第八話
「さようなら~」「急に御邪魔してすみませんでしたあ」「ごちそうさま~」
「ありがとうございましたぁ~」
ハンナは明るく笑って、帰って行く*猟師*さん達に手を振っていた。
「こうしてお客さんが来る事もあるんだ、これからも村を綺麗にしておかないといけないな」
「はい! 私、頑張ります!」
俺は奴らが使ったカップを集めながら言った。行儀よくハーブティをお楽しみいただけたようで結構な事だ。
御土産に鹿肉の塊も置いて行ってくれたしな。自発的に。
洗い物を片付けたら、このままこのキッチンで料理をさせて貰おうかな……
「そうだ! ブレイドさん!」
急にハンナが声を掛けて来た。それも、とても明るく元気に。俺はすぐに振り向いた。
「この家を宿屋にしませんか!? 元々宿屋だったんですここ、家族が増えたからって言って廃業してたけど……ここに宿屋があったら、旅人の人も喜ぶかもしれないです!」
何だろう……
熱い物が込み上げて来る。左腕の骨が疼くような……
俺の心に何かが広がって行く。
「素晴らしいアイデアだ! さっそく看板を作ろう!」
俺は即答していた。
「あっ、でも……あの……すみません私、我侭ばかり言って……」
「おいおい、我侭なんか一度も言われた事ないぞ」
ハンナは少し自信なげに声を落とす。
「でも……家を直したいって言ったの、私なのに……」
「家も直すぞ、ちゃんと。必要だろ?」
「だ、だけど宿屋をやりながら家も直したり……大変です……」
「なーに、時間はいくらでもあるからさ。それにまあ……心配しなくても、最初は……あんまりお客来ないだろうしさ……」
「あ……うふふ……そうですよね」
「ハハハ」
この、元宿屋のやや大きい家で一緒に暮らそう。そこまで言おうかとも思ったけれど、その日はそれはやめておいた。
鹿肉はステーキにしてみた。というか、俺に出来るのはそのくらいだ。俺は平気だったが、ハンナにはちょっと固くて臭いもあって食べ辛かったかもしれない。
見た目は喜んで食べていてくれてるけど……反省だ。
次からは煮込みにするか。
翌日。俺はさっそく、大きめの板を用意し、ハンナを呼んだ。
「名前、何がいいかな?」
「うーん……思いつきません……」
俺もどうも思いつかない……
あっ! そうだ。
ハンナが宿をやりたいと言い出してくれた。自分から何かをしたいと。それが宿屋だなんて最高じゃないか。
これだけの事を、俺に、そしてメリダの村にもたらしてくれた奴らにあやかった名前をつけよう!
『五人の山賊亭』
「変わった名前ですね……?」
「ちょっとロマンチックだろ?」