第25話
それから一週間が過ぎたが、婆さんが出て行く気配はない。
いや……毎日6ゴールド、金を払ってくれる客なのだから、文句を言うのはおかしいのだが……問題は他にもあるのだ。
「今のうちに少し木を伐っておきたいんだが……さすがに一人で行ってもいいだろう?」
「じゃあ私も村のすぐ近くなら一人で行ってもいい? お父さん」
「……解ったよ……じゃあ二人で行こうか」
「そうでしょ! ふふっ」
そう……ゼノン婆が居る間は、この親子ごっこを続けなくてはならないのだ。
嫌だという訳ではないんだけれど……遊びもあんまり続けていると本物になっちゃうかもしれないしなあ。
実際俺達は一回り年齢が離れているけれど……親子にしては近過ぎるはずだ。
いや、今ハンナを女性として意識してるとか、そういうつもりは無いんだが、その微妙な所というか、今すぐ親子関係確定と言われてしまうのは寂しいというか……
木を切る斧は村にも数本あった。程よく切れ味の鈍そうな、丈夫そうなやつだ。少し柄がガタついていたが、俺が木杭を入れたらそれも直った。
俺が向かったのは村の下手の、湖側の雑木林だった。こっちの手入れが良くないんだよな。山側の雑木林は少し空き気味なのに。
俺は間伐すべき木を選び、斧を振るう。汗をかくのは嫌なのでゆっくりと、最低限の力で。そうする事で……木が伐り倒されるまでの間に少し時間が生まれる……
それでも、この木がここまで育つのに必要だった時間と比べると、ほんの一瞬なんだろうな。
しかし、冬を越す為には村に薪は必要だし、森は正しく間伐を行わないと荒れてしまう。申し訳ないが森の為、村の為、伐られていただきたい。
ハンナは木こりをただ見に来た訳ではなかった。
のこぎりを持っていて、切り倒した木の枝落としを手伝ってくれるのだ。
「ゆっくりでいいんだぞ、汗をかかないようにな」
もちろん俺も枝落としをするわけだが、どうしても俺の方がずっと早くやれてしまうので、ハンナはついつい頑張ってしまう。
これは頑張らなくていいのだ。自分に出来るペースでいい。
「私、ちゃんと役に立てました?」
村に戻る時は勿論、長さを切りそろえた枝や丸太を担いで帰る。
ハンナにも小さいのを背負ってもらった。
「勿論だ、一人でやるよりずっと良かった」
まあ……実際の所は、一人でやるのとほとんど変わらなかった気もするが……
仕事って、楽しく出来るなら楽しくてもいいよな。
ハンナも楽しんでくれるなら、俺も楽しい。
あんまり力仕事させると腕が太くなりそうだけど……いいじゃないか。ハンナには健康でたくましい女性になって欲しいな。




