第12話
そう来たか。今度は宿屋のおっさんでもいいから来いと?
「ブレイド、見つかんねえし。王宮占い師のゼノンはベラルクスに居るって言ってたのに。あのババァぜんぜんダメじゃん。それに正直、どこに居るか解んねえ伝説の魔剣士より、目の前に居るあんたの方がずっと強そうだぜ」
こいつの話。全く興味が無いわけでもない。
こいつは俺を探している。という事は、こいつは俺が何者なのか知っている。俺が自分はブレイドだと明かせば、こいつの知ってる範囲の事は教えて貰えるかもしれない。
だけどその後俺はどうなるのか。ブレイドだけどここに残りたい、行かない、と言って許してもらえるだろうか?全く解らない。
ではどうする。
自分の正体が解る vs ハンナと一緒に生きる。
「いえいえ、滅相もない、私はただの田舎の宿屋の主人です」
いや0-10で後者だ。自分の正体なんかどうでもいいわ。
「ドラゴンは人類共通の敵だ、放置していたらどれだけの人々がここと同じ目に遭うかわからんぞ? そいつを倒せればお前も英雄の仲間入りだぞ?」
ドラゴンはこの村を襲い、ハンナの人生をめちゃくちゃにしてしまった。
両親を失い、近所の人々も死ぬか引っ越すかしてしまった。
それでも……村を立ち去りたくない彼女は……この、どこの馬の骨とも解らぬ男を隣人として受け入れ、健気に日々を生きている。
ドラゴン退治……全く興味が無いと言えば嘘になる。だけど。
ドラゴンはこいつが倒してくれるかもしれない。
だけどハンナは? 誰がハンナを守る?
今俺の他に、ハンナを絶対に死なせたくないと思い戦ってくれる奴は居るのか?
だめだ。やっぱり、俺はただハンナの近くに居たい……ああ、戻って来た。
「はいお父さま!」
俺はハンナが持って来てくれたエールを受け取る。
心なしか……この親子ごっこ、ハンナも楽しそうだ。そうか。ハンナも俺の事、父親のようだと思っていてくれたのかな。
半分嬉しくて半分寂しい。
「!!」
俺はその時……無意識に自分の手がしていた事に驚愕していた……
「どうした? 早くくれ」
男が催促する。
俺の手は無意識に……ハンナが渡してくれたエールの瓶に冷気魔法を掛けていた……
多分、こうすると美味いのだ……冷気系の基本攻撃魔法をほんの0.2秒くらい使うだけで……このエールは最高の喉越しと香りを楽しめるようになるのだ。
だけど……
「ど、どうぞ……」
俺は恐る恐るそれを開封し、カップを添えて渡した。
男はカップを断り、瓶を直接手に持って、飲んだ。
……俺が魔法を使う所……見られたか? どうなるんだ、この場は……
「プハーッ! たまらんな。やっぱり只の宿屋のおやじじゃないな? あんたは……」
冷や汗が……額を伝う……
「最高の宿屋のおやじだろ! このエールの冷え具合、最高だ! ハハハ……」