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書籍版発売記念番外編 イベリスの花を君に

書籍発売記念の番外編です。

時間軸としては本編最新話より少し前の話です。


「これで本日の範囲は終了です。忘れないよう、復習をしておいてくださいませ」

 

 授業終了を告げる教師の声に、フィオーラはそっと肩の力を抜いた。

 

 ノーラと再会してから二日後。

 

 世界樹の主として恥ずかしくない人間になるため、フィオーラは勉強漬けになっていた。

 知識を得ることは嫌いではないが、あまりにも教えられる量が多すぎる。

 知恵熱を発しそうな頭を押さえていると、滑らかな手が頬へと添えられた。


「どうしたんだいフィオーラ? 頭が痛いのかい?」

「アルム……」


 心配させてしまったようだ。

 綺麗な顔を曇らせ、アルムがこちらを覗き込んでいた。


「大丈夫。ちょっと、髪の乱れが気になったの」


 手櫛で髪を整える仕草をしていると、アルムがじっとこちらを見ていた。


「アルム、どうしたの?」

「僕から見ると、君の髪は綺麗に整っているように見えるけど……。気になるなら、力を貸せるかもしれない」


 アルムは言うや否や、不可思議な旋律、樹歌を口ずさんだ。

 樹歌に反応したのは、窓際に飾られた鉢植えの一つだった。

 土が急激に盛り上がり、若葉を出し急速に成長していく。


「イベリス……?」


 白い花が咲いていた。

 4枚の花びらは白く、中心部だけがちょこんと黄色をしている。

 砂糖菓子のような可憐な花に、フィオーラはしばし見とれた。


「この花も、君が好きだと言っていただろう?」

「はい……」


 ほんの一度か二度、雑談の際に口にした言葉を、アルムは覚えていてくれたようだ。

 アルムはイベリスの花を手折ると、そっとフィオーラの髪へと差し込んだ。


「これでもう、髪の乱れは気にならなくなるはずだ」


 アルムの手が、フィオーラの髪をそっと撫でていく。

 その手とイベリスの感触に、フィオーラは目を細めた。


(イベリスから、アルムの優しさが伝わってくる……)


 少し恥ずかしくて、でもそれ以上に嬉しかった。

 イベリスと一緒なら、この先の猛勉強も乗り越えられるかもしれない。


「アルム、ありがとうございます。このイベリス、とても心強いです」

「心強い……?」


 アルムが首を捻っていた。


「喜んでくれて嬉しいけど、そのイベリスがどうして、そんなに心強いんだい?」

「……えっと、それはその……」


 人間ではないアルムには、少し伝わりづらい表現だったかもしれない。

どう説明すべきか考えていると、


「あ、そうか。確かにこれは力強いね‼」


 アルムが何やら納得していた。


「このイベリスを身につけていれば、暴漢も簡単に撃退できってことだろう?」

「え……。えっと、どういうことでしょうか?」

「樹歌だよ。僕の力を受けたイベリスは、君の樹歌にもよく反応してくれるはずだ。不届き物が襲ってきても、イベリスに樹歌を使い、茎を伸ばして鞭のように使えば撃退できるはずだよ」


 うんうんと、アルムが深く頷いている。

 感情表現の少ないアルムには珍しい、嬉しそうな様子だった。


「うん、これはいいかもしれない。君がいつも、樹歌で生み出した花を身に着けていたら安全になるんだ。素晴らしい発想だね‼」

「……そうかもしれませんね」


 フィオーラは、曖昧な笑みを浮かべ頷いた。

 心強いといったフィオーラの言葉を、アルムは完全に誤解していたが……嬉しそうなアルムに、水を差したくなかったからだった。

  

 ――――かくして、ちょっとした勘違いがその時生まれて。

 アルムが毎日、フィオーラの髪に花を飾るようになって。

 そのたびにフィオーラは、平常心を保つのに苦労するようになるのだった。




お読みいただきありがとうございます。


書籍版の表紙イラストを編集様から贈っていただいた時、

フィオーラが頭につけている花がかわいらしかったので、名前を確認して番外編に登場させてみました。

イベリスってどんな花? と思われた方は

このページ下部に表紙イラストを貼り付けてあるので、スクロールででどうぞです。


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