第13話
翌朝。勇者様御一行は俺がブレイドだと気付く事もなく、宿屋を出て行った。
あのガードナーとかいう男が「ここは気に入ったからまた来る」と言っていたのは少々気になるが……あまり来て欲しくない。ハンナの身の安全の為に。
客人達が帰った後、ハンナはくすくすと笑っていた。
「どうしてベイトさんなの? ブレイドさん?」
「はは、あいつ俺がブレイドだって言ったら俺をさらってどこかへ連れて行こうとしそうだったから」
「……お知り合い、なんですか?」
「ぜんっぜん知らない! 俺はあんなのと一緒に旅に出るのは嫌だよ、この村で暮らしたいんだ。話を合わせてくれてありがとうな」
ハンナは少しだけ俯いて……言った。
「お父様、なんて……久しぶりに言いました」
「……そうか……」
「ちょっとだけ……楽しかったです」
ドラゴンの襲撃から、三週間くらい経っていた。
その間、宿屋のお客はあの勇者一行だけだった。
「なあ、ハンナ、一度俺と一緒に、近くの街へ買い物に行ってくれないか?」
俺は思い切って聞いてみた。
村人達になんと言われようと、村を離れようとしなかったハンナだ。
ついて来てくれるだろうか……
「お出かけですね! やったー! たまにはいいですね!」
拍子抜けする程簡単に、ハンナは同意してくれた。
胸のつかえが一つとれた。
ずっと、ハンナは他の人々と……少し悪い意味で違う、そんな子のような気がしていた。他の人が普通に持っている、何かを持っていないと……
でももうそんな事は無いんだ。
或いは以前はそうだったのかもしれないけど、今では彼女の運命は変わったのだ。もう、普通の女の子なんだ。
旅の用意をしよう。ベラルクスは徒歩二時間くらいの距離にあるらしい。途中に集落などは無いそうだ。やっぱり田舎なんだなこの辺り。
ハンナには身軽でいてもらいたかったので、俺がこの村に来る時に背負っていたバックパックを背負ってもらう。
俺は背負い籠だ。中には村人が育て、ハンナが世話を引き継いでいたキャベツ、人参、セロリ、サトイモなどを詰めれるだけ詰めた。
さらに両手に持つ為の取っ手付きの籠も用意した。こっちには主にハンナが摘んだハーブを詰めた。
ハンナの両手は開けておく事にする。ハンナはまだ持てると主張したが……ここだけは俺が折れなかった。うーん、さっそく自分自身で決めた誓いを破ってしまったな……だけど、ハンナの安全は最優先なんだ。
『五人の山賊亭』の玄関には、夕方には戻ります、と書いた小さな看板を下げておく……暫く、この村は無人になってしまうんだな。
心配と言えば心配なのだが……
「天気が良さそうで良かったですね!」
ハンナはひたすらに楽しそうだった。
うん……まあ良かった。
よし、行くぞ! 隣町!
期待と不安が入り乱れ、胸が高鳴る。
ワクワクするなあ、これが本当の冒険なんだ。
これに比べたらダンジョンで怪物を斬る事など、暇つぶしの散歩のようなものだ。