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54話 令嬢は王宮に招かれる


 招待状が届いてから五日後。

 準備を整えたフィオーラは、アルムらとともに王宮へと向かうことになった。


「きゅいっ?」


 馬車の中で、イズーがはしゃぎ回っている。

 久しぶりのフィオーラとの外出に楽しそうなイズーの首には、ぐるりと青いリボンが巻かれていた。

 イズーは精霊だが、見た目はイタチとそっくりだ。

 よく見れば、左前脚に精霊の証である花が一輪咲いているが、初見ではやはりわかりにくかった。

 

 青いリボンは、野生のイタチと勘違いされないためのものだ。

 緊張感を欠片も感じさせないイズーを見ていると、フィオーラも少し気が楽になってくる。


「心配せず、どーんと構えてればいいのよ。どーんとね。女は度胸なんだから」


 ドレスの隠しから、モモの声がする。

 イズーとは違い外に出ず、こっそりとフィオーラについて来てくれるらしい。

 ちなみにモモにも念のため、首に赤いリボンを巻いてある。


 出かける前に、鏡の前で丹念にリボンの結び目を確認するモモの姿は、夜会の準備に励む貴婦人のようだったのである。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「おぬしが、新たなる世界樹の主となったフィオーラ・リスティスか」


 呼びかけに、フィオーラはドレスの裾を引き礼をする。

 付け焼刃な礼儀作法だが、教えられた通りに出来たはずだった。

 眼前に座すのは、ティーディシア王国の第13第国王、バルクメル・ティーディシアその人だ。


(一体、どんな方なのかと恐れていましたけど……)


 思ったより話しやすそうな雰囲気だ。

 一国の国王であり、あのセオドアの父だからと、前日の夜からずっと緊張していたが、取り越し苦労だったのかもしれない。

 国王は、息子であるセオドアよりもやや色の濃い金茶の髪をした、気さくな初老の男性だった。


「こたびは馬鹿息子のセオドアが、多大な迷惑をかけてしまいすまなかったな」

「恐れ多いお言葉です。こちらこそ、陛下の足元である王都に、いきなり巨木を生やしてしまい、驚かせてしまったかと思います」

「ははっ、気に病まんでも良いぞ。待ち合わせに良い目印が出来たと、王都の民たちも喜んでいたからな」


 和やかに会話を続ける。予定通りの流れだ。

 フィオーラには、事前に国王の手のものから、謁見の間でどんな話題を持ちかけられるか通達されているので、ある程度受け答えの準備ができていた。

 国王側としても、フィオーラ達とは良好な関係を築いていきたいようで、セオドアの件について険悪になることも無い。


「……ふむ。しかし喜ばしいことだな。新たなる世界樹の主がわが国民の中から選ばれ、しかもかように美しい乙女だったとは、わしにとっては望外の幸運だ」


 国王はフィオーラを褒め会話を締めくくると、次にアルムへと話を向けた。


「して、その方が、次代の世界樹であるのだな? 銀に緑の色が滲む髪とは、世界に二人といないであろう、稀にして麗しい姿をしているな」

「初めまして、陛下。僕は人間じゃないから、称賛の言葉は不要だよ」


 国王に対しても、アルムはいつも通りだった。

 敬意は見せず無表情で。

 だからと言って相手を蔑むでも無く淡々と、投げかけられた言葉に返答していた。

 

 国王に対するものとは到底思えないざっくりとした応対。

 フィオーラは心配になってしまったが、国王は気分を害した様子も無かった。

 

 アルムは人ではないし、格で言えば王に勝るとも劣らない世界樹だ。国王と対等な物言いで接しても、認められるようだった。

 アルムと国王のやり取りを見守っていると、再び会話がフィオーラへと振られた。


「フィオーラよ。おぬしの年は、17歳であっているな?」

「はい」


 少し恥ずかしくなり、フィオーラは身を縮こませた。

 フィオーラは長年の家族からの冷遇が祟って、発育が人より悪かった。


 最近は、食事事情なども改善されマシになってきたが、同じ年の令嬢と比べるとまだ、17歳には見えなかったのかもしれない。

 王の御前で失礼がないように精一杯着飾っていたが、かえって肉体の貧弱さが目立っているのかもしれなかった。


「ん? どうした? 何か気にかかることでもあるのか?」

「いえ、すみません。大丈夫です」

「そうか……。あまり、暗い顔をするでないぞ。おぬしは17歳。花も恥じらう年頃だ。おぬしにだって、好いた相手の一人や二人おるだろう?」


 なるほど、この話題につなげたかったのか、と。

 フィオーラは納得していた。


 事前の通達には無かった会話内容だが、ある意味予想の範囲内。どう答えるべきかも、ハルツ司教たちと打ち合わせ済みだ。

 17歳は結婚適齢期の真っただ中で、フィオーラは婚約者もいない身の上。

 フィオーラを味方に引き入れようとした時、婚約を考え付くのは自然な流れだ。


「……残念ながら、私に浮いた話はございません。つい先日、婚約者との関係は白紙に戻りましたし、その後セオドア殿下との件もありましたから、しばらくは独り身の自由を満喫したいと思います」

「……そうか。うむ。ならば仕方が無いな」


 国王はあっさりと引き下がった。

 国王には5人の王子がいたが、フィオーラはセオドアのやらかしを持ちだし、婚約者は不要だと言ったのだ。


 国王といえど、王子のいずれかと婚約者に、などと。

 フィオーラに無理に持ち掛けることは出来ないはずだった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 国王との謁見を終えたフィオーラは、王宮の奥庭へと招かれていた。

 奥庭の一角、美しく整備されたその場所に、一本の木が聳え立っている。

 以前よりこの国に存在する、ただ一本の精霊樹だ。


(この精霊樹に精霊を実らせれば、より多くの人を黒の獣から守れるはず……)


 国王から持ち掛けられた願いだ。

 教団の上層部は最初、フィオーラの力を出し渋っていたが、国王の依頼を引き受け恩を売る方向で話がまとまったらしい。


 フィオーラとしても、自分の力が役立つのは願ってもいない状況だ。

 精霊樹の幹に触れ、思いを込め樹歌を歌いあげる。


 今日フィオーラが実らせた精霊には、王都から丸二日ほどの距離の、黒の獣の被害が多い場所に向かってもらう予定だ。


 遠くへと向かうならば、大型で足が速い獣の姿の精霊が生まれると良い。

 そんな願いが通じたのか、実ったのは大きな、フィオーラの背丈ほどもある銀の果実だった。 




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