第18話
「ああああああああああああああああ!!!!」
俺は絶叫していた。叫びたくない。叫びたくないのに叫ばずにはいられない。
「ブレイドさん! お水、飲んで下さいブレイドさん!」
「だめだあっ! 水など飲めない、飲めないッ!」
「飲まないと危険です! 飲んで下さい!」
ハンナは俺の頭を抱え、散水用のじょうろで、無理やり口の中に水を流し込む。
すまない。
すまない。
すまねえ……
「あおおおおおおお!」
俺は雄たけびを上げて立ち上がり、外の厠へ突進する。
◇◇◇
ベラルクスはいい街だった。俺達がメリダから来たと告げると、皆集まって来て、口々にお悔やみやら激励やら言ってくれた。
俺達がメリダの野菜やハーブを持って来たと告げると、喜んでそれを、次々と買い取ってくれた。持って来た物は全部売れた。
それから市場で要る物を買った。宿でお客さんに出す用の酒、村では作れない調味料や干し肉……色々仕入れた。
雑貨を売る露店の前では、ハンナが足を止めた。何か欲しい物があるんだな、いいぞ、と思って見ていると、どうやら画材に興味があるらしい。
絵の具は黒と赤と緑と白しかないようだが……ベラルクスでも田舎だから、まあ仕方が無い。いいんだぞ、さあ来い、ハンナ!
「あの……ベイトさん、私……ちょっと欲しい物が……」
よし来た! 何でも言ってくれってなもんだ!
俺は勿論、ハンナが欲しがった絵の具を買ってやった。絵を描く用の布も。さあ、買い物はこれで十分だ、メリダに帰ろう。
親切な街の人々は、俺達が帰る時も何度も手を振ってくれた。
そこまでは、とてもいい一日だったのだが……
◇◇◇
「ふうううううううううううううううん」
そして今、俺は厠でとめどなく泣いている。
あの肉……俺がサンバンと名づけた獣の肉。メリダに戻ってから、あれを串焼きにしてみたのだが……ほんの一口食べただけで……十分火は通したのに……
ハンナに食わせなくて本当に良かった。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおん」
おかしな声は出したくない。もうハンナには散々心配を掛けている。だけど……だけど……
「ごめんください!」「部屋は空いてますか!」
……宿に……誰か来た?
「は、はいっ、一人一晩6ゴールドになりますが、お泊りに……」
「急病人なの! 私達の仲間が!」
「まあ、大変! 早くお部屋に……」
「ぐぅぅおおおおおおおおん! 部屋はいいっ!! 厠はッ! 厠はどこだァァッ!」
隣の個室に、誰かが駆け込んだようだ。
「おああああああああああああああああ!!!」
よく解らないが、泣いているようだ。
「なんて事だッ……恐るべし! 恐るべし!! ロブロトロスッ!」
ロブロトロス?
「この勇者ガードナーを! うおおおおおおお! ここまで痛めつけるとは見事だロブロトロス! ふんがあああああああ!」
その後、その客一行は三日間宿屋に泊まってくれたらしい。
あいにく俺は三日間、村の厠と自宅を行き来していたので何があったのかはよく解らない。
今回解った事は、ハンナはとても頼りになる子でもあるという事だった。