第九話
俺は今までなるべくハンナの近くから離れないようにしていたが、そろそろ毎日彼女の傍に居る為の言い訳が尽きて来た。
彼女とは少し年が離れている俺だが……まあ少し……
父と娘程の年の差ではないよな。なにせ俺も男なのだからもう少し警戒してくれてもいいような気がするんだが。
……
俺の方はどうなんだ?
いや、その……言って、彼女はまだ13歳くらいに見えるし……大の男が本気で惚れてしまうのはちょっと……おかしいよな多分……
「私、菜園の手入れをして来ますね」
「俺は……今日は少し周囲を見て来ようかと思う。そろそろ……」
「はい、お気をつけて!」
彼女は明るく返事をして菜園に向かった。
俺は……辺りの気配を探りながら、ゆっくりと……村の門を出た。
そして走る! 例のちょっとスタミナも使うダッシュだ!
俺は村の塀の傍を走り、村の反対側へ! 回り込む!
そして反対側の門から、こっそり村の中を伺う。
ハンナが、鼻歌交じりで土を耕している。
宿屋を開くと決めて以来、彼女は菜園を広げる事に夢中になっていた。
出来るだけ自分で育てた野菜で、旅人達をもてなしたいそうだ。
俺は目尻に溢れた物を袖で拭う……解った。俺はハンナに親のような愛情を注いでいるのだ、きっとそうだ。俺はロリコンではないのだ。
んん……? ろりこ……ろんこ……?ろん?…………
よく解らないが……いま何か……俺の中で一つ記憶が消えたような気がした。
俺はハンナの観察に戻る。
決して華奢な子ではない。鋤を振る姿もなかなか様になっているではないか。
手首も細過ぎないし脚だってしっかりしている。
いつか、大きくなったらどこかへお嫁に行って、働き者のいい女房になるんだろうなあ。
……
そんな事を考えただけでまた涙が出て来た……馬鹿なのか俺は……
いかんいかん。
これは俺の試練であり、ハンナの試練でもあるのだ。
俺が短い時間離れていても生きている、強いハンナであって欲しいのだ。
人生は長い。この先、色んな事が起こるかもしれないじゃないか。その時、俺が近くに居ないと生きられないハンナだったら困るんだ。
そうだ。村の周りの様子も気になるし。こうして辺りを偵察して、危険があったら取り除いて行かないといけない。
俺は今日、村の周りの哨戒をする。その間ハンナは一人で過ごす。
やっぱり不安が込み上げて来る……どうしてしまったのだ俺は……
ええい、行くぞ!!!
その日俺は、一周200mくらいの村の外壁の周りを走り続けた。500周はしただろうか。クタクタになって帰った俺を、ハンナは焼きたてのパンと野菜のシチューで迎えてくれた。
ごちそうさまでした。明日はもう10mくらい外側を走ろう。