第15話
揺れる草むら……まあ、ウサギか何か飛び出して来て終わりだとは思うけど……
足元がぬかるんでいる。歩きにくいな……せめてブーツがあれば良かったんだが……俺が履いているのはぺったんこの革靴だ。
振り向くと、細い白樺の影からハンナがこちらを見ている……そこまで心配してる、という雰囲気でもないな。良かった。
俺は前へ向き直り、手前の葦原を避けて、先程から動いている奥の葦原を覗き込む。
大きな三つ目と目が合った。
「……」
動いている葦に見えたのは、そいつの背中から生えた毛のようだ。体長は4m程だろうか。大型の哺乳類かな。見たこともないやつだ。
背中には葦のような長い毛を生やしているが、手脚は真っ赤な皮が露出している。
額に三個目の目と一本の角……大きいな……
それから……困った事に……この口は肉食獣の口だなあ。大きく裂けていて、無数の歯はどれも長く鋭く尖っている……
「グルゥゥゥゥガアアアア!」
お腹も空いているらしい。
「ベイトさん!」
俺は大慌てで振り向いた!
「どうしたハンナ! 大丈夫か!」
大丈夫だ……良かった……ハンナは先程までと同じように、ちゃんと白樺の木の陰に隠れていた。
「あ、危ないです!」
そうだなあ、ハンナに危険が及ばないように、さっさと処理しないと。
うーん、だけど……12、3才と思われるハンナの目の前で、あんまり残酷なシーンを見せるのはなあ……
「ベイトさん! ベイトさん!」
いかん、ハンナが心配している。どうしよう。うーん……
獣はもう巨大な口を開け、俺に襲いかかって来ていた。しかし正面からの攻撃ならどうという事はない。左手用の基本的な防御呪文で十分だ。
既に奴は、俺に喰らいつこうと開いた大きな口の中に、俺が張った見えない盾を突っ込まれて苦しそうにもがいている。
とりあえず俺は獣の方に向きなおり、メイスで一発、軽く頭を殴ってやる。
ゴン。
それから、シールドを解除する。
獣は後づさりしながら、激しく首を振った。
「ほれ。失せろ失せろ」
俺はシッ、シッ、と手を振ってやる。
「グルルルルァァァァァァアア!!」
つまらんプライドでも刺激されたのか、奴は猛り狂った様子で吼えた……が、今度は真っ直ぐには突っ込んで来ない。少しは学習してるのか。厄介だなあ。
魔法を使うか……獣は火を怖がるよな。じゃあちょっと左手用の基本的な炎の攻撃魔法で……
「……だめだ!」
俺は奴に炎を浴びせようとして……いや実際には、一瞬浴びせてしまったのだが……踏みとどまる。
炎はだめだ! ハンナが炎の中で両親を失ったのはつい最近だぞ!
俺の馬鹿! 鈍感! ゴミ! ばいきん!
あれ?ばいきんってなんだっけ……バイ……また一つ……記憶が消えていく感じがした……
「ガルルルルルゥゥゥゥゥウ!!」
こっちと戦えって言ってるのか? 面倒くせえな……
炎の魔法は全く効かなかったようだ。まあ仕方ない。