第42話 勇者のプロファイリング
ガードナーは、まるで神聖なアーティファクトでも扱うかのように丁寧に、その練習用の弓と矢を、壁の武器掛けに戻そうとする。
「ガードナー、弓はまだしもその矢は聖獣王を射抜いた矢であろう」
ゼノンはそう言ったが、ガードナーは構わずその矢も他の練習用の矢の中に混ぜてしまった。
「奴はブレイドなんだ」
ガードナーはそう言って武器掛けから離れ、ランプを手に、あちこちの壁を探り始める。
「俺は最初、二つの可能性を考えた。一つ。奴はブレイドとして覚醒していない。だがこれは違うと思う。奴は明確にブレイドである事を拒もうとしている。腰抜けの芝居までしてな」
ガードナーのぼやきに、マリオンが応じる。
「……ちょっと見てみたかったわね」
ガードナーはあちこちの壁を探りながら続ける。
「二つ。何かブレイドになりたくない理由がある」
「私はそれだと思うんだけど……旅に出たくないのよ。ハンナちゃんとここで暮らしていたいの」
今度はソニアが言った。マリオンも頷く。しかしガードナーはかぶりを振る。
「だったら、そう言えばいいじゃないか。ハンナが心配だと言うなら都に引越せばいい。ブレイドの大事な人だと言うのならきちんと守って貰えるさ。辺境で二人暮らしをしているより安全だろ、どう考えても」
「そうかしら……」
「言いたい事は解る。奴は世界に興味がなく、ハンナとただ暮らせればいい? 俺も最初はそうなのかと思ったが……違うな。奴は世界を救えるなら救いたいと思っている。人々に笑顔であって欲しいと思っている。素直にそうは言わないけどな」
ガードナーは壁から床までつぶさに調べて行く。
「さっきから何を探しているの?」
「いや……念の為……秘密の出入り口とかが無いかとな……」
「そんなのゼノン様に聞けばいいじゃない」
ガードナーは顔を上げ、ゼノンを見る。
「……どうだ? ババア」
「無駄じゃ。この空間はここだけ。別にダンジョンに繋がっていたりはしない」
「早く言えよ……」
ガードナーはまたぼやく。今度はゼノンが続けて口を開く。
「お前は今言った二つとも違うと思うんじゃな? ブレイドが自分をブレイドと認めない理由。それが他にあると。一体それは何じゃ」
「確証はないぜ? だけど、もし自分がブレイドだったら? どんな理由があったら、自分がブレイドだと認めないか?それを俺は……奴と付き合いながら考えた」
ガードナーは訓練場の真ん中へと歩いて行く。ゼノンは壁際の石のベンチに座る。
「勿体ぶるな……早く言わぬか」
「今はブレイドだと明かす事が出来ない、今ブレイドだと認めると何か不都合がある、そんな理由がある場合だ。これだと辻褄が合う気がする」
マリオンがガードナーに近づき、訪ねる。
「どういう事……? そんな理由、有り得るの……?」
「何故ブレイドだと明かせないのか、その理由は今は解らない」
「ガードナー……ふざけてないよね?」
「ふざけてねーよ。覚醒してないだけなんてもう有り得ない。ブレイドになりたくない、ハンナと暮らしたいだけなら何故ここから逃げない? 一度ドラゴンに襲われた場所に何故住み続ける?」
ガードナーは一度言葉を切り、皆を見回す。
「世界は救いたいけど今はブレイドになれない。既に聖獣王を一矢で倒す力は持ってる。じゃあ答えはこれだけだろ。今は自分がブレイドだと明かす時ではないと、奴は考えている。理由は解らない」
ガードナーのぼやきに近い台詞に、ゼノンが鋭く反応する。
「もしそうなら! ブレイドが今都に向かっているのも、その理由と何か関係があるのではないか? やはり我等も行くべきじゃ」
「そこは我慢だ。俺達が近くに居ては出来ない事があるとブレイドが考えているなら、俺達はそうすべきではないと思う……一応、昨日今日で出来る手は打った」




