9話 アルバ
アルバは先日、とあることを思い出した。
あの時ラックベルタは、結婚の申し込みに行った相手の名をシルキーとよばなかったか?と。
えと、シルキーって、そこにいるシルキーさんのこと?
けれどそれにしては、シルキーはラックベルタのことを知己の存在として認めていないよね?
ラックベルタが一方的にシルキーを知っていただけ?
……あるかもしれない。
いやいや。ラックベルタを尊敬してついてきた身としては、そこはできたら否定したい。
だからアルバはたずねることにした。一縷の望みをかけて。勇気を振り絞って。
アルバは脳内でシュミレーションをする。
『私、あんまり顔に出ないけど、ラックベルタのことずっと好きだったんだ♡』
……うん、無理があるな。全くそんな気配なし、と。
いやいや、気を取り戻して。
『シルキーさんって、ラックベルタのこと、どう思ってます?』
聞こうとして、廊下を曲がってくるラックベルタに気がついた。
とっさに
「シルキーさんって、好きな人とかいるんですか?」
と言葉を変えたのがいけなかった、のか?
「ア"〜ル"〜バ〜?何お前、シルキーに手出そうとかしてんだ〜あ"ぁ?」
シルキーのことならどんなことでも知っていたい、ラックベルタの耳は地獄耳♡
あ、俺死ぬかもしれない。
いろいろ覚悟したアルバを救ったのは、シルキーだった。
「あ、そういうの興味無いんで」
けれど、顔面から一気に表情が削ぎ落とされたラックベルタは怖かった。
仕事があるからと、足早に立ち去ったシルキーの後ろ姿を眺めながら、あまりにも憔悴しているラックベルタを見やる。
「ずっと不思議だったんですけど、ラックベルタとシルキーさんって知り合いですか?」
「生まれた時からずっと一緒にいた幼馴染みだよ」
顔が死んだままのラックベルタがぼそりと答える。
……思ってた以上に濃い関係だった。
そして、シルキーは求婚した相手に間違いなかったようだ。
だがしかし、もう一度確認しよう、念のため。
「ラックベルタの思い違い、とかではなく?」
だって、本当にそうだったらあんな感じになる?普通って。よく似た他人ってこともあるよね。
「学校を卒業して2年ちょっと会ってなかったけど、れっきとした幼馴染みだよ。毎日一緒にいたんだ。顔も声も匂いも、間違えるわけがない」
そっか、ちょっと怖いな。もしかしたら、そういうところがダメだったとか。
「じゃあ、もともとラックベルタのことが迷惑だったか、その2年の間にラックベルタのことどうでもよくなったか、かな」
ぐ、ぐるじい。首折れる。
「そんなことないもん!」
城騎士の中でも、がたいのいい方に入るイケメンの大男が、『もん!』とか言って乙女走りで走り去ったっていった。
呆然としていたアルバだったが、ふと思った。
このままラックベルタの恋が成就しなかった場合どうなるのか、と。
砦に来る前のラックベルタを思い出し、身体が震える。
あの状態のラックベルタと一緒に仕事。
できれば御免被りたい。
顔色をさ〜っと落としたアルバは、城騎士達のところに慌てて走り出す。
ラックベルタ♡シルキーの作戦会議をするために。
以降、砦内はシルキーに対して生優しい笑顔を向ける使用人で溢れることになった。