第三話
「……私の家!」
少女が思い出したように叫ぶ。
ドラゴンはどこへ行った……まだ遠くへは行ってないような気がする。
今度は少女の行動を予測していた俺は、少女が駆け出す方向について行く。
他の村人も逃げまどっていた。
「家の中も危険だ! 地下室へ逃げろ!」
どこかで誰かが叫ぶ。
村の家の何件かは炎上していた。ドラゴンに乗りかかられ、物理的に破壊された家もある。確かに建物の中に逃げるのは無意味なように見えた。
「お父さん! お母さん!」
少女が立ち止まり、叫んだ……何てこった……その家は既に踏み潰された上、炎上していた。
「危ない! よせ!」
「中に! 中にお母さんが! お父さんが!」
「俺が行くから君は地下室に逃げろ!」
「いやア! お母さん!」
背後からドラゴンが迫って来る気配がする……まだ少し遠いが、確実に向かって来ている!
その瞬間……俺の脳裏に……何かの光景が見えた。
……
本当に、本当に刹那の間に見えた二つのビジョンが……
一つめ。一人でここを離れる。俺は生きるが、少女は崩れた家に飛び込み……両親と共に死ぬ。
二つめ。強引に少女を避難させようとする。もみ合ううちに飛来したドラゴンが吐く炎を浴び、俺はギリギリ生き残るが少女は死ぬ。
俺は目の前の崩れて炎上する家の中に、少女と共に飛び込んだ!
すぐ後ろに迫ったドラゴンが尚も炎を浴びせて来る!
「キャアアアアアア!」
叫ぶ少女を俺は背中で庇う! 頼む! 頼む生き延びてくれ!
ドラゴンは上空を通過して行った。
崩れ、燃え上がる家が、ギリギリ……俺の背中と、俺の背中で隠した少女を守ってくれたのだ。
だが……俺と少女は、這いつくばったまま、それを見た。
瓦礫に埋もれ、手をつないだまま事切れている、一組の夫婦を……
声にならない嗚咽を上げる少女。
こんな時、何て言えばいいんだろう。
俺は、床に泣き崩れた少女に、無理やり顔を上げさせた。
「お前は!! 生きろ!!」
「……パパ……ママ……無理……です……一人で……なんて……」
「無理じゃねえ!! お前のパパとママの最後の願いだぞ!! お前は生きろ!! 絶対に生きろ!!!」
何故そうなのかは、本当に解らない。
色々な可能性の中で……この少女が生き残る事は、予定されていなかったような気がしてならない。
勿論、何故そんな事が許されるのかなど解る訳がない。何故この子が死ななきゃならないんだ? この子が何をした!
出来ればこの子の両親だって助けてやりたかった、だけどそれはもう無理だ……この子だってまだ助かりきっていないんだ。
なんなんだ、俺は。一体俺はなんなんだ。ドラゴンより酷いじゃないか。
俺はこの子がこの村のどこかでドラゴンに殺される運命だったような気がしてならないのだ。様々な場所、様々な方法で。
だけど俺の意思は違う。俺は絶対にこの子を死なせたくない。
そう思い始めていた。