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26話 令嬢は精霊を従える


「この子に………」


 そんなすごいことができるのですか、と続けようとしたところで。

 フィオーラは唇を閉じ黙り込んだ。


 どんなに愛らしく見えようとも精霊は精霊。

 普通の人間相手なら、何人こようとびくともしないかもしれなかった。


「きゅい?」


 フィオーラの顔の横で、精霊が首を傾げていた。

 間近で見つめてくる円らな瞳に、フィオーラの顔が映り込んでいるのが見える。


「何でも無いです。ただ、あなたにどんな力があるのか、少し気になっていただけです」


 精霊の頭を撫でてやろうと伸ばした指が、空しく宙に浮いていた。


「え………?」

「きゅうきゅぅっ‼」


 フィオーラの肩から降りた精霊が、しなやかな体で地面を走り回っているのが見える。

 四本の足で駆けつつ、時々上半身を持ち上げ、確認するよう周囲を見回していた。


 精霊はやがて立ち止まり、一点を凝視するように顔を向けている。

 視線の先にあるのは、人の腰丈ほどの木の棒。

 弱体化していた衛樹の保護のため、立ち入り禁止地帯の目印となっていた棒の一本だった。


「きゅいっ‼」


 気合を入れるような掛け声。

 くるりと一回転。

 水平方向に体を回した精霊の動きとともに、長くもっふりとした尻尾が淡い光を放った。


「…………?」


 精霊の尻尾が光ったように見えたが、気のせいだろうか?

 フィオーラは首を傾げるが、次の瞬間目を見開いていた。


「棒が真っ二つに…………」


 切断された棒の上部が、地面へと転がり落ちるのが見えた。

 鉄ほどの強度は無いとはいえ、人間が素手で折るには難儀する太さの棒だ。

 

「かまいたちだね」

「…………かまいたち?」


 棒の断面を見るアルムへと、フィオーラは疑問符を浮かべた。


「風の刃みたいなものだよ。直接触れなくても、ある程度の固さまでは切ることができるはずだ」

「きゅきゅっ‼」


 アルムの言葉に、精霊が頷くように頭を上下させていた。

 その様子に、フィオーラは気になることがある。


「もしかしてその子、人の言葉が理解できているの?」

「きゅいっ‼」


 精霊が、またもや頷いているのが見えた。


「完全に理解はできてないはずだけど、おおまかな内容は伝わってるんじゃないかな? 人間が、母国以外の言葉を聞いているようなものだと思うよ」

「………賢いんですね」


 そして強力な、ある意味物騒な力を持っている精霊だ。

 先ほどのかまいたちという力を使えば、兵士相手にだって引けを取らないはずだ。


「…………あなたは、私と一緒に行動するつもりなんですか?」

「きゅきゅきゅあっ!!」


 もちろんです、と答えるように、精霊が何度も頷いていた。

 そして円らな瞳でフィオーラを見上げると、するすると体を上り上へ上へ。


(アルムに続いて精霊まで…………)


 当然の顔をして肩の上へ陣取った精霊の毛皮に癒されつつ、フィオーラは空を見上げたのだった。






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