第二話
「お母さん! お父さん!」
少女は走りながら叫んだ。
何故この子は、たった今大爆発が起きた所へ全力で走って行くんだ!?
まだどんな危険が待っているかも解らないのに!
俺の「通常より速い全力ダッシュ」は確かに早く、そしてスタミナの消耗が激しかった。まずい、追いつく前にスタミナが尽きる可能性が……間に合え! 間に合え!
「よせ!」
間一髪だった!
――ゴワァアアアアアア!
ギリギリで少女の前に飛び出した俺が見たのは、村の広場の中央で炸裂する火の玉だった!
「キャアッ!」
少女は俺の背中にぶち当たった。俺は正面から少し炎を浴びた!
くそ熱…くない?
「近づくな! 離れろ!」
俺は振り向いて少女を見た。かなり驚いてはいるようだが、正気は失っていないようだ。
「村に……お父さんとお母さんが!」
「俺が行くから! その塀の影に……」
そう言い掛けた俺の上から……何かの影が覆いかぶさった……
ドラゴン……
俺は何故かその生き物を知っていた。翼を持ち火を吹くトカゲ。強大で傲慢な魔獣の王。
次の瞬間、旋風と砂嵐が舞い、俺は視界を失った。
「ぐっ……」
――グアアァァァァァッ!!
頭上で咆哮を上げるドラゴン!
……危ない!
俺はろくに目も見えぬまま、村の石塀の方へ駆け寄る!
「返事をしてくれ!」
「は……はい!」
俺は声のした方に手を伸ばす。砂嵐が一瞬晴れ……
泣きそうな顔の少女が見えた……
俺は押し倒す勢いで、というより完全に少女を押し倒して地面に伏せさせる。
同時に凄まじい破砕音が俺達を包む!
ドラゴンが村の門柱に着地しそれを粉砕したのだ!
――ギエエエエェェェェ!!
再び咆哮を上げ離陸して行くドラゴン。
くそっ! 何だってんだ!
「お、おい! 無事か!」
俺は…名前を知らない少女に呼びかける。無事か!? 無事であってくれ!!
「は、はい……でも!」
砂嵐がようやく晴れて来る。俺は立ち上がり、少女を助け起こす。
細かいすり傷などは負っているようだが、どうにか無事のようだ……俺ではない、その少女が。
「あなたが怪我を……!」
そう。俺は正面から火の玉の爆風を浴びた火傷と、背中に降り注いだ石や丸太によるダメージを受けていた……はずだった。
実際、何ともない訳ではないのだが……奇妙だ。受けたダメージは俺の行動を何らさまたげる物ではないらしい……普通、例えば足を強打されれば、全力で走る事など出来なくなると思う。
だけど今の俺は、死ぬ直前まで全力で動けるらしい。何故かは解らないが、それがはっきりと解る。