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28話 令嬢は司教にお願いをする


 寝巻から着替えたフィオーラは、まず衛樹………ではなく霊樹の様子を確認することにした。

 軽く身支度を整え、アルムと精霊と共に部屋を出る。


「フィオーラ様、おはようございます」

「わっ!!」

「きゅっ!!」


 部屋を出るや否や、真横から声がかけられる。

 驚いたフィオーラ声を上げ、つられて精霊もびっくりしたようだった。


 扉の横に立っていたのは、鞘に入った剣を携えた男性だ。

 神官服を着ているから、教団の武を担う役職の人間のようだった。


「フィオーラ様、おはようございます。ちょうど起きられたところだったんですね」


 廊下の向こうから、折よくハルツ司教がやってきた。


「おはようございます。ハルツ様、この方はもしや、私の部屋の前でずっと控えていたのですか?」

「えぇ、そうです。昨日フィオーラ様が部屋に入られた後、もう一人の人間と交代で護衛にあたらせていました」

「一晩中、ありがとうございました」


 夜を徹して護衛にあたってくれていたらしい男性へ、フィオーラは頭を下げ礼を述べる。

 教団の建物に物取りや不審者が入り込むとは思えなかったが、用心してしすぎることは無いのかもしれない。


「フィオーラ様、良ければ朝食の後、少しお話できないでしょうか?」

「わかりました。ただ朝食の前に、霊樹の様子を見てきてもいいでしょうか?」

「もちろんです。お待ちしていますね」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 一晩がたち、日の光の下で改めて見た霊樹はとても元気そうだった。

 まっすぐに伸びる幹、朝の光に輝く緑の葉。

 そして緑の間から、いくつかの銀色の果実が姿をのぞかせていた。


「精霊の実…………」

「そのようですね」


 一緒にやってきたハルツ司教も同じ見立てのようだった。


「実は昨晩、フィオーラ様がお戻りになった後に霊樹を確認したら、小さな実が下がっているのが確認できたんです。昨日は小さなさくらんぼ程でしたが、一晩で大きく育っていますね」


 銀色の艶やかな実は、小ぶりな林檎くらいはありそうな大きさだった。


「アルムなら、今育っている精霊の実から、どれくらいで精霊が生まれそうかわかりますか?」

「10日後くらいじゃないかな? 昨日生まれたそいつは、霊樹がフィオーラへのお礼の気持ちを込めて、集中的に育て送り出してくれたんだと思うよ」

「そうだったんですね…………」


 フィオーラは右手でもふもふとした精霊の頭を、左手で滑らかな霊樹の幹を撫でていく。

 人の言葉は発しない一匹と一本だけど、フィオーラのことを思いやっていてくれたらしい。


「生まれた精霊たちは、この近くに住む人間を守ってくれるのでしょうか?」

「フィオーラが望めば、そうしてくれるはずさ」

「わかりました。……………ハルツ様、そうしてもらって問題ないですよね?」

「え、えぇ。もちろんです。ありがとうございます…………」


 いきなり精霊が7体もこの地に、と。

 ハルツ司教が嬉しさと困惑がまぜこぜになった笑顔を浮かべていたのだった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 彩りの良い朝食を食べ終えたフィオーラは、今度は会話のために口を動かすことになった。


 連れてこられた応接室。

 向かいに座るのはこの支部の教団長とハルツ司教だった。


「フィオーラ様は今後、どこにお住まいを定めるおつもりでしょうか?」

「住む場所、ですか………」


 いくつかの心残りがあるとしても、伯爵邸に帰りたいとは思えないのが本音だ。


(私に、選択の自由が許されるのだとしたら…………)


 アルムと精霊とともに、ミレア達とは離れて暮らしたいところだった。


「ご迷惑でなかったら、しばらく教団に置いてもらえないでしょうか? お金などはもっていないので、居候という形になってしまいますが………」

「居候だなんてとんでもありません!!」


 ハルツ司教が恐縮したように首を振っていた。


「むしろこちらからお願いしたいところです。フィオーラ様さえ良ければ、一度王都の教団までご一緒してもらえないでしょうか? もちろん今すぐにではなく、精霊の実が熟し、精霊様がお生まれになったのを確認した後に改めてお願いしたいのですが…………」

「王都ですか…………。それはつまり、霊樹に関係することでしょうか?」

「はい。そのことも含め、一度王都の教団へとご同行をお願いしたいんです」


 王都には多くの人々が住まい、国を守る要として、霊樹が植えられていると聞いている。

 もしそちらの霊樹に問題が生じているなら、フィオーラが力になれるかもしれなかった。


(それにきっと、私を教団の他の方に隠すわけにもいかないですよね………)


 フィオーラは世界樹であるアルムの主になってしまったのだ。

 そんなフィオーラの存在を、ハルツ司教たちのみで扱い、隠し通すのも無理があるはずだった。

 千年樹を奉じる教団のお偉方が集まる、この国の王都に向かう必要が出てきたに違いない。


(私とアルム、それに精霊さんがどう扱われるか不安もありますが………)


 だからと言って、この場を去り帰るという選択肢は無かった。

 千年樹教団はこの国の外にも多くの人員を抱えている一大組織だ。

 不要ないさかいは起こしたくないし、フィオーラも王都へと一度顔を見せなければならないはずだ。


「わかりました。一緒に王都に連れて行って頂きたいのですが、その前に2つほどお願いをしてもよろしいでしょうか?」

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