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0-2話

 




「これか。」



 今、私の目の前には『タイムトラベラー ~君もいっちょ飛んじゃいなよ(^_-)-☆~』というふざけた張り紙が貼られた一見棺桶のような機械がその存在感をあらわにしていた。


 あの後アランと別れた私は人々の集落へ行きトールに一発腹パンをぶち込んだ後、人々にしばらく姿を消す旨を伝えた。

 その時の皆の取り乱し様といったら世界の終わりが来たのかとでも言わんばかりのものだった。

 嘘だと小声で連呼するもの、私に冗談ですよね? と縋り付いてくるもの、ただただ泣き叫ぶもの。まさに地獄絵図だった。

 正直に言おう。ドン引きした。


 その光景を見た私はこの判断は間違っていなかったと再認識したな。

 私がしばらく姿を消すといっただけでこの様子なのだ。今まで人々がいかに自分に依存していたのか丸わかりだ。

 このまま私が居続けると本当に人類は私がいないと生きられない体になってしまう。


 そう思った私はすぐさまその場を離れ、この『オリュンポスの塔』へとたどり着いた。


 ここは私が100歳くらいの頃に建設した私の家だ。

 絶海にポツリと浮かぶ塔であり、その高さは天を貫くほど。

 辺りには防御結界が貼ってあり、私以外のものは私が許可しない限り永遠にこの塔にはたどり着けないようになっている。例え転移魔法であっても。

 私が許可を出した人は私が信頼を置く人物だけであるため、守りの面はこの世界でも屈指といってもいいだろう。

 数ある私の作品の中でもなかなかの出来だと自負している。


 その塔の頂上、雲を貫いたその先に私の寝室が存在する。

 あるとしたらここだろうと思い向かってみるとドンピシャ。寝室のど真ん中にその機械は鎮座していた。


 これに入って眠ると、あっというまに何年も時間が経っている訳か。

 これまたトールもなかなか面白いものを作るじゃないか。こと魔導機械の分野に関してはその発想力と実行力たるや私以上だな。


 さて。

 これに入ることは決めたのだが、何年くらい入っておこうかな。


 何年、何十年程度じゃあまり入る意味はないだろう。

 たったそれだけの年月でこの世界が劇的に変化することなんてまずない。

 もっと、外の世界が私の知らないもので満ちあふれているような環境にしたほうが面白味があっていい。

 となると何百年、いやいっそ何千年ぐらい眠ってしまおうか。


 ……うん。

 決めた。1万年にしよう。

 もういっそそれぐらいの年月にしてしまえば世界はまさに別のものといってもいいくらい変化するだろう。

 世界を一度知り尽くした私でさえ知らないものだらけの世界。

 想像するだけでゾクゾクするではないか。


 見たことのない植物、動物。国や技術。

 なによりそれだけ時間が経てば私以外のものが何か新しい魔法を発案するかもしれない。

 私が知らない魔法。考えるだけでわくわくが止まらない。


 では早速始めようか。

 これは……どこをどうすればいいのだろうか。

 こういう時にトールの悪い癖である『説明書を作らない』ことに文句を言いたくなる。

 設計者たるもの説明書ぐらい作っておけよ全く。


 とりあえず機械のどこかに何かないか触っていると、あの破り捨てたくなるような張り紙の裏に不自然なボタンを発見した。

 不審に思うものの他には何もなかったためそのボタンを押してみた。

 すると、その機械から魔法陣が浮かび上がった。


 これは……この機械にかかっている魔法か。

 魔法の種類は『時空間魔法』だな。

 よく見ると、魔法陣の一部が不自然な形で欠落している。

 なるほど。この魔法陣の欠落している部分に何年眠るかの設定を書き込むわけか。


 私がその魔法陣の欠落している部分に『1万年』と書き込むと、魔法陣が機械の中に吸い込まれていった。

 魔法陣が機械に吸収されたと思った次の瞬間、機械の上の部分が勢いよく開いた。

 なるほどな。魔法陣に書き込むことによって入口が開く仕掛けになっていたわけか。


 私が機械の中に入ると、先ほどまで開いていた入口の部分が勢いよく閉じた。

 ふむふむ。後はこれで眠るだけということか。


 不思議と不安はなかった。

 それどころか初めて魔力を発見した時のような高揚感で私の心は満たされていた。

 1万年後の世界。想像もつかない。

 どんなものがあるのだろうか。

 少なくとも今のような圧倒的な退屈感を味わうことはなさそうだ。


 そう考えていると、突然の眠気が私を襲った。

 これで寝て覚めれば1万年後の世界ということだ。

 ああ、楽しみだ。どんな世界が私を待っているのか。


 そして私は深い、深い眠りについた。




 * * * * *



「あ。」


「ん? どうした? トールの旦那よ。」


「いや、どうでもいいことなんだがな。」


「ああ。」


「アストラッテにあの機械の説明するの忘れてたなって。」


「なんだ、そんなことか。まああいつなら大丈夫だろ。どうせすぐに使い方ぐらい理解するって。」


「まあ普通ならそうなんだが。あの機械にちょっと面白い仕掛けをつけてたのを今の今まで忘れててな。」


「面白い仕組み?」


「いや、あの機械、眠る年月は自分で決めれる仕組みなんだがな。」


「ふーん。」


「実はその設定する魔法陣以外にも別の魔法陣を隠して組み込んでいてな。」


「そうなのか。その隠した魔法陣って何なんだ?」


「『増幅魔法陣』っつってな。魔導機械にだけ使うことの出来る魔法陣なんだが。」


「へぇ。そんな魔法陣があったのか。」


「その魔法陣の効果が『別の魔法陣の効果を増幅させる』ってやつなんだわ。」


「ふんふん。」


「で、その魔法陣の増幅倍率なんだが。」


「ああ。」


「『10倍』なんだわ。」


「へ?」


「つまり、魔法陣の効果を10倍にする増幅魔法陣を組み込んでるってわけだ。」


「あー……つまり?」


「つまり、あの機械は『設定した年月の10倍眠ってしまう』ってことだ。」


「……おいおい。」


「いやあ10倍増幅魔法陣を組み込んだらとても美しい造形になってな。つい、な。」


「……多分ぶちぎれるぞあいつ。」


「ま、そんだけだ。」


「説明に行った方がいいと思うんだが。」


「大丈夫大丈夫。いくらあいつでも書きこんだとして数百年くらいだろ? 数百年か数千年かなんて誤差だよ誤差。」


「だいぶ結構な差だと思うが……。」


「大丈夫だって。心配性だねえお前さんは。」


「……もしあいつが数千年とか……数万年とかいう数字を書きこんでた場合は?」


「そりゃあもちろんその十倍寝続けるってことだな。」


「その差はなかなかにやばいと思うんだが。」


「さすがにそんな年月書きこむ馬鹿はいねえだろ。」


「そ、そうか。」


「それにどうせあの機械は一度起動しちまったらどんな手段でも止めることは出来ねえんだ。今更行っても無駄無駄。」


「……。」


「悪かったな、変な話で作業を中断させちまって。さ、再開再開。」


「あ、ああ。」




「考えすぎだったか……?」




もう少し学園と関係ない話が続きますが絶対に学園に持っていきますので。

楽しみにしている方には申し訳ないですがもう少しお付き合いください

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