第21話
今日は菜園の手伝いだ。
ハンナが植えたパープルラディッシュが食べ頃を迎え始めたのだ。
紫に色づいて汁気も多そうで、そしてなかなかに大きい。
その気になればもっと大きくする事も出来るらしいが、このくらいの時が一番美味いのだそうだ。葉っぱの部分も湯がけば食べられるという。
「いいですよ、食べてみても」
俺が摘みあげたパープルラディッシュを眺めてると、ハンナが微笑んでそう言った。やれやれ、すっかり食いしん坊キャラにされてしまった……まあ、食べてみたいとは思っていたけれど!
「やった! じゃあ、いただきまーす!」
「ああー、待って、井戸水で洗ってから……」
ハンナは慌てて言うが、俺はもう食べてしまった。甘い! 瑞々しい! ほのかな酸味と爽やかな辛み、太陽の匂い……太陽の匂いってなんだろ? でもそうとしか表現出来ない。
「こりゃ美味いや」
俺はそのまま葉っぱまで齧りだす。本当だ、茎に糖度があるんだな、葉も柔らかい。なるほど、スープに入れてもいいなこれは。
すごいな、ハンナ。これを種から育てたのか。
「なんでババアと散歩しなきゃならねえんだよ」
「フン、お前もいずれジジイになるんじゃ」
人が折角山の恵みとハンナの腕前に心揺さぶられているのに。
村の入り口に、不機嫌そうな若い男と、腰の伸びた元気そうな老婆が、連れ立って現れた。あー。また来たのかあの自称勇者。
連れているのは祖母だろうか? 意外と孝行な所があるんだな。人は見掛けによらないものだ。
「旅の人? ここはメリダの村よ」
ハンナが立ち上がり、旅人に駆け寄って言った。あれだけはどうしても言いたいんだな……何故なんだろう。
「よお、ハンナちゃん、こないだはお騒がせしたな。また世話になるぜ、今日は二人だ、二部屋頼む」
「ありがとうございます! ガードナーさんも、もう変な物を拾って食べたりしては駄目ですよ?」
「『も』?」
ガードナーは首をひねる。ハンナはくすくす笑いながら二人を宿に案内する。
ん?
婆さんの方が、まじまじと俺の顔を見ている……
何だ? 知り合いか?
「あの……なんでしょう?」
「こら! ガードナー!!」
婆さんは俺には何も言わず、急に孫? を呼びつけた。
「なんだよババア」
「なーにが居ないだ! ここに居るではないか! ブレイドが!!」
なんという事か。
なんという事か……
この婆さん、ただの婆さんじゃなかったのか……一体何なんだ!? こいつには!
だいたいブレイドっていうのは何なんだ。いや俺の名前だけど。俺はブレイドが自分だという事は知っているけれど、それはただの名前だ! あれ、こんがらがって来た。
仮に俺の名前がブレイドだったとして、それが何の関係があるんだ!
ブレイドならこの村を出なければならない? そんな事あるものか。




