第五話
「なんですか……それ」
「ああ、村の旗だぞ! どうだ! 俺が描いた!」
火事で焼け残ったカーテンに、大きく俺とハンナの似顔絵を描いた……つもりだが俺の画力だとキノコが二個生えてるだけに見えるな。
とにかくそれを、俺はロープにくくりつけた。
滑車からぶら下がったロープを引く。するすると、村の焼け残った門柱に、手作りの旗が揚がって行き……風にはためいた……
「……なんか……へんなの」
ハンナが少しだけ笑った。元々はもっとよく笑う子だったんだろうな。さすがに今の状況じゃ……ほんの一瞬でも微笑んでくれただけで上々出来だ。
村は空き家だらけなのに、ハンナは壊れた、元の家に住みたいという。
この村で暮らすにあたり、俺は密かに自分の中で一つだけルールを決めた。
ハンナが自分からやりたいと言い出した事は全部応援する。
「じゃあ一旦片付けないとな。それと、ハンナの家にある、使えそうな物は全部使おう」
ハンナの家の向かいの家は小火程度でほぼ残っていたので、ハンナの家に残っていた鍋やカップなどの雑貨、焼け残った服や毛布、本などは一旦そこに運び込む事にする。
「待て待て、そのカップ! 捨てる事ないぞ、ほらっ、拭いたら綺麗になるじゃないか、まだ使えるぞ、もし使わないなら俺にくれ、俺そういうの持ってなくてさ」
家財道具を運び出した後は、一度家を解体しないといけない。大工は専門外だが解体までは俺にも出来た。幸い槌や斧などの工具はある程度、村人が置いていってくれていた。
「この柱はまだ使えるな、この窓も平気だ……おお、この暖炉はそのまま残していいんじゃないか?」
本来なら……あまり亡くなった家族を思い出す物を残しまくるのはどうかとも思ったが、とにかくハンナの意思を優先したかった。
そして、予想はしていたが「ハンナの意思を優先する」事は、実際にはとても困難だった。
「ごめんなさい、ブレイドさん……私……どうしていいか解らないんです」
予想はしていた。何故かは解らない。だけどハンナは初めて見た時の活発そうな印象とは裏腹に、ほとんど自分の意志や希望というのを持って居ないのだ。
俺はそれを、両親を失った事による一過性のものだと思い込む事にした。本当の彼女はちゃんと自分の意思を持ち、自分で考える事の出来る人間に違いない。
「足りない材料は他の空き家から貰う事にしよう。今日はもう遅いな、ハンナ、元の家が直るまでは、そのお向かいさんの家を借りなよ、その家の中、もうハンナの家の物だらけだしな」
俺はその隣の家に住む事にする。
正直、同じ家に住んでもいいと思うし、俺がそう言ってもハンナは反対しないと思うが、それではいけない気がした。ハンナが一緒に住みたいと言い出さない限り、俺はハンナとは別の家に住む。