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40話 令嬢は婚約破棄の舞台裏を知る


 ノーラの無事が確認できたのなら、あとはフィオーラ自身が逃げ出すだけだ。


(アルム達だってきっと、じきにこの場所にたどり着いてくれるはずです)


 あるいは既に、この建物にフィオーラが監禁されていると、気づいているのかもしれなかった。

 目星はついていても、フィオーラが建物のどこにいるのか、詳細な情報が無く動けないのかもしれない。

 アルムの力は強力だが、その余波で建物が崩れるなどした結果、フィオーラを巻きこみかねないのだ。


 ほんの少しでいい。

 セオドア達の隙をついて、外部と連絡を取ることが出来れば。

 状況を好転できるはずだった。


「フィオーラ、何を考え込んでいるんだい?」


 セオドアが目ざとく聞いてくる。

 彼に抱きしめられたままで鳥肌が立っていたが、フィオーラは笑みを作り答えた。

 

「……なんでもありません。しばらく外に出ていないので、空を見たいなと思ったんです」

「ふふ、可愛らしい願い事だね。その願いならきっと、今日にでも叶うはずさ」

「……どういうことでしょうか?」

「君にもう一人、会わせたい相手がいるんだよ」


 誰だろうか?

 まさか今度こそノーラが?

 推測が外れたのかと、フィオーラは背に冷や汗を浮かべた。


「入ってこい。その男を部屋に連れてくるんだ」


 セオドアの命令に従い現れた相手は、


「………ヘンリー様……?」


 フィオーラの元婚約者………らしき青年だ。

 服はあちこちが乱れ、頬は殴られたかのように腫れあがっている。

 変わり果てた姿に理解が遅れたが、確かにヘンリーのようだった。


「ヘンリー様が何故ここに……? それにそのお怪我は?」

「……その声……フィオーラ……?」


 ゆるゆると、ヘンリーの頭が持ち上げられる。

 フィオーラの顔を認め、はっとしたように目を開くヘンリーだったが、それ以上動くことは出来ないようだ。

 ヘンリーの両腕は背後で戒められ、その縄は屈強な兵隊に握られていた。


「っ!! セオドア殿下、何があったのですか⁉ これではまるで、ヘンリー様が罪人みたいです」

「彼は罪人だよ。平民の身で王太子である私の周りをうろつき、噛みつこうとしたのだからね」


 ヘンリーを見るセオドアの瞳は冷たい。

 虫相手に向ける視線そのものの、ぬくもりの無い侮蔑に満ちた眼差しだ。


「ヘンリー様が、セオドア殿下に敵対した……?」

「あぁそうさ。フィオーラと私の婚約を妨害しようと、身の程知らずにも蠢いていたところを、先ほどようやく捕らえたところだよ」

「ヘンリー様が………?」


 どうしてそんなことをするのだろう?

 ヘンリーの側から、フィオーラとの婚約は破棄されているのだ。

 なのになぜ今になって、フィオーラとセオドアの婚約に口を挟もうとしたのだろうか?

 

「フィオーラが悩む必要は何もないよ。これでもう、君が婚約にためらう理由は何もなくなっただろう?」


 セオドアが笑みを深めた。


「フィオーラ、君が私との婚約に首を振らなかったのは、この男の存在があったからだろう? この男は不遜にも、一度は君の婚約者だったんだ。優しい君は、私と新たに婚約を結ぶことを、かつての婚約者を裏切るようで決断できなかったんだろう?」

「殿下、ちがいま――――――」

「でも大丈夫だ。不敬罪により近く処刑される予定の彼に、君がこれ以上思い悩む必要も無くな――――」

「処刑っ⁉」


 フィオーラは思わず叫び、セオドアの抱擁を振り払った。

 ヘンリーへと駆け寄り訴えかける。


「ヘンリー様、どうしてしまったのですか⁉ もう私は、ヘンリー様の婚約者でもない他人なのにどうしてそんなことを⁉ 今からでも、これ以上私に関わらないと誓えば処刑は避けられるかも―――」

「……君は優しいな………」


 ヘンリーの声は、痛々しくかすれきっている。


「殿下に脅されての結果とはいえ………婚約破棄を叩きつけた俺を気遣ってくれるなんてな………」

「………え?」


 思いがけない告白にフィオーラは息を呑んで振り返る。

 背後に佇むセオドアは、いつも通りの笑みを浮かべているようだった。


「セオドア殿下………。ヘンリー様の言葉は本当なのですか……?」

「脅したなんて言われるのは心外だよ」

「……私とヘンリー様の婚約破棄に関わっていたのですか?」

「たかが平民でしかないこの男が、君を手に入れるなんて許されるわけがないだろう? 当たり前の道理を、この男と両親に聞かせてやっただけさ」

「………っ!!」


 金槌に頭を殴られたような衝撃に、フィオーラは掌を強く握り込んでいた。


(まさか、あの婚約破棄にそんな事情がっ………!!)


 ヘンリーが婚約破棄を突き付けてきた原因は、義母達の嫌がらせを厭ってのものだと思っていたが違うのだ。

 王太子であるセオドアの不興を買っては、裕福とはいえ平民のヘンリーや、その両親もただでは済まないのが見えている。

 ヘンリーに残された選択肢は、フィオーラとの婚約を破棄するしか無かったのだった。


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