第39話
「少しの間でいいんです、五人の山賊亭の留守番を頼まれていただけませんか」
「御願いします! 私、私一度行ってみたかったんです!」
宿に戻った俺達は、四人の長期滞在客にその相談していた……4尾の鱒の塩焼きを添えて。
「なんでついていっちゃいけないんだ」
ガードナーが言う。ガードナーはいの一番に、いいけど自分は連れて行けと言った。するとソニアさんもマリオンさんも行きたいと言い出す。
それではゼノン婆がここで一人になってしまう。
「逆に聞くけどな、田舎者二人で行って大丈夫か?都は広いぞ?」
「そういう言い方は無いわよ、ガードナー」
まあ……不安が無いと言えば嘘になるけど。
最近ずーっと親子ごっこが続いているというのもな……たまにはそれ以前の雰囲気で旅をしてみたいというか……
「……まあ、ええじゃろ。わしらがずーっと泊まりっぱなしじゃから、ベイトもハンナも一日も休みが無い。たまにはわしらを置いて羽根を伸ばさんと」
ゼノン婆が言った。
「まあ、そう言われるとちょっと解るな」
ガードナーが頷いた。
善は急げと、俺達は急いで旅支度を整えて行った。
「ベラルクス方向から行くと遠回りになるけど、その方が道が広くて解り易いからな? 大丈夫だな?」
旅なれたガードナー達は都へ行くなら山越えをするらしいが、田舎者はベラルクスまで行ってどこかの旅商人について行った方がいいと言う。
「解りました、ベラルクス経由で都へ向かいます」
それは恐らく的確なアドバイスなのだろう。素直にそうする事にしよう。
履き慣れたブーツをしっかり手入れして、着替えや日用品をチェックして。背負い袋の縫い目まで確認する。
水筒と保存食も念の為必要だ。明かりも用意しなきゃ。毛布も一枚持って行こう。
何か壊れてもすぐ直せるように、針と糸も持ってかなきゃな。そして同じ物全部ハンナの分も揃っているかを調べる。
ハンナはもうウキウキが止まらない様子だった。今夜は眠れないかもしれないな。やっぱり行ってみたかったんだな、都へ。
俺も眠れなかった……
ベッドに入り暫くはうつらうつらしてたものの、一向に眠りが訪れない。
結局俺は靴をつっかけて外に出た。
月が大きいな……これなら夜も歩き易いだろう。勿論、夜歩かないで済むようにしたいけど……
ふと見ると、村の共同墓地に誰か居る……
あれは……ハンナじゃないか。ふふ、やっぱり眠れないのか。
「お父さん、お母さん……私明日、都に連れていってもらえる事になりました。ブレイドさんが連れて行ってくれるんです」
手を合わせているのは……両親の墓だな……
「お父さんの約束、ブレイドさんが果たしてくれるよ……だから心配しないでね」
激しい後悔の荒波が押し寄せ、俺の濁った心を押し流して行く。
俺は何を考えていた?
いい歳をして、ハンナから父親扱いされるのが寂しいだと?
ハンナは本物の父親を失ってるんだぞ!
だけどあの子、そんな事一言も言わないじゃないか。
……お父さんと約束していたのか。
あの日亡くなった本当のお父さんと、都へ連れてって貰う約束をしていたのか。
すまねえ……すまねえハンナ……
畜生……前が見え無ぇくらい涙が出やがる……
俺が都へ行こうと言った時、あの子、どんな気持ちだったんだろう。
なのに俺は! 久しぶりにブレイドさんと呼んでもらいたいとか、お父さん芝居無しで二人で旅がしたいとか! そんな不純な事ばかり考えていたのか!
俺は涙を拭う。もう、迷わない。
今決めた。俺は。俺は絶対に、ハンナの父親になってみせる。




