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捏造の王国

捏造の王国 その3 オキナワ選責任押付反省会後の臨時国会対策byガース長官

作者: 天城冴

次々ふりかかる災厄に玉露を楽しむ間もないガース長官。自業自得のデマ流布の後始末に、今度は新閣僚への失言対策に…


この話はフィクションです、どっかに似たような人がいるなあというのは読者様の気の所為である可能性が高いです。もちろん、その方になぞらえて空想なさるなり、憂さを晴らされるのは読者様のご自由です。

オキナワ選反省会から帰ったばかりのガース長官は一服しながら窓をみた。

「ふう、今夜は雨か。ほっとする」

この頃は満月どころか月をみるのですら、嫌になりつつある。

「またマンゲツ記者の追及があると思うと胃が痛くなりそうだ」

そっと下腹部に手をやるガース。

滅多に吐かない弱音が口をつく、幸い今は副長官トリオもいない。思いっきり愚痴を言えるチャンスかもしれない。

「オ、オキナワ選、あ、あれだけ努力したのに。大風呂敷を広げすぎてアメリカ側から抗議はでるわ。当選してもザキマは降ろせ、落選したら、くう」

ガース長官はつい数時間前までのジコウ党大反省大会の様子を思い出していた。


「あんたねえ、わざわざトーキョーからきて、邪魔しかしてないでしょ!だいたい公約破りのゼツボー党と揶揄される都知事のアンタが来たからよ、オオイケ・リリィ」

いきなりジコウ党女性役員が都知事オオイケに罵声を浴びせる。

オオイケも負けてはいない。

「何言うのよ、オオイズミ後援会のみなさん、あなた方がいっつもチンジロー君にくっついてくからいけないんでしょ!てっきり握手してたから地元民かと思ったら、オオイズミの後援会なんて話が違うわよ。どうりで毎回似たような人がいると思ったわ」

亡きオンナガ知事の葬儀で嘘つきコールを浴びせられ、逃げるように反省会会場に到着したばかりのガース長官は、オキナワ選反省会の波乱含みの幕開けに頭を抱えた。

「あー、皆さん、ここは静かに我々の敗因を分析し、ザキマ候補をねぎらう場であって」

なんとかこの場の雰囲気を穏やかなものにしようと口を開いたが、

「長官、あなただってモノレールだの携帯電話だの、いい加減なこといって。やっぱり来ないでほしかった」

「だいたいザキマさんじゃ不安があったんですよ、会議ニッポンだし。ギノギノワン市長時代も政策めっちゃくちゃで赤字が増えて、マラソン開催できなくなるし。それをあなた方がゴリ押しするから」

「大挙してやってきて、地元をこき使うからこんなことになるんです」

「本土の連中がこなければよかった」

壇上に上がった、ガース長官ら本土組に、地元オキナワ組が一斉に非難の矛先を向ける。ガースが口を開いたおかげで、かえって火に油、いやガソリンを投下してしまったようだ。

(くそ、ザキマは何をやってるんだ、負けたとはいえ、本日の主役だぞ)

「ああ、ちょと皆さん、ザキマさんがいないようですが」

ガース長官が尋ねると婦人たちが答えた。

「知らないわよ」

「負けたんでひきこまりでしょ」

負け犬に冷たいジコウ党婦人部。仕方がないのでガース長官は

「ちょっと、失礼、主役がいないと始まらないですからな」

と言いながら壇上から降り、自らザキマ氏を探した。

(本当に見当たらないようだな、一体どこに)

ガース長官は大会後の宴会に使う飲料の箱を運んでいた裏方スタッフを捕まえて、尋ねた。

「ザキマくんはどうした、どこにいる」

「あ、さっき、スマホ壊して、米軍に出頭しました」

「出頭?」

「いやあ訴えられてるじゃないですかザキマさん、正確にはわが陣営のデマ飛ばした人ですけど。ザキマさんもデマ広めたんでヤバいと思ったのか、先に向こう側の弁護士にあらいざらい話せば、なんとかなるって言って」

「ひょえええええええ」

顔がすっかりムンクの叫びとなったガース長官。

「い、いや、こんな顔をしている場合ではない」

急いで顔を手で戻し、党員に問いただした。

「い、いつ出たんだ、ザキマはいつ」

「あ、大会が始まる直前です。“やっぱ官製オベッカちゃんは嘘つきだ、長官と同じだー”とか何とか言って、スマホをいきなり地面に叩きつけると足で踏んで壊して、そのまま出ていきました」

