第11話
額から冷や汗が流れた。
「へっ? え、ええ……はい……私は……ベイト、です、はい」
「ベイト? ブレイド?」
「ベイト、です、ベイト」
何かの勘が告げていた。俺に警鐘を鳴らしていた。ここを間違うと……何故かは解らないが、ここを間違うとハンナを失ってしまうような気がした。
「ブレイドじゃない?」
「は、はい、宿屋の、ベイトです、ブレイド? 誰ですそれ?」
俺は傍らのハンナをちらりと見る……ハンナは混乱しているようで、ただ首を傾げていた。良かった。こういう所で無駄口を叩いてしまうタイプの子ではないのだ。
「そうか……まあいいや、泊まらせてくれ。俺とこの二人は別室な」
「かしこまりました。ハンナ、御客様をお部屋に」
「はい……お父さま!」
まさかハンナが気を利かせて来るとは思っていなかった。
客人達はハンナに導かれ、『五人の山賊亭』に入って行った。
「本当にブレイドって奴を知らないか? 魔剣士のブレイドだ、この辺で見掛けた奴が居るらしいんだが……」
「さあ……あいにく存知あげません」
夕方。ダイニングに降りて来た男は、色々な事を聞いて来た。
「この村、最近ドラゴンに襲われたんだってな」
「ええ……それで多くの村人がベラルクスに避難してしまいましたが」
「あんた達は逃げないの?」
俺は近くでハンナが聞いている事を確認してから、きっぱりと言った。
「ここが、私達の村です。どこにも逃げません」
「あんた、剛毅だなあ……町に逃げて来た奴らは、今でもドラゴンにビビッて夜も眠れねえってのに……あ、エール貰える?」
エールか、地下室に未開封の瓶が少し残ってたな……宿屋なのに酒が無くなったらまずい。いずれ買い物には行かないと。
「ハンナや、持って来ておくれ」
「なあ、あんたどこかで冒険者やってたんじゃないか?」
「……冒険者だなんて……とんでもない」
「腕も立ちそうだし……ああ、さっきも聞いたかもしれないけど、俺はガードナー。連れの黒いのがマリオン、白いのがソニア」
「……皆様は、冒険者の方ですか?」
「まあな。親父が冒険者で俺も冒険者だ……俺の親父は勇者アスラン……知ってるだろ?」
全く知らない。初めて聞いた。
「ええ……驚きました」
「だから俺も勇者なんだってよ」
「……凄いですね」
「だからな……ドラゴンが出たって聞いて駆けつけて来たのによ……ドラゴン、どこに行ったかも解んねえって……この村を襲ったきり、どこにも現れない」
そんな話、俺に言われても困る。まあ、またこの村を襲って来たらどうしようとは思っていた。
「どうだい? あんた実は腕が立つと見たぜ。一緒にドラゴン退治しねえか? 村人の仇だろ?」