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はじまりの夜

 

 魔法という言葉を聞けば、人は何を思い出すだろうか。恐らく、小さい頃に読み聞かされた不思議な力を使って、空を飛んだりする魔法使い、黒猫や(からす)を連れた魔女などを思い浮かべるかもしれない。


 それが汽車や自動車、電話といった文明の利器が発達した世界にいまだに残っていると一般人が聞けば、何をおとぎ話みたいなことを言っているのだと笑われるに決まっている。


 しかし、古代の時代から実際に魔法は存在しており、ひっそりと現代社会の中で一つの文明として生き残っていた。


 魔力と呼ばれる内なる力を使って、常人では起こせない摩訶不思議(まかふしぎ)な現象を実現させる力。それを用いて、密かに活動し続ける組織があった。


 組織の人間達は己の力を使い、今日も夜に潜めく影のように動き回っている――。




・・・・・・・・・・・・・



「……へっくしゅん!」


 地上からだと鳥にしか見えない影の上に乗っていたアリノアは盛大にくしゃみした。


 今は九月中旬。少しずつ涼しくなってくる季節だが夜中の、しかも地面から遠く離れた上空の空気は想像していたものとは違っていたわけで、あまりの寒さに鼻水が出てしまいそうだ。


「もう~。そんなに薄着だと風邪を引くって言ったじゃないかぁ~」


 上着を着なよって言ったのにと自分の足元から不貞腐(ふてくさ)れた声を上げるのは相棒のノティルだ。

 今は大鷲のような姿に変化しているが、れっきとした使い魔であり、影魔(えいま)と呼ばれる魔物である。

 その名の通り影のように真っ黒く、主人である自分の影から生まれ、契約した使い魔なのだ。


「はいはい、分かっているわよ。でも、どうせ校舎の中に入るんだから、動きやすい服装の方がいいでしょ」


 口を尖らせながら答えるが、それでも強がらなければ良かったと少々後悔はしている。


「だけどさぁ、魔法で防御出来るからって、薄着はどうかと思うんだ。もう少し、魔具(まぐ)で装備を固めた方が良いんじゃないの?」


「また、今度ねー」


 毎回の小言を軽く受け流しつつ、アリノアは前を見つめる。


「着地は学園の屋上でいいんだよね?」


「うん。鍵は開いているはずだから」


 自分達が今、目指している場所はセントリア学園という学校だ。鍵が開いていなくても魔法で一時的に開ければいいだけだが、開いている方が余計な魔力を使わずに済む。


「それじゃあ、しっかり掴まって。急降下するよー」


 ノティルの言葉に従い、彼の身体にしがみ付く。ぐいっと、身体が落ちるような感覚が身体を巡るが、本当に落ちたとしてもノティルが拾ってくれると分かっているので安全なのだ。


「っ……」


 冷めた空気が一気に身体の横を吹き抜けていき、空気抵抗がなくなったのか、自分の身体に突然自由が戻って来る。学園の屋上に無事に着地したらしい。


「はい、到着~」


「ありがとう、ノティル」


 アリノアはノティルの上からすっと飛び降りて、コンクリートの床へと足を着地させる。途端に大鷲の姿をしていた影がしゅっと小さいものへと縮まり、今度は猫へと変化した。


「ふぁぁ……。眠いなぁ。早く終わらせて帰ろうよー」


「そうね。……じゃあ、行きましょうか」


 腰に下げていた仕事道具でもある魔具の短剣をすっと抜いて、アリノアは屋上の出入り口の扉にそっと手をかけた。



・・・・・・・・・・・・・


 アリノアが住んでいるイグノラント王国には遥か昔からとある組織が存在している。


 魔法使い達で構成されている組織、「嘆きの夜明け団」は魔法を用いて悪質な魔法や人を襲う魔物から民衆を守るための秘密組織として活動していた。


 この嘆きの夜明け団は裏舞台に存在している国家組織の一つであるため、国から正式に認められている魔法を専門とした研究機関でもあった。


 もちろん、現代の人々にとっては魔法も魔物もおとぎ話の存在だが、人の世が発展していくと共に人それぞれが抱える闇は深くなり、それを食らう魔物は途切れることなく、生き続けて来た。


 人を襲う魔物とは別に「呪魔(じゅま)」と呼ばれる存在も同時に生まれていた。

 呪魔とは人に呪いをかけたことで生まれる魔物だ。その意志はただ一つ、呪いを遂行させるためだけにあり、実際に呪いにかかった者の中には命を奪われた者もいるほどだ。


 アリノアが所属している呪術(じゅじゅつ)課ではそれを夜な夜な取り締まり、呪魔を斬るか、使い魔に食べさせることで呪魔が増え続けることを規制している。

 小さな呪魔でも放置し続けると空気が淀み、人への影響が大きくなるため、欠かすことは出来ないのだ。


 嘆きの夜明け団には呪術課の他に、魔法課や魔物討伐課などがあるが、アリノアが所属しているこの課は比較的に影が薄い存在であり、所属人数も少数で何とか成り立っている状態だ。


 たまに他の課の人間から馬鹿にされるような事を言われれば、アリノアは進んで喧嘩を買っているため、課長であるサリチェ・ソワールによく怒られていた。



 アリノアにとっては誇りある仕事だ。誰にどんなことを言われても、任務を完遂させる覚悟はしっかりと持って取り組んでいた。



    



この度、「呪魔狩りと夜凪の王子」の連載を始めました。


この物語は「真紅の破壊者と黒の咎人」https://ncode.syosetu.com/n6178dn/ から約100年後くらいが舞台のお話となっております。


魔法使いの少女と王子が描く物語、どうぞ宜しくお願い致します。

   


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