第14話
俺は念の為、村の倉庫に落ちていたメイスを持って来ていた。例の山賊五人の時にも持ってたやつだ。まあ……あの時はそのメイスすら要らなかったけど……
「ベイトさん、私もその籠くらい持てますよー」
そうそう、この冒険の間、念の為俺の事はベイトと呼んでもらう事にした。ブレイドが出たと聞いてガードナーが戻って来たら困るからな。
「転んだ時に手が使えないと危ないからな。俺は元々山歩きが仕事だから」
道は一本、田舎にしてはまあまあ幅もあり、崩れた場所や難所も少ない良い道だ。
なだらかな山間を、森の中を……心地よい木漏れ日に揺られながら、俺達はひたすら歩く。
「おっ……このキノコ、食べられるかな」
「それはアオテングタケですよ……?」
「あはは、そうそう、そうだ」
山歩きが仕事と言いながら、やらかしてしまった……ハンナは冗談だと思ったのか、少し笑った。
傍らの木に絡んだ蔓に、紫色の実がついている。いくつも……これは何だっけ。子供の頃、食べた事がある気がする……
「これも貰って行こうかな」
「トーミの実ですね……昔よく……」
俺はよく熟れたものを選び二つ三つ取って、ハンナに渡す。少し高い所に生えているが、俺なら届く。
「……お父さんが取ってくれました」
「……いいお父さんだな」
ハンナは、うん、と頷き、少し微笑んだ。
なんだか気の遣い合いみたいになってしまうな、家族の話をすると……別に、避ける必要は無いんだが。
「うん、甘いです、トーミ」
「よし、もう少し採って行こう」
次第に片側の森の木々が少なくなり、やがてそちら側は湿気の多い野原となった。森と野原の境界線を、ベラルクスへののどかな道は続く……
ん?
湿原を覆う葦のような草が、不自然に揺れている……ていうか……あそこだけ周りの草と色が少し違うような気も……
「何か居るな……ハンナ、少しだけ気をつけろ」
「あっ……はい!」
「俺が見て来るから……」
大丈夫だろうか?背後の森の方は……彼女をここに残してあっちに行ったら、森から何か出て来て……なんて事は無いだろうか?
まあ……見た感じ大丈夫そうだが……木々の間隔も広いし、魔物が隠れてそうな所もない、せいぜい草むらのヘビに気をつけるくらいか……
「そこの木の後ろに居なさい、ただし時々辺りを見回すのを忘れるんじゃないぞ」
「わ、わかりました」
あっ……いかんいかん。無駄に緊張させてしまった。
安全も大事だが体験や観察も大事、子供は伸びやかに育つべきだからな、箱に押し込めるような教育をしてはだめだ……って俺何考えてんだ。
「面白い見物になるかもしれないぞ、気をつけて見てるんだ」
俺はそう言って笑ってから、湿原の方へと足を踏み出した。