣営になれば、美味しい思いができるはずだった。

 

「……妄想はおよしください」


 泣きぐずる赤子をなだめるように、ディルツが語りだした。


「フィオーラ様の仰っているのは、根も葉もない妄想でしかありませんよ」

「証拠ならあります」


 アルムに合図すると、物陰から蔦で縛られた人間が運ばれてきた。


「なっ……?」


 縛られた人間の顔を見たディルツの表情に、衝撃が走った。

 そんなまさか、と。

 動揺を隠しきれていなかった。


「ディルツ様はこの方たちに、見覚えがあるはずですよね?」

「っ、知らない‼ こんな奴ら私は知らないぞ‼」

「知っていますよ。ルシード殿下に罪をなすりつけようと、偽の証言をさせるために雇った人間でしょう?」

「なっ⁉ なぜそれを知って――――っ‼」


 ディルツが口をつむぐが遅かった。

 確かに今彼は、自らの関与を認めていた。


「っちっ‼ あぁそうさ、その通りだよ‼」


 誤魔化しきれないと悟ったのか、ディルツが開き直った。


「だがどうするつもりだ⁉ エミリオ殿下の身柄は、まだこちらが握っているんだ。フィオーラ様は殿下のこと、見捨てられないだろう⁉」


 半ばヤケになりながらも、ディルツが脅迫を突き付けてきた。


「エミリオ殿下の身柄が私の手にある限り、そちらは逆らえないは――――」

「僕がどうかしたのか?」

「――――――なっ⁉」


 ディルツがぽかんと口を開けている。

 彼の叫びを遮ったのは話題の張本人、エミリオの声なのだった。



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