党員が指す先には、無残にも壊れたスマホ。

「もう20分以上前か、急がなくては」

「あ、ガース長官、反省会はー」

党員の呼び止める声も聞かず、ガース長官は足早に会場を後にする。

会場では長官が出ていくのも気づかず、本土側の責任押し付け争いが激化し、オキナワ組が“戦犯”認定された議員や知事らを糾弾していた。


「はあ、やっとのことでザキマをなんとか米軍から引き渡してもらったが、賠償金に口止め料に、ザキマの当面の生活費に」

愛用の電卓をパチパチと叩くガース長官。液晶画面の数字に目をむく。

「こ、こんなに使ったのか、また官房機密費が減ってしまう。オベッカちゃん開発やらオキナワ選のデマ流布やら、ネット工作までやったのに。すべて裏目に出た上に、台風24.4号による停電のせいで頼みの集計マシンも使えなかったし」

がっくりと頭を垂れる、ガース長官。

「これでも勝てないとは、やはりザキマが悪かったのか」

自分にも責任がーとは全く思っていないのか、ガース長官はザキマ氏の悪口をいいだした。

「やっぱりあいつは小物だった。キョーイク勅語をオキナワ中の幼稚園に広めるんだとか、会議ニッポンの勢力をオキナワで拡大とかいい加減なことを言いおって」

その大風呂敷に乗った自分の迂闊さを全く反省せず、ザキマ氏を非難し続けるガース長官。ひとしきり、罵ったあと、気が済んだのか、ガース長官は飲みかけの玉露に口をつけようと茶碗に手を伸ばした途端、

「た、大変です、ガース長官!」

副長官の一人ニシニシムラが部屋のドアを開けて叫んだ。

「な、なんだ」

っと長官は声に驚き、手が滑って茶碗を掴み損ねた。茶碗は机の上に転がり、玉露をぶちまけた。

「あああああ、最高級の私の玉露があああ」

頭を抱えつつ、またもや叫び顔になる長官。

「す、すみません」

恐縮するニシニシムラ。

「いや、こちらも取り乱してしまったな。お茶はまた淹れてもらえばいい。ところでなんだね」

「その、新閣僚シバケンヤマがさっそく失言を。“キョーイク勅語にも利点はあるんだ“と」

「なんだって、あいつが。最初は絶対ガタヤマだと思って、言い含めていたのに」

「しかし、長官、今回の新内閣は在庫一掃たたき売り閉店セール内閣とも揶揄され、だれが一番先に失言するかと海外でも話題になっていたらしいです」


そのころ、昔、大英帝国とかいってた国のパブ

「やったー、大穴だ、シバケンヤマがやったぞー。名前全然知らなかったけど、オッズ高かったから、ぶち込んでよかった」

喜んでビールジョッキを空にする髭面の男性。

「ち、ガダヤマが最初だと思ったんだが。やっぱニホンって国はわかんねえな。だが、まだ決まっちゃいねえ」

テーブルをはさんだ向かいに座った白髪交じりの茶色の髪の男性も苦い顔でビールをあおる。

「なんだよ、失言はもうあったろ。テレビでもやってるし」

「いや、辞任はまだだぜ。ブックマークでは、失言だけでなく、どのニホンの新閣僚が最初に辞任するかも賭けの対象になってたからな。もちろん、俺はそれにも賭けた。そのあとでヨネダがキタチョーセンと敵対し続けるべしとか言ったんで、ヨネダのオッズが下がったよ。まあ俺が賭けてるのはヨネダじゃなくてガースなんだが」

「でもよお、ヨネダとガースはアベノ総理のお気に入りだろ、シバケンヤマのが、辞めるのはやいんじゃねえか」

「そうとも限らねえ。なにしろ先のオキナワ選ででしゃばりすぎたせいでガース長官の責任問題になってるからな。シバケンヤマやヨネダやほかの奴を抑え、きっちりメディア統制できなければ辞めさせられるかもしれねえ。だいたいアイツは世襲じゃねえからな」

「ニホンでは議員は世襲かよ。まあうちにも女王陛下がいらっしゃるが」

「ほんとはいけないらしいんだが、ジコウはほとんど世襲だな」

「その割に品ないし、俺らみたいに訛りがあるみてえだな、アベノは」

「あれは訛りじゃねえ、間違ってんだよ、ニホン語が。まあ世襲ったって成り上がりの三代目、四代目の奴等だ。俺らの陛下みてえにロイヤルな教育ってえのを受けてねえんだろ」

「俺の孫でもよお、プログラミング教育っての受けて、賢くなっちまってんのにな」

「失言したシバケンヤマってのは、ボロ負けの大大ニホン帝国だかが採用したキョーイク勅語がいいとか言ったんだろ。負けたときの教育なんかやったら、また負けんだろうに。よくわかんねーなニホン人てのは」

そういって男性は白髪の目立つ茶の髪をかき上げた。


「で、長官、シバケンヤマ大臣の発言に対する、ご見解は」

マンゲツの短いが的確な質問。ガース長官は

「そ、その、すみません、私もよく把握してなくて。申し訳ありませんが、今夜の会見はこれで失礼します」

(あああああ、マンゲツに弱いところをみせてしまったああ)

逃げるように記者会見場を後にするガース長官。マンゲツ記者の冷たい視線が背中につきささる。

「ええい、総理や閣僚たちに用意した原稿を読ませるなどまどろっこしい。どうせ、その通りに読めないか、最後に余計なことを付け加えるのだ。こうなったら最後の手段だ」

部屋に戻るなり、ガース長官は叫んだ。

玉露を淹れた急須を落としそうになるニシニシムラ。

「ガース長官、い、一体、何を」

「新閣僚、いやアベノ総理も含めて声帯手術を行う。我々とAIが作成した文書を一字一句間違えずに答えられるように人工声帯をつければいい、そうすれば野党やマンゲツに追及されずにすむ」

今度はニシニシムラが両頬に手をあて、口を楕円形に開いた。

「そ、それはー、いくらなんでも、なんでもー」

「人道とか言ってる場合か、あいつらが好き勝手なことをいうたびに、私は共産ニッポンのシイノだの、タマギギのお仲間のヤマダノだの、マンゲツ記者だのにいちいち下らん言い訳をしなければならないのだ!」

それは閣僚たちを選んだ方にいってくださーい、と内心言い返すニシニシムラ。もちろんアベノ総理の批判など口にできるものではない。

「そうはいっても、人工声帯をどうやって取り付けるのです、アベノ総理や閣僚たちに」

「う、そ、それは」

確かに、彼らを説得して手術を受けさせるのは至難の業だ。理屈はわからず、身勝手。ガース長官らの苦労など理解しようなどという忖度はゼロ。もっともガース長官の言い分もかなり自分本位で彼らの体のことに配慮やら心配やらは皆無なのだが。

「では、どうすればいいのだ、原稿をただ読み上げるのでさえ、困難な人間の集まりだぞ」

ニシニシムラはムンクの叫びからロダンの考える人のポーズをとり、数分後

「ユーリーカ!マスクにスピーカーを仕込むというのはいかがでしょう」

右手のこぶしで左の手のひらをうつという、“ひらいめいた!”動作をした。

「マスク?マスクをさせるのか?」

「そうです、閣僚にマイクロスピーカー付きのマスクをかけさせ、こちらで各閣僚の音声を流すのです。彼らにはしゃべらせない。すべて長官と我々が発言をコントロールするのです。彼らには原稿を読み上げる代わりにAIが勝手にしゃべっているから黙っていてよいといえば納得するでしょう」

「それなら安上がりだ、早速やってみよう」

ガースの了承を得て、ニシニシムラは電話をかけ始めた。


『今回のオキナワ選をうけまして、地方再生のために我々は一層の努力を~』

“ガタヤマ議員にしては大人しい演説だな、風邪ひいたからか、マスクしてるし”

“ちょっと声変わってるな、のどきついのかねえ”

臨時国会初日、ガタヤマ新地方創生大臣が就任演説を行っていた。

それに耳を傾ける議員たち。

自席で、その様子を眺めるガース長官は満足げに頷いた。

(ふふふ、うまくいったな。マスクをかけるだけで勝手にAIが喋るから楽ですよーと言い聞かせておいたからな。総理も大臣も失敗した姿などみられたくないだろうし。まあ野党どもが怪しむ可能性も…、ん?)

ガタヤマ議員が急に下をむいた。

「どうしたんだ」

「でも普通にしゃべってるぞ」

議会中がざわめきだした。

「もう、いいわ」

ガタヤマ大臣がいきなりマスクをかなぐりすてて、しゃべりだす。

「だからね、そんなことだから地方は貧しいんですよ、きっちり中央の言うことを聞いて、指示をきちんとこなせばいいんです。そうすればちゃんとお金が回るんです!」

「ガタヤマ大臣、大臣、」

ニシニシムラ副長官が傍により、注意しようとするが、ガタヤマ大臣はそれをはねのけ

「失言だろうが、なんだろうが、私は私の言葉でしゃべるわ。口パクなんて、バカのすることよ!」

声高に叫ぶ。

いや、それ、今バラしたら貴女もウマシカ。

思わず突っ込みをいれたくなるニシニシムラだが、ガタヤマ大臣は弾丸のごとく喋りまくる。

「私はね、地方のためにね、いろいろ考えていますよ、だから自治体はきっちり書類を確認して言い訳せずにやっていただきたいんです、それから…」

と、地方に対して上から目線すぎる台詞を次々繰り出すガタヤマ大臣。野党議員だけでなくジコウ党議員からも冷ややかな視線が彼女に向けられた。

(やはり自信過剰で目立ちたがりのガタヤマに大人しくAIが話すのにまかせろというのは無理だったか。しかし、これが終わった後記者会見、マ、マンゲツが待ち構えている~)

ガース長官は思わず左手で胃のあたりを抑え

(ぎょ、玉露を、私に玉露をー)

声にならない叫びをあげた。


犬の無駄吠えをなくす首輪というのはありますが、人の失言をなくすのは本人の自覚と注意以外なかなかないようで。



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