第六話
村の囲いの中には、小さな菜園もいくつかあった。
俺はハンナに提案し、彼女にその世話をしてもらう事にした。出来れば自分から言い出して欲しかったが、仕方ない。
井戸の状態も問題無いし、水には困らないようだ。
俺は空き家を解体して得た建設資材を整理する。ハンナの家の再建もあるけど、先に村の門を直した方がいいかな。
本当は俺達もベラルクスに行けばいいんだけど、ハンナが行かないと言うのだから仕方ない。無理やり連れて行ってもここに戻ろうとするかもしれないし。
「あの……ブレイドさんは……ベラルクスに行かなくていいんですか?」
「ん? いや別に……今の所用事は無いな……あ、でもいずれ買い物をしたり、何か売りに行ったりはするかもしれないな」
「ブレイドさんは、この村を通ってどこかへ行く……旅人じゃなかったんですか?」
あれ?
そういえばそうだ。
俺はどこへ行く所だったんだろう……?
何なんだ。まるで思い出せない……
「そう言えば! 私、ブレイドさんと始めてお会いした時、野草を摘んでたんです! この季節だけなんです、フワリ草の花芽を集めて、ハーブティーを作るんです」
「ハーブティーか、いいなあ、暫くそんな素敵な物を口にしてないよ……冒険ばかりして来たからな」
ハンナが照れたような笑みを浮かべる。お、いいぞ。
「素敵かは解りませんけど……そうだ! 私、あれなら御馳走出来ます! 採りに行っても……いいですか?」
そう言ってハンナは小首を傾げる。俺は勿論うなずいた。
やっと彼女が自分から「やりたい」という事を言ってくれたのだ。
村と湖の間の坂道を、俺達は降りて行く……俺は念の為、村の倉庫に置いてあったメイスを腰に下げていた。
坂道の両側には様々な野草が植えられている……思えばこれはただ自生してるのではなく、村人がある程度手入れをしていたのだろうな。里山というやつだ。
俺が代わりに何か出来ればいいんだが……俺には植物や造園の知識が無い。
魔法も破壊魔法の基本のやつしか知らないんだよなあ。もう少し生産性のあるスキルが欲しかった。
ん……今何か俺……
「わあ、急がないと花が開いちゃいます! 明日にはもう全部苦くなってたかも」
「そうなのか? じゃ、俺も手伝うぞ」
「はい、あの、全部採ったらだめですよ、一個おきに摘む感じで御願いします」
「了解、何でも言ってくれ!あー、いい香りだな」
正直、俺には花の香りの良し悪しは解らない。ハーブティだって飲んだ事無い。
ただただ、ハンナが楽しそうにしているのが嬉しいだけだ。
出会った日の彼女を思い出すなあ